022.Endless
今週分は、前後の繋がりの関係で短めです。
初対面の二人であるが、不思議な相性の良さを見せていた。
ミーナは本心からテミが作ったチョコレートが好きであり、否定的な事は全く言わない。
だが過剰に褒め称えるのでは無く、試作品に対して的確な感想を返すので短時間でテミの信頼を得たのであろう。
膝を突き合わせた距離で目線を合わせている二人を見て、クリハラは思わず呟いている。
「ああ、なるほど。
貴方達、とっても雰囲気が似てるのね」
「???」
テミは首を傾げているので、まだニホン語を十分に習得していないのかも知れないが。
「そうでしょうか。私にはテミさんみたいな、すごい才能はありませんけど」
「自分の事はよく分からないものよ。
アキラは、きっとそうは思っていないでしょうね」
☆
数日後のアキラの自宅。
前触れなく自宅に招待したテミを、ミーナはアキラに紹介している。
ここ最近はノエルの家族や学園関係者が夕食に来るのが恒例になっているので、予定外のゲストがあっても何の問題も無い。
「最近仲良くなったテミちゃんです。
あのビストロのチョレートも作っている、すごいショコラティエです」
口数が少ないながらも笑顔で歓待しているアキラは、初対面のテミについてキャスパーから既に情報を仕入れているようだ。また偶然同席したティアも、Tokyoオフィスですでに彼女と会ったことがあるようだ。小さく会釈しただけで言葉を発していないのは、食事前のおしゃべりを控えているのであろう。
テミは大皿が並んでいるテーブルや5升炊炊飯ジャーを見てかなり驚いていたが、食べ始めると表情が変わる。どんぶりを片手にご飯をかっこむ姿は、まるでフードファイターのような勢いである。
青菜や蜆の炒めものから餃子や卵炒めまで満遍なく口にして、実に幸せそうな表情である。
『ふぁぁぁ。
こんなに温かい食事、ひさしぶり!』
銀河標準語で呟いたテミの一言に、アキラがとても嬉しそうだ。
『満足するまで、いっぱい食べてね』
流暢な銀河標準語で返したアキラは、同じテーブルで食事をしているティアと顔を合わせ……笑みを浮かべている。
「テミはほぼ毎日、コンビニ弁当だけで過ごしているから」
クリハラとは一緒に外食する事もあるが、どうやら人が多い繁盛店は苦手らしい。
テミのご飯やおかずの配膳をミーナが甲斐甲斐しくお世話しているのは、二人の関係が自然な形で深まっているからであろう。
「彼女は昔の私と同じで、集中すると周りが見えなくなる。
世話焼きのミーナと出会えたのは、ラッキーかも知れない」
⁎⁎⁎⁎⁎⁎
「食事はどうだった?」
食後のジェラートを配膳しながら、アキラがテミに尋ねている。
「うん!清々しい味で、とっても美味しかった!
久々に満腹になるまで、堪能した!」
人見知りの筈の彼女ではあるが、初対面のアキラはその対象には含まれていないようだ。
「美味しそうに食べてくれると、作った方もとっても嬉しいよね」
「コンビニの弁当は悪くないけど、味に心が籠もってないから。
作り手の気持ちが籠もった食事は、食べると心まで満たされる!」
「ああ、だからテミちゃんが作るチョコレートは、あんなに美味しいんだ。
なんか食べると、幸せな気分になるのよね」
「ねぇ聞いても良い?
なんでケイローンの貴方が、食事の用意をしているの?」
バナナのジェラートを頬張りながら、彼女は心底不思議がっている。彼女の常識では、たとえ若年であってもケイローンが食事の支度をするなど考えられない事態なのであろう。
「テミが誰からショコラティエの技術を教わったのかは分からないけど、美味しく食べてもらうのが基本だよね?」
「うん。私の教わったマスターは、自分が感動する味を作りなさいっていつも言ってた」
「僕も初めて師匠の料理を食べて感動したから、まずこの惑星の調理技術を身につけようと思ったんだ。当時はニホン語も満足に話せなかったけどね」
「それに大切な人の為にバランスの取れた食事を用意するのは、当たり前でしょ。
ミーナは当時は栄養が足りなかったから、料理を頑張って覚えたんだ」
テーブルで食事中だったミーナは、下を向いて動きを止めている。
下を向いているが、耳まで赤くなっているのが丸わかりである。
お読みいただきありがとうございます。