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019.Even At My Worst

「この子はうちのピートと違って寂しがりやだから、ちゃんと愛情を掛けてやらないとね」


 二人の足元に寄り添っていたリッキーは、ソファに一瞬でよじ登りアキラの太ももに顎を乗せている。普段は絶対に見られない、甘えたような仕草である。


「躰は大きいですけど、まだ2歳くらいですかね」

 リッキーはアキラの太腿に、躰をよじりながらもグリグリと頭をこすりつけている。

 

「それにしても、アキラとリッキーは気が合うんだね

 こんなに甘えた様子を、初めて見たかも」


 ユウはサザンカンフォートを静かに傾けながら、心底驚いたという表情をしている。


「この惑星のアウトローとして、似た者同士ですから。

 同じような境遇だって、本能で分かるんでしょうね」


 アキラはユウが持参したジャーキーを、手づからリッキーに与える。

 プライドが高い彼女が、甘えているのと同様に人から直接給餌されているのは見たことが無い。


「これは自家製ですか?

 ほとんど味が付いていないようですね」


「これはシン君のお手製で、ピートの好物なんだ。

 彼女は普通の猫として生きた記憶があるから、食べ物も昔の習慣で薄味のものを好むし」


「なるほど。

 リッキーも薄味好みなのは、ピートの好みに引きずられたんでしょうね」

 ノエルの不在時には一緒に居る事が多かったピートとリッキーは、まるで姉妹のような関係性なのである。


「彼女の様子を見て、肩の荷が降りた気分だわ。

 ノエル君が留守でも、これからは大丈夫ね」



                 ☆


 

 数日後の夜半。


「最近は、断れない重要案件が多くてさ」

 漸く帰宅して手土産を持参したノエルは、アキラに対していきなり愚痴っぽい話し方をしている。

 ちなみにセーラもティアも就寝後なので、リビングには出て来ない。


「ああ、他に適任が居ないってこと?」

 ノエル好みのIPAビールを冷蔵庫から出しながら、アキラは会話を続けている。


「そう。良く分からないけど、そういう案件が僕に集中するんだよね」


「なるほど、テスト・パイロット絡みの案件なんだ。

 まぁノエルの場合は、過酷な条件から絶対に生還できるっていう信用があるしね」

 ノエルを指名した案件が多いのは、実は裏でささやかれている複数の噂にも原因があるのだが本人は知る由もない。


「そうかなぁ。

 割と平凡な『日常』で育ってきたと思うんだけど」


師匠(シンさん)とかノエルは、経験値が並じゃないから。

 特にノエルは、普通なら何度も死んでる目に遭ってきたでしょ」


「まぁ普通じゃない環境で育ってきたけど、本人としては自覚が無いんだよね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「そうだ。ちょっと遠出する用事があるんだけど、アキラも気晴らしに同行しない?」


「もしかして欧州?あんまり行きたくないなぁ」

 未だに内戦が続いている中東には、ノエルの昔の同僚たちが未だに常駐している。

 傭兵としては完全に引退したと納得しているメンバーはノエルに助けを求める事は無いが、ノエルは情勢について未だに注視している。


「ははは。日帰りで車で行ける場所だよ。

 僕が運転するから移動中は寝てても大丈夫だし」



                 ☆



 抜けるような青空の下。

 私立高校にしては立派な設備の中で、大勢の部員が練習に励んでいる。


「トーキョーより、南の方へ初めて来たなぁ。

 良く知らないけど、彼らは昔ながらの高校球児って言って良いのかな?」


「うん。コーシエン常連の名門校だしね。

 でもアキラの慧眼を持ってしても、なぜここまで来たのか分からないよね」


 ノエルとアキラの二人は、傍目に見ると野球マニアの大学生アベックに見えるかも知れない。

 プロ球団のスカウトやマスコミ関係者は、平日にも関わらず物見遊山している二人を胡散臭い視線で見ているが、自分たちも同じ部外者であるので余計な口出しは控えているようだ。


「ノエルが高校野球好きだとは聞いた事が無いよね。

 入国管理局絡みなら、他の惑星からの移住者の学生さんが居るの?」

 練習グラウンドの周辺は立入禁止になっていないので、選手の表情までしっかりと認識できる。


「練習している球児の一員である彼は、この惑星生まれだからね。

 入国管理局の規定には、全く抵触しないんだ」


「それは羨ましいというか、複雑だなぁ

 でもそれなら、監視する必要が無い人なんでしょ」


「彼は両親を亡くして係累が居ないから、プロメテウスの隣人として個人的に気にかけてるんだ。

 出自は普通の人達と一緒だから、スポーツ選手として頭角を表す事が出来るかは本人と運次第だよね」


 ここでノエルの視線は、バッティング練習をしている均整の取れた大型の選手に向かっている。

 どうやらノエルのお目当ての人物は、プロのスカウトも注目している有望株なのであろう。


 金属バット特有の打撃音が繰り返し響き渡り、スカウト達の視線が更に熱くなっていく。

 野球に関する知識が乏しいアキラにも、彼が頭一つ抜け出た存在であるのはすぐに理解できる光景である。


「同じプロがあるスポーツなら他にもいろいろあるのに、何で野球なのかなぁ?」


「ああそれは、亡くなった両親が一番好きだったスポーツが野球だったという事らしいよ」

お読みいただきありがとうございます。

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