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013.Rise Up

 アルバイト先のジム。


「ああっ!

 ミーナちゃんが出来るのに、なんで俺には出来ないのかなぁ!」


 一般会員としてミーナと一緒に体を動かしながら、那須山は嘆きの声を上げている。

 教えられた武道の型をなぞるような動きは数ヶ月前から続けているが、何の成果も上がっていないのである。


 ミーナが手を伸ばした瞬間、空間が歪むように霞んで見える。

 その掌から圧縮された何かが放出されている様子は、那須山には全く実現できていないのである。


「あの……『天津飯』さん、気を落とさずに」


「そうそうふっくらした蟹玉を甘酢あんが包み込んで……

 おいっ俺は『天津飯』ちゃうわ!」


「ふん、関西人の癖に、ノリツッコミはイマイチだな。

 まぁ口ほどには、奴は気落ちしてないようだけど」


 ここで二人を遠目に眺めているアキラが、会長に解説する。


「発勁は長く学んだから出来るようになるんじゃなくて、ある日突然出来るようになるんですよ」


「それじゃいくら鍛錬しても、出来ない奴が居るって訳か?」

 ここで会長が那須山を見る目が、憐憫の情が入ったものに変わって……いなかったのは彼の日頃の行いの所為であろう。


「いえ。出来るようになる期間が、個人差があるという事ですね。

 僕は(この惑星では)ミーナ以外に教えた事が無いので、詳しくはわかりませんけど」


「それでミーナちゃんはどれ位で、出来るようになったの?」


「ほんの数日じゃないですかね」


「うわぁ那須山が聞いたら、さらに落ち込みそうだな」


「でも発勁に繋がらなくても、パンチ力は大幅に底上げされてますから」


「そうだな。練習嫌いで素質だけでやってきた奴が、ニホンチャンプになれたのは奇跡に近いかも」


「ボクサーは体重制限がありますから、筋肉量を無理矢理増やさないで効率的に使えるのが一番ですからね。それにもし発勁でKOしたら、大事になりそうな気がしますけど」


「???」


「違法グローブとか、筋肉増強剤の使用とか、潰すつもりで嫌疑を掛けられると切りがないですからね」


「いやそんな事は……でも今の協会の体質だと、あり得ないとは言えないな」



                 ☆


 

 数日後、Tokyoオフィスのキッチン。


 シンの中華料理の弟子でもあるアキラは、料理の研鑽のために今でも定期的に教えを乞うている。

 その姉貴分にあたるユウにニホン料理の基礎を教わる事が出来るのは、実にラッキーな巡り合わせである。本日はミーナは不在であるが、雑談をしながらも揚げ物の基礎技術の教授がしっかりと続いている。


「やっぱり若いから、アキラもフライ物が好きなのかな?」


「僕よりもミーナの方が好きかも知れません。最近は自宅でもカツカレーを食べたがりますし」


「へえっ、それは意外かも」


「ユウさんのレトルトカレーが手に入るようになったんで、商店街の肉屋さんのロースカツとの組み合わせですかね」


「ああ、あの肉屋さんのお惣菜、とっても美味しいよね。

 じゃぁ無理に教えなくても良かったかな?」


「いいえ。やはりニホン料理も基本を堅実に学びたいと思います。

 料理というのは文化の根源を成す部分ですから、いい加減には出来ませんよ」


「アキラはうちのメンバーと同じで、手抜きが出来ないタイプなんだね。

 だから皆に好かれるんだろうなぁ」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 出来上がったトンカツの試食を兼ねて、Tokyoオフィスでは昼食の時間である。

 今日はほとんどのメンバーが所用で不在なので、マリー以外のメンバーは誰も居ない。


「揚げ物、独り占め♪出来るのが嬉しい」

 大皿には基本のロースだけでは無く、フィレやチーズを挟んだ変わり種などバリエーション豊富なカツが並んでいる。


「この汁物、具だくさんで美味しいですね」


「豚汁は朝大量に仕込んだ余りだから、お代わりもできるよ」


「どのトンカツもとっても美味しい!

 試作とは思えない出来栄え」


「マリーもそう思うでしょ?

 アキラは優秀な生徒だから、手間が掛からないで助かるよ」


「これで自信を持って、ミーナに揚げ物を出せますよ。

 彼女は運動量が多いから、気をつけてないと体重が落ち気味なんで」


「ミーナは良い旦那を見つけて、実に果報者」


「『果報者』?、ああそれは僕の方ですよ。

 彼女に巡り会えたのは、ラッキーとしか言いようがありませんから」


「「ご馳走様」」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 雑談は続く。


「一般会員のプロボクサーって、随分と厄介な教え子だよね。

 でその人って、世界チャンプになれそうな逸材なの?」


「可能性はあると思いますけど、あとは『運』じゃないでしょうか」

 

「アキラが『運』って言葉を使うと、説得力がある!」

 マリーはいつものジェラートを、バルクから直接食べている。

 ユウとアキラはすでに満腹なのか、デザート代わりの番茶を静かに口にしている。


「巡り合わせを良くする秘術は知りませんから、エイミーさんみたいな人が身近に居ないと目の前にした『運』を逃してしまうかも知れませんね」

 アキラは初対面の頃から、エイミーに対してはいつでも敬意を持って接している。それは本人を目の前にしていなくても、全く変わらない。


「ふぅ〜ん、アキラに出会えたから第一段階はクリアしてるけど、これからの事は本人次第っていう事なんだね」


「僕と出会ったのが、DOOM(悪運)で無いと良いんですけどね」

お読みいただきありがとうございます。

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