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007.Nothing More Than You

 Tokyoオフィスリビング。

 ゲストの二人も当然ながら、夕食にお呼ばれしている。


「ミーナちゃん、アジフライの味はどう?」


「サクサクほっくりして、とっても美味しいです!

 須田食堂にあれば、毎日でも食べたいです!」


 食が細かった彼女も、今やフライものをおかずにどんぶり飯が食べれるようになっている。

 痩せすぎに属していた体型も、もう少しでナイスバディと呼べる筋肉量に近づくであろう。


「あそこは揚げ物のメニューが多いし、仕入れの関係で無理みたいだよ。

 Tokyoオフィスでも、良い鯵が手に入った時だけのメニューだしね」


「ユウ、久しぶりだから、とっても美味!」

 小骨が多い魚メニューは苦手なマリーだが、上質なアジフライは好物のようである。


「アキラは、刺し身盛り合わせがお気に入りだね」

 ミーナと一緒にリビングに戻ってきたアンは、アキラのゆったりと刺し身を味わう様子に気が付く。

 健啖家ばかりのリビングでは、逆にしっかりと味わっているのが目立ってしまうのだろう。


「せっかくユウさんが、手づから切ってくれた刺し身ですから。

 色々と食べて、美味しさがだいぶ分かるようになりましたし」

 脂が乗ったブリの刺し身は特に気に入ったようで、大皿に盛られた分も無くなりそうである。


「商店街の中程にある魚屋さんは、仕入れがあった日には色んな魚が選べるよ。

 あとで場所を教えてあげるね」


「ありがとうございます。

 これで夕食のバリエーションが、少しだけ増えました」


「ミーナちゃん、アキラのレパートリーが増えると、嬉しいよね」


「はい。

 でも私も食べるだけじゃなくて、料理できるようになりたいです」



                 ☆



 アキラがアルバイト先のジムで重用されているのは、あくまでもパーソナルトレーナーとしての卓越した手腕の故である。ダイエットのために軽いトレーニングしている女性会員から、プロライセンスを持ったボクサーまでその恩恵に預かっている者は多い。


 ジムの会長はアキラの格闘技の腕前は知っているが、後見人であるキャスパーとの約束で彼をプロの競技者として表舞台に出さないのを約束している。必要以上に顔が売れてしまうと、彼の経歴について詮索されるのが目に見えているからである。


「会長、スパーリングパートナーが来てないんじゃ、練習にならないですよ。

 ……そうだアキラ、スパーリングに付き合ってくれない?」


 若手有望株である那須山は、現役高校生であるアキラよりは年上?である。

 アキラはミット打ちの相手をする事もあるので、ボクシング素人だとは思われていない。


 ここでアキラは会長に向けて視線を向けるが、会長は気が向かない表情ながらも頷いている。

 現在ジム唯一の有望株である彼に、臍を曲げられると困るからである。


「アキラとスパーリングするなら、ヘッドギアを付けろ」


 会長は那須山に指示した後に、ジムの正面ドアを施錠して看板の照明を落としている。

 一般会員が現れない時間帯だが、不用意にアキラがリングに上がっている姿を見せないための配慮なのであろう。


「へっ、随分な冗談ですね。

 自分がアキラに滅多打ちされると?」


「いや、会長命令だ。

 付けないなら、スパーリングはさせない」


「へいへい」


「アキラ、骨折させなければ本気を出しても構わない。

 高くなった鼻をへし折ってやれ」

 アキラの耳許で会長は小声で呟く。


了解(ラジャ)


 ミーナが会長の合図でゴングを鳴らす。

 アキラを絶対的に信頼している彼女は、いきなりのアキラのスパーリング参加にも全く不安は無いようだ。


 若手有望株である那須山は、正統派のハードパンチャーとして名を馳せている。

 だが彼のパンチは、ファイティングポーズを取らずに棒立ちに見えるアキラには届かない。

 一見してアキラが押し込まれているように見えるが、ユウとの組手の時にように紙一重で距離を取りパンチを回避し続けている。

 

 スウェーなどの防御技術では無いアキラの体捌きは、那須山も見たことが無い技術である。

 何度かクリーンヒットしたと思われるストレートも、アキラの体に触れた瞬間に何故か威力が消されている。


(ヒットしてるのに、手応えが無い!何故だ!)


 手応えを感じられなくても戦意喪失しないのは、さすがにジムの要望株である。

 アキラとの距離を詰めて、踏み込みを調整しながらも彼はパンチを繰り出し続けるが、状況は変わらない。


「くうっ、アキラ、逃げてばかりじゃなくて反撃してみろよ!」


 ここで一瞬にしてクリンチの距離に接近したアキラは、スパーリング用のグローブを那須川のボディにゆっくりした動作で押し付ける。

 パンチとは言えない動きだが、グラブが触れた瞬間彼は衝撃を感じ膝をついて崩れ落ちる。

 ボディへの攻撃?が瞬時に意識を刈り取ったのか、白目を剥いて口からは泡が出ている。


「おいアキラ、奴は大丈夫か?

 もうちょっとで試合だから、重症だと洒落にならないぞ」


「大丈夫です。

 単純に失神してるだけで、すぐに目覚めますよ」


 アキラは崩れ落ちた那須山を、軽々と持ち上げてフラットベンチにうつ伏せ状態で寝かせる。

 うつ伏せにしているのは、吐瀉物で窒息しないような配慮なのであろうか。


「いまのは発勁という奴なのか?

 ゼロ距離であれだけの威力は、何度見ても凄いな」


「いや本当に単純な技で、そんな高等技術じゃないですよ」


「……」

 まるで藪蚊を潰したような軽い一言に、会長は絶句していたのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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