016.Build My Life
食後、駐車場に向かう一同。
「美味しかった!」
カレーだけでは無く大量のケバブを平らげたセーラは、満足そうな表情を浮かべている。
「ティア、辛すぎなかった?」
「うん。丁度よい辛さだった。
ニホンのコンビニ・スナックでも、もっと辛いのもあるし」
セーラが手を付けなかった料理は、ほとんどティアが食べ尽くしている。
ニホンでは殆ど食べられていない、香りが独特なバスマティ米も彼女は問題無く食べていた。彼女は大食漢ではあるが、料理の味に無頓着という訳では無いのである。
「アニー、参考になりました?」
「うん。ひさしぶりに本場のビリヤニを食べて味を思い出したよ。
それにしても2人の食べっぷりを見てると、こっちまで食欲が刺激される感じだったな」
「お店の人も綺麗に完食してたから、ビックリしてましたよね」
「相場より、随分とチップをはずんでたんじゃない?」
「あの注文を受けてくれたお兄さんは、見た目怖そうだけど誠実そうな人だったから。
サービスの対価としては、決して払いすぎてはいないと思いますけどね」
「ノエル君はまだ若いのに、人を見る目があるんだね」
「ええ。
幼少から海千山千の悪人に囲まれて育ちましたから、それは自信があるんですよ」
「ジョン君が特に君を気に入ってるのが、わかるような気がするよ。
君みたいな息子が欲しかったんだろうなぁ」
☆
ハワイベースのリビング。
テイクアウトしてきたマラサダの白箱を前に、一同はいつもの雑談中である。
「遊覧飛行?」
「うん。オワフを上空からゆっくりと眺めてみたくて」
ティアは癖の無い『プレーン味』を頬張りながら、ノエルにオネダリをしている。
昔の給食メニューの揚げパンにいちばん似通っている味であるが、残念ながらここではその味を説明できるメンバーは当然ながら誰も居ない。
「セスナでも良いけど、ヘリも捨てがたいよね」
ノエルはわざわざ赤く着色された『リヒ味』を選んでいる。ニホンではバイスサワーが好みなので、ちょっと変わった酸っぱい味にも抵抗が無いのであろう。
「こういう時、ノエルが居ると便利」
限定メニューである『バナナクリーム』が気に入ったセーラは、実はココナッツ風味の『ハウピア味』が苦手である。中身のクリームを噛みしめるまでおっかなびっくりの表情だったのは、ご愛嬌である。
「二人は操縦を覚える気は無いの?」
「私はまだ車も自身持って運転できないから、もっと先かな」
「操縦は今でも出来ると思うけど、ハワイに移住したら考えても良いかも」
ティアの遺伝子由来である高度なオペレーション能力をもってすれば、セスナの操縦程度は問題無くこなせるであろう。もっとも滞空時間という経験値が必要なのは、ライセンス取得では当たり前の事なのであるが。
「ティアはここが気に入ったの?」
「うん。ノエルが居てくれるなら、移住しても良いかな」
「むっ、それなら私も移住する!」
「ははは、先走りすぎないで。
僕は此処は気に入ってるけど、ニホンから当面離れる気は当分無いよ」
「……遊覧飛行かぁ。
セスナやヘリは飛べる状態だけど、空域使用許可は当分無理じゃないかな。
今空軍が同盟国と合同演習してるから、来月まで待たないと許可は出ないと思うよ」
ここでリビングに入ってきたジョンが、余ったマラサダを眺めながら呟く。
どうやら好みの『ドバッシュ(チョコレート味)』が残っているか、確認しているのだろう。
「それってユウさんも、空防時代に参加した演習ですよね?」
「そう。模擬空戦とかも実施されるから、かなり実戦的らしいよ」
米帝風の緩いチョコレートクリームは、『ハウピア』と一緒で好みが分かれる味なのである。
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「ああそういえば、天文台の責任者から4名までなら
スポンサー枠で招待出来るって連絡があったよ」
「天文台?」
セーラは話が全く見えていないらしく、ジョンの言葉に首を傾げている。
「それって、マウナケアの話ですよね」
ノエルがセーラに対しての説明の意味を込めて、ジョンに確認をしている。
「うん。Congohは大口のスポンサーだからね。
本島のホテルまで4駆で迎えに来てくれるから、オプショナルツアーと同じ扱いかな」
「僕一人ならジャンプで行けますけど、二人にもあの景色をぜひ見せたいですからね。
スケジュールを合わせて、本島のホテルへ予約を入れましょうか」
「なんで態々、ホテルに泊まる必要があるの?」
本島の空港から直行すれば、余計な宿泊は不必要だとセーラは思っているのだろう。
「空域制限中だから、自前のセスナやヘリが使えないからタイトなスケジュールは無理じゃない?
本島との往復は、結局定期便を使うしか方法が無いんだよね」
「そんなに山頂まで時間が掛かるの?」
「標高が高いから、中継地点で体が慣れる時間的余裕が必要なんだ。
高山病になっちゃうからね」
「でもノエルやユウさんが、ジャンプで行った場合は?」
「ジャンプを可能にするアンキレー・ユニットは、装着者の環境を安定化させる機能があるから。
気圧や大気組成も、自動的に調整されるみたいなんだ」
「それって、便利なだけじゃなくてチート過ぎる!」
「アンキレーユニットは我々のご先祖達が、この惑星に移住するために使われたと言われてるからね。
チート性能が無いと、移住自体が失敗したかも知れないし」
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