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010.Only Takes A Moment

「有難う。お陰で慢性の肩こりはすごく良くなったわ」


 一般会員になったミーナの母親は、ほぼ毎週ジムに通っている。

 アキラの指導による簡単な筋トレ、マッサージによって肩こりはすっかり解消できたようである。


「これからも軽い上半身の運動を、続ける方が良いですね。

 筋力のバランスが取れていれば、肩こりも再発しないと思います」


「アキラがメニューを組んでくれる?」

 娘の様子を見るという名目でジムに通い始めた彼女だが、今やアキラをすっかり気に入ってしまいまるで自分の息子を見るような優しい表情をしている。


「ええ。ノーチラスを使ったメニューなら、手軽に出来ると思いますよ。

 ……そうだ、今日は家でミーナとご飯を食べる日なんで、一緒にどうですか?」


「そんなに気を使わなくても良いのに」

そう言いながらも、彼女の表情はとても嬉しそうである。


「いえ。ミーナが普段どんな物を食べてるのか、知ってもらいたいので。

 レパートリーは少ないですけど、僕の料理は評判良いんですよ」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 アキラの自宅。


 厨房で手際よく調理した料理は、大皿に盛り付けられテーブルに並んでいる。

 切り干し大根が入った大きな卵焼きや、鶏肉と青菜の炒め煮、トマトの卵炒め、大ぶりの貼鍋餃子と魯肉飯(ルーローハン)の餡等々。レパートリーが少ないと言っていた割には、バリエーションに富んだ料理が並んでいる。


「餃子は既製品の冷凍ですけど、他はたった今調理しました」


 イケブクロに実店舗があるこの餃子はマリーのお気に入りなので、Congohの配送センターに直納品されている。。アキラは学園寮経由で、その中から少量を分けて貰っているのである。


「……私にとって、懐かしい料理ばかり。

 香辛料とか、醤油も本場のものじゃない?」


「料理の師匠から、分けてもらったんですよ。

 タイワンにいらした事があるんですか?」


「昔、若い頃にね」

 

「味はどうでしょう?」


「どれも正統派の台湾料理で、すごく美味しいわ。

 でもこの魯肉飯(ルーローハン)の餡だけは、ちょっとアレンジしてあるのよね?」


「はい。

 料理の師匠は、このメニューだけは香辛料をニホン人向けにアレンジしたと言ってました」


「うん。ちょっとカレー寄りだから、たしかにニホン人の味覚には合うかも。

 アキラは習ったレシピを、忠実に再現してるのね」


 アキラは調理中にメモなどを一切見ていないが、分量をしっかりと感覚で記憶しているのだろう。


「自分は応用できるほど、調理の経験がありませんから。

 自分流にアレンジするのは、かなり時間が必要だと思います」


「でもこの一品だけは、明らかにニホン料理ね。

 この肉じゃがは、もしかしてミーナが作ったの?」


「はい。ユウさんに習って、初めて覚えた料理です」


「ジャガイモの煮込み具合も丁度良いし、良い出来栄えね。

 あなたの作った手料理を食べれる日が来るとは、感無量だわ」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 アキラが来客用に保管してあったビールを出すと、彼女の口調がより滑らかになる。

 このビールは、ノエルから融通してもらった英国製のIPAである。


「珍しい銘柄だけど、とっても美味しいビールね。

 そうそう、こういう席で言いたくないんだけど、二人の担任教師からしつこく連絡があるのよ」


「……はぁ、お手数おかけして申し訳ありません」


「私が同居を許可しているのに、異性交友がどうのこうのと本当にお節介なのよね。

 アキラが学業では超優等生だから、担任としても強く言えないのかしら」



                 ☆



 アキラが通う公立高校は進学校であり、学業成績がとても重視されている。

 風紀上荒れた生徒が皆無なので、これは当然の事であろう。

 音楽や美術以外は常にトップクラスの成績を収めるアキラは、担任以外からは優等生として認識され好感を持たれている。


「先生、いつも準備室を使わせいただいて、有難うございます」


 アキラ達の『倫理』の授業を担当する教師は、アキラに対して特に強い好感を持っている一人である。

 いつも教室で弁当を広げていた二人に、準備室を使えるように配慮してくれたのはこの教師の一存である。


「いやいや、僕も授業以外でアキラ君と話す時間が持てて、すごく嬉しいですよ」


「あの、僕は単なる一生徒なんですけど」


「君ほど実年齢と精神年齢がかけ離れた生徒とは、会った事がありません。

 君と雑談をしているだけで、凄いインスピレーションを受けますしね」


「はぁ。僕は担任に嫌われてますから、先生のように仲良くしてくれるのはとても嬉しいです」


「殆どの教師は、君の事を気に入っているんですけどね。

 担任の彼の場合は、嫌いというよりも君に嫉妬している感じですね」


「……嫉妬、ですか?」


「君は何でも出来るし、可愛い彼女まで居る。

 おまけにタワーマンションに住んで、悠々自適な生活をしていますからね」


「僕は自分自身で稼いだ財布で、地道に生活してるだけなんですけどね」


「現役高校生が、君の言うところの『地道な生活』をするのは難しいですよ。

 その余裕がある所が、彼が嫉妬するところなんでしょうね」

お読みいただき有難うございます。

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