表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
348/426

020.Known

 自室で短時間睡眠を摂ったティアは、元気を取り戻したようだ。

 リビングのテーブルでマリーが作ったハンバーガーとフレンチフライを、モリモリ食べている。

 特にポテトに関しては大きく目を見開き熱心に口にしているので、味の違いをしっかりと認識出来ているようである。


 ここで突如食事を中断した彼女は、じいっとノエルの方を見ると改まった口調で話しかける。

 もっとも口の中には、食べかけのフレンチフライが入ったままであるが。


「ねぇ、一緒に居て、迷惑?」

 ノエルは異母兄弟で血縁ではあるが、生命の危険を伴った迷惑を掛けているのは客観的な事実である。


「ううん、ぜんぜん。

 それに『姉さん(ティア)』は僕と一緒に居ると、退屈しないでしょ?」

 戦場で生まれ育ったノエルは、ニホンでの滞在は長くなっているが未だ平和ボケしていない。

 彼らが遭遇したチョッカイは映像を取得するためのモノであり、危害を加えようとするには詰めが甘いと認識しているのであろう。


「うん。突発的な何かが起こるだけじゃなくて、一緒に居ると毎日が楽しい!

 セーラも可愛いし、家族が増えたのはとっても嬉しい」


「今日は姐さん(マリー)も、ティアがDragonLadyに搭乗するからってハワイベースまで来てくれたんだよ」


「義妹の安全を確保するのは、姉として当たり前」

 白いコック服のままハンバーガーを頬張っているマリーは、薄い胸をそらして自慢げである。


「家族が大勢!

 幸せ!」


「胸一杯で、お腹も一杯?」


 セーラの一言は、リビングに居た全員の笑いを誘ったのであった。



                 ☆




「リッキー、放ったらかしにしてゴメンね」

 ノエルの自宅に戻った3人は、Tokyoオフィスに預けてあったリッキーを囲んで食事を採っている。

 残念な事に3人ともに料理が苦手なので、また外食の持ち帰り三昧に逆戻りなのであるが。


「???」

 好物の野菜天丼を食べていたリッキーは、セーラの謝罪を意味がわからないという表情である。


「ちゃんとハワイベースからジャンプで戻ってきて、ご飯を準備してたから放ったらかしにはしてないよ。

 気が付かなかった?」


「……ぜんぜん」


「僕がハワイベースに居ると、姐さん(マリー)のお使いが増えるからTokyoオフィスとは何回も往復してたんだよ。シンさんにもあんまりリッキーを放置すると、臍を曲げるって言われてたからさ」


「ミャウ!」

 ここでリッキーは当たり前だと、しっかりと声を上げて表明する。


「そう、ピートとリッキーはアヒとかタラのプレートランチがお気に入りなんだよね。

 今度ハワイに行った時も、忘れずに買ってくるからね」


「ミャウ!」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「リッキーと散歩に出るのも久しぶり!」

 ハーネスを装着したリッキーは、リードを持ったセーラの横でしっかりとペースを合わせてエレベーターホールを歩いている。

 本来ならリードは(逃亡するという意味で)全く不要なのであるが、大柄な彼女(リッキー)は猫科の猛獣と間違われる事が多いので外出時には血統書と共に必携になっているのである。


 マンションのエントランスでノエルは知り合いに挨拶をしているが、ここでティアが驚いた表情で足を停める。

 どうやらハスキーを散歩に連れ出しているその人物に、目を奪われているようである。


「ああ、あの人はノエルの友達で……」

 セーラが口を開いているが、ティアの耳には全く聞こえていないようだ。


「……ねぇノエル、なんでケイローンがこの惑星に居るの?」


「ケイローン?」

 セーラが聞き慣れない言葉に首を傾げている。


「セーラは何度か会った事があるけど、彼もこのマンションに住んでるんだ。

 入国管理局の許可を得て、イケブクロの公立学校に通ってるんだよ」


「……公立学校って、もしかして高等学校?

 ケイローンが高校に通うなんて、何かの悪い冗談でしょ?!」


「雫谷学園の校長が引き受けるつもりだったんだけど、本人の強い希望らしいよ。

 普通の高校に通いたいって」


 ノエルの補足説明を聞いてティアが絶句している。

 いちおう面識があるセーラは、ノエルと変わらない年齢に見える彼が高校生活を送るのに違和感を感じていないようで再び首を傾げている。



                 ☆



「あんまり人に興味が無いティアとしては、珍しい態度だった」

 ノエルがシャワーを浴びている間に、セーラはティアに話し掛けている。

 二人は軽いアルコール飲料を飲みながら、リビングでリラックスしている最中である。


「ケイローンは、バステトの母星では『師傅』として崇められているから。

 私達にとっては、特別な存在」


「へえっ、そういう協力関係を結ぶ相手が居るんだ」


「この惑星のメトセラに対するのと同じ。

 私は両方の血筋を継承しているので、変わった扱いをされているけど」


「ふぅん、争う事は想像出来ないけど、そういう協力関係があるなんて意外」


「バステトが重用されるのはその能力に所以するけど、ケイローンの場合はちょっと違う」


「???」


「彼らの種族が尊敬されるのは、叡智が継承されているから。

 他のヒューマノイドでは持ち得ない、強力な遺伝子記憶を持っている」


「遺伝子記憶って、もしかして外部記録に接続している人間みたいなもの?」


「記録は単なるデータであって、叡智では無いと思う。

 彼らの種族を偉大にしているのは、そういう単純な部分では無いらしい」


「ふ〜ん、良くわからないけど凄いんだね」

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ