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013.Sanctuary

 バイク2台でツーリングに出発した一行は、インカム越しに会話を続けている。


「カモメを見たいんだっけ?」

 タンデムの運転は、もちろんノエルである。

 後席のセーラも運転可能であるが、ノエルはハワイに土地勘があるので先行するのは当然である。


「キャスパーの蔵書で、カモメの話を読んだから」

 数分前初めてバイクに跨ったティアは、全く危なげなく運転している。彼女は遺伝子由来であるバステトの高度な操作能力を、しっかりと受け継いでいる。


「ティアが読書家だったとは、知らなかった」


「ああ、『Jonathan Livingston Seagull』でしょ。

 写真が効果的な、良い作品だよね」


「そう。

 私は文学は苦手だけど、キャスパーの蔵書は写真集も多いし図書館みたい。

 彼女はエジプトの古代史から現在まで、歴史にも詳しい」


「キャスパーは、もうこの惑星が故郷だと言ってたからね。

 ユウさんが居るのが大きいにしても、もう故郷に戻る気も無いみたいだし」


「……私もノエルが居るなら、此処が故郷になる!」


「いくらティアでも、ノエルはあげないよ!」


「ふふふっ。

 セーラ(義妹)にヤキモチを焼かれるのも、気分が良いかも」



                 ☆



 断崖絶壁を望む路肩に、一行はバイクを停車させる。

 海を望んだ絶景だけでは無く、オワフ島特有の潮の香りが強く感じられる場所である。


「海を望める絶景だと、ここが一番かな」

 

「カモメがいっぱい!」

 断崖に流れる上昇気流を利用しているのか、上空にはカモメが多数飛んでいる。

 確かに飛行技術を極めようとする『ジョナサンの世界』に、とても近い光景かも知れない。


「ティア?」

 タンクバックからスナックの袋を取り出した彼女は、飛行中のカモメを目掛けて投擲する。

 一瞬にしてそれが食べられると判断したカモメ達が、ティアの方向に近づいて来る。

 

 どういうマジックか分からないが、ティアが投擲したスナック菓子は失速せずに遠距離を飛翔する。

 彼女は人外の筋力を保持しているが、それだけでは説明出来ない不思議な現象である。


「うわぁ、カモメが寄ってくる!」


「『●っぱえびせん』を持ってきたのは、これ用だったんだね」


「ニホンでもこれで餌付けをしてるって、テレビで見たから」

 ティアの餌付けは、スナック菓子の袋が空になるまで続いたのであった。



                 ☆


 ドライブの帰路。

 朝食からかなり経っている一行は、さすがに空腹を感じていた。


「ノエル、お腹すいた!」

 シリアルバーで空腹を紛らわせていたセーラだが、さすがに我慢の限界であろう。


「近場のロードサイドにフードトラックが出てるから、そこで何か食べようか。

 オーニングテントに、座れるベンチもあるみたいだし」


 地元では有名店なのであろう、多くの人がトラックの前に集まっている。


「プレートランチも種類があるよ!」


「私はビーフステーキとライスをダブルで!

 ライスは白米で、ソースはテリヤキで!」


「私も同じで、ガーリック味で!」


「僕はモチコ・チキンとシュリンプのコンビかな。

 ライスはサフランライスで」

 ノエルが全員の会計を済ませると、空いてきた席に移動する。


「ノエル、ステーキの牛肉が思ったより美味しい!

 あ〜ん!」


「あっ本当だね。

 プライム・ビーフとまでは行かないけど、冷凍してない赤身肉はやっぱり味が違うのかな」


「ガーリック・シュリンプは、いつも安定した美味しさ!」


「あれっ、僕が食べる前に、シュリンプが無くなっちゃったよ。

 プレートを追加しないと」


 いつも通り、3人の食卓は家族のような賑やかさである。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 ハワイベースへの帰路。


 海沿いの道路を使っているノエル達は、空気感が変わっているのに気が付いていた。

 インカムでの会話が途切れたタイミングで、SIDからの警告が入る。


『ノエル、海沿いに不審なトレジャーボート?が追尾しています』


「うわぁ、人影が見えないけどなんか武装してるみたいに見えるね」

 チカチカと赤い光点が見えるのは、レーザーを使ったシーカーが動作しているのかも知れない。


 ノエルはティアにロックオンされないように、蛇行運転と緩急をつけた走行をインカムで指示している。


『湾岸警備隊には通報済みですが、到着までしばらく時間が掛かりそうですね』


「こんな静かな場所でウザい!

 ノエル、あれをやっつけちゃっても構わない?」


「船籍を掲揚してないし、こちらから手を出しても構わないけど。

 さすがにケラウノス以外に武器は持ってないけど、どうしようか」


 ミサイルを装備しているのは確実なので撃たれるのを待つ必要は無いが、ケラウノスは無音であっても弾痕の形跡は残ってしまう。外交官特権を持っているノエルであるが、さすがに関係機関の事情聴取は避けられないであろう。


「あの程度の船なら、武器は不要!」

 蛇行運転から急停車したティアは、降車すると手近な握り拳サイズの石を手に取る。

 彼女は躊躇なく、まるでメジャーリーグのピッチャーのように力感のあるフォームで石礫を投擲する。


 石礫はまるで先程のスナック菓子のように、彼女の手許から真っ直ぐに飛翔する。

 スピードガンで計測していれば、目を疑うような速度が出ているであろう。

お読みいただきありがとうございます。

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