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014.Faithful To The End

「なぁ、あんな可愛い子うちのクラスに居たっけ?」


「ああ、あれ、エンガチョのミーナだよ」


「うわぁ、マジ?

 あの転校生が来てから、すげぇ変わったなぁ」


「ほとんど別人だけど、女子の間ではやっぱり敬遠されてるんだよな」


「えっ何で?」


「今は逆に、リア充すぎるんだろうなぁ。

 相方になったアキラは良い所のボンボンらしくて、タワマンで一人暮らししてるらしいし」


「一説によると、ミーナは母親の同意の上に、アキラと一緒に住んでるらしいぜ」


「……持たざる者の僻みと言われても、あいつらとは仲良くしたくないな」


「当然しょ」


                 ☆



 嫌われること、疎まれることには慣れている。

 小さい頃から友達は居なかったし、学校でも本当の友人と言える相手は誰も居ない。

 だがアキラと出会ってから、ミーナの生活は大きく変わった。


 初めは担任教師に請われるままに、お世話をしていただけだった。

 驚くほどのスピードで彼がニホン語を習得すると、いつしか私は世話を焼く側から焼かれる側に立場が変わっていった。

 打算も損得も無く、無条件で信頼してくれる相手。

 優しい眼差しは、肉親からも注がれることがなかった愛情を感じさせてくれる。


 髪型を変えて身だしなみに気を使うようになってからも、彼女が疎まれているのは変わらない。

 今や彼女は同級生から嫉妬や羨望される存在になっているが、ベクトルが変われど忌避の対象になっているのは同じなのである。


 そんな中、アキラは学校でのミーナの様子をいつも注視している。

 放課後のアルバイト先や商店街での彼女の様子と違って、学校での彼女の表情は硬い。

 話しかけたい様子の生徒は居るが、周囲の目を気にして躊躇ってしまっているようだ。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 とある日のアキラのマンション。

 訪ねて来たキャスパーは、ちょうど夕食時だったので当然のようにお呼ばれしている。


「うわぁ腕を上げたね。

 シン君が作ったのと、見分けがつかないや」


 健啖家なキャスパーは取り分けた料理をモリモリと食べていたが、並んだ皿に紛れていたジャンル違いの小皿を見つけて突然手を止める。

 

「ねぇ、この場違いな赤身はどうしたの?

 タイワン料理にはこんなのは無いよね?」


 他ならぬ彼女の大好物であるマグロの刺し身は、切りたてらしくじつに艶々として見える。

 ユウが調理したならば凝った『あしらい』が施されるだろうが、皿の上には本わさび以外には何も飾られていないので実にシンプルに見える。


「キャスパーさんが来るちょっと前に、ユウさんが(さく)を届けてくれました。

 大好物だから、切りつけて出してあげてって」


「……普段はこんなに気を使わないのに。ユウもアキラを気に掛けてるんだね」


「そういうキャスパーさんも、食事を口実に様子を見に来てくれたんですよね?」


「そりゃ私はアキラの保護者だから。

 アキラ個人の評判はすごく良いんだけど、担任の教師に目の敵にされてるんでしょ?

 それでミーナちゃんがとばっちりを受けてるんじゃないか、心配なんだ」


 アキラからの目線を受けたミーナは、特に気負った感じも無く静かに口を開く。


「私は慣れてるんで、クラスメートから無視される事は気になりません。

 それに陰湿な事をする生徒は居ないので……」


「まぁ進学校だから、個人的なストレスを同級生に向けて発散する生徒は居ないのかもね。

 素行が悪いと、内申にも響いてくるし」


「商店街の皆さんや、校外の人たちは良くしてくれますし。

 それに今は……」


「うわぁ、食事以外で満腹になっちゃったかも。

 ご馳走さま!」


                 ☆



 数日後。

 待ち合わせたアキラとノエルは、商店街の居酒屋に来ていた。


 二人は列記とした現役高校生ではあるが、身分証明書の年齢は便宜上二十歳と記載されている。

 もっとも大人びた雰囲気の二人は、社会人のカップル?にしか見えないのであるが。


「こうやって一緒に食事をするのも、久しぶりだよね。

 お姉さん、とりあえず生中2つで!」


 ノエルは常連なのか、店員さんとは顔なじみのようである。


「ノエルがサシ飲みに誘ってくれるなんて、珍しいですね」


「サシ飲みって……今更ながらニホン語の習熟度が高いね。

 さすがミーナちゃんと一緒に、暮らしているだけはあるかな」


 とりあえずの生は、グラスも過剰に冷えていてアキラは目を白黒させている。

 居酒屋に来た経験が少ないので、些細な点も新鮮なのであろう。


「大将、今日はつまみはおまかせで。

 うん、好き嫌いは無いから黒板メニュー中心で大丈夫!」

 カウンターに顔を出した店長らしき人物に、ノエルは気軽にお願いする。


 こういった場面でも反感を持たれないのは、彼の人徳というか外見のお陰なのであろう。


 アキラはビールで喉を潤しながら、お通しのつぶ貝を美味しそうに食べている。

 おまかせでお願いしたので、テーブルの上には刺し身の盛り合わせと共に皿がどんどんと運ばれてくる。


「ユウさんにも料理を習ってるんだって?

 どの料理も、全く抵抗が無いみたいだね」


 ニホン料理主体の居酒屋であるが、大将の趣味なのかブルスケッタなどの変わったメニューも並んでいる。

 アキラは尋ねる事も無しに口にしているが、どのメニューに対してもとても満足そうである。


「どれも味が濃いめで、とってもお酒に合いますね。

 ノエル、オススメの日本酒はありますか?」


「う〜ん、それならね……」


 他愛無い雑談で、酒宴は盛り上がっていく。

 もっとも傍目では、二人は若々しい食いしんぼカップルにしか見えないのであるが。


お読みいただきありがとうございます。

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