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017.Where Are You

 ニホンが設置している大型天文台。


 迎えの車から降りた3人は、足場がしっかりとした駐車場の中から日の入りの景色を見ている。


「どう、ここからの景色は?」


「……」

 セーラは世界各所で雲海の景色を見たことがあるので、それほど驚いた表情をしていない。

 それよりも寒さのお陰で、景色に集中出来ていないように見える。


「ティア、こういう雲海の眺めは初めてでしょ?」

 ノエルはセーラに持参してきたLEVEL7コートを着せながら、ティアに語りかける。

 それなりの防寒着に着替えていたので不必要かと思っていたのだが、念の為の軍用コートが思わぬ所で役に立ったようだ。


「……暖かい」

 コートのジッパーを引き上げたセーラが、漸く人心地ついたように声をあげている。

 彼女が寒がりだとは聞いた事が無いが、いままで痩せ我慢をしていたのであろう。


「米帝陸軍のユニフォームは、世界一だからね。

 これで寒くないよね?」


「うん!」


「ねぇノエル、セスナに乗ればもっと凄い景色が見れる?」

 ティアは寒さや気圧の低さなどものともせずに、元気一杯である。


「う〜ん、セスナじゃ無理だけどDragonflyなら見れるんじゃないかな。

 『宇宙の渚』はどの風景とも違うからね」

 セーラは体が温まって来たのか、ノエルに寄りかかったまま眠そうな表情をしている。


「それ見てみたい!」


「せっかくハワイベースに居るなら、それも一つの経験かな。

 最近あの機体の出番も少ないみたいだから、ジョンさんに相談してみようか」

 セーラは眠さで足元が覚束なくなっているので、ノエルがお姫様だっこをして送迎車のシートに彼女を戻している。

 呼吸は通常通りなので高山病の心配は無いが、状態を注視する必要があるかも知れない。


「うん!」


「でもあらかじめ言っておく事があってね」

 セーラの呼吸の様子を見ながら、姉弟の会話は続いている。

 

「?」


「マリー姐さんに聞くとわかるけど、窮屈で蒸し暑い宇宙服みたいなのを着ないといけないんだ」


「マリーが耐えられるなら、『本当のお姉ちゃん』である私ならもちろん大丈夫!」

 ティアはTokyoオフィスに仮住まいしていた時に、マリーに世話になっていたので面識がある。

 彼女はルーやノエルと同じく、マリーの義妹?とも言える親しい存在なのである。


「今は姐さんはシンさんとのコンビでジャンプしてるから、Dragonflyを使う事は滅多に無いんだよね。同じ景色をシンさんに頼めば楽に見れるんだけど、どうする?」


「お姉ちゃんは、弟の事をいつでも信頼してる!

 以上!」


「ははは」



                 ☆



 翌日のハワイベースリビング。


 昼食をしっかりと食べたセーラは、体調に問題無いようで一安心である。

 だがひさびさの長距離移動と気圧変動の疲労が残っているようで、リビングのソファで2度寝しているようだ。


「Dragonflyに乗りたいって?

 そりゃ嬉しいリクエストだなぁ」

 ジョンは甘味が苦手では無いが、米帝出身だけあってチョコレートなどのスタンダードな味を好んでいる。

 だが何故かどら焼きは好みのようで、エスプレッソのお茶請けとして美味しそうに頬張っている。


「あれっ、定期配送便のどら焼き、変わりました?」

 個包装されたどら焼きには製造先の記載などが無く、見るからに特注品のように見える。


「へぇっ、ノエル君は和菓子の知識もあるの?」


「ええっと、仕入れに関してユウさんから相談される事も多くて。

 これって、ずいぶん前に試食した記憶がありますよ」


「定期配送便でまとまった数を納品できる個人商店は、簡単に見つからないんだろうね」


「いやぁユウさんから聞いた話だと、和菓子の味に煩い人が多いみたいで。

 スーパーとかに納品してる大手メーカー製を入れたりすると、非難轟々になるみたいですよ」


「ああ、科学者は特に成分表示に敏感だから、調整剤とか保存料には煩いだろうね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「でも整備が嬉しいんですか?

 あの機体は地味な見栄えですし、飛行できるようにキープするのも大変ですよね?」


 ジョンが趣味でレストアしているトムキャットとは、機体の性質があまりにもかけ離れているのは誰でも理解できるであろう。


「レイやシンが乗らなくなってから久しいからね。

 モスボールからせっかく目覚めさせたのに、保存するだけだとなんか可愛そうなんだよね」


「米帝空軍でも、退役予定なんですよね?」


「いや、それはうちにとっては逆に朗報なんだよ。

 予備パーツが横流しされる頻度が高くなるからね」


「へえっ、それは意外ですね」


「A−10なんかは、逆に退役時期が伸びてパーツが手に入りにくくなったしね」


「Dragonflyのシミュレーターはあるんですか?」


「ううん。ぶっつけ本番だけど、ノエル君なら大丈夫じゃない。

 いろんな機体の経験があるし、アビオニクスも変わった部分も無いしね」


 ここでジョンは分厚いフライトマニュアルをノエルに渡すと、一言付け加える。


「空域を使えるのは来週以降だから、急いで読み込まなくても大丈夫だよ。

 でもフレアやジャミングに関しては、操作を含めてちゃんと目を通しておいて欲しいな」


 ここ最近のティアに関するチョッカイは、ジョンも状況を理解しているのであろう。


「ええ。

 特にティアが後席に乗りますから、気を抜く事はありませんよ」


「レーダー監視は特に入念に行うけど、今の地対空ミサイルは性能が上がってるからね。

 降りてくるタイミングが、かなり危ないかな」

お読みいただきありがとうございます。

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