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008.Simple Men

 夜半の音声連絡。


「ノエル君、昨日はホットドッグありがとう!

 マリーも喜んでたよ」


「いいえ。

 店を見つけて、すぐにユウさん用に買わなきゃって思いましたから。

 セーラがいつもお世話になってますし」


「ノエル君は年上の女性に優しいよね。

 お母様の教育が良かったのかな」


「ははは。

 単なるマザコンかも知れませんけど、ユウさんは何時も頼りにしてる姉貴分ですから」


「最近は、ティアとお出かけしてるんだって?

 ひきこもりだった彼女が外界に興味を持ったなんて、心境の変化なのかな?」


「芸術家気質はわからないですけど、彼女の中で電池切れが起きたみたいですね。

 出る一方だけじゃなくて、インプットが必要な時期になったんでしょうね」


「あの子は実弟のノエル君には、特別気を許してるみたいだね。

 それでハワイベースには行ったの?」


「これからですね。

 この間襲撃があった日に近場には行きましたけど、ハワイは外せない観光地ですからね」


「ハワイ本島の天文台があるエリアは、私のお気に入りの場所でもあるんだ。

 きっとティアがあの場所に行けば、良い影響があるような気がするんだけどね」



                 ☆


 

 ウエノ国立博物館。


「すいません。一般公開してないエリアまで、案内して貰って」

 Tokyoオフィスのコネを使ったノエル達3人は、上級学芸員に収蔵庫の中を案内して貰っている。


「Congohさんは大口のスポンサーですから、これくらいは無理に入りませんよ。

 学芸員もふんぞり返っていられる時代じゃないんで」


「……なるほど」


「それに美女3人組のお客様なら、いつでも大歓迎です」


「……」

 さすがに初対面の相手に性別の誤認を咎める気も無いのでノエルは黙っているが、セーラが笑いを堪えているおかげで不思議な表情になっている。


「あの方はニホンオオカミの標本を特に熱心にご覧になってますが、興味をお持ちなんですかね?」


 ティアはエイミーほどでは無いが、バステト特有の来歴を見る能力を持っている。

 それはこの惑星ではサイキックに類する能力なので、説明したとしても学芸員に理解してもらうのは難しいであろう。


「……彼女は芸術家気質で、ちょっと普通の人とは感性が違いますからね。

 何か琴線に触れる部分があったのかも」


 ティアが剥製を前にして流している涙を、横にいるセーラがかいがいしく拭っている。

 美しい横顔からは感情の高ぶりは感じられないが、ティアが何を感じているのか朧気ながらも想像出来ているのだろう。


 収蔵庫から出た3人は、学芸員に見送られて大理石の階段を降りていく。

 重厚なデザインの正門をくぐると、ノエルがここでようやくティアに対して口を開く。


「母星には、こういう場所は無かったの?」


「資料としての剥製があるのは、とても珍しいと思う。

 DNAや生体情報は保管していても、展示物として公開する事はあり得ない」

 彼女の口調に嫌悪感や非難を感じるのは、生まれ育ったバックボーンの違いかも知れない。


「生き物の尊厳というのは、文化や場所によって違うのかもね。

 来なきゃよかったかな?」


「ううん。

 後悔はしてないし、直接来歴を感じられて良かったと思う」


「剥製とかプラスティネーションは、この惑星上でも評価がマチマチだから。

 僕は自分の姿形は、同世代を生きた人が記憶に留めてもらえたら満足だけどね」



                 ☆



「今日はタクシーで来たから、アルコールを飲んでも大丈夫なんだ!

 ウエノは居酒屋のメッカだから、何か食べてから帰ろうよ」


 来歴に引きずられたティアの表情が沈んだままなので、ノエルは明るい表情で二人に提案する。


「未経験のメニューが、沢山あるお店を希望!」


「私は喉が乾いた!」


「ユウさんには、良い居酒屋を見分ける方法を教えて貰ったけど、これだけ沢山店があるからもっと具体的に聞いておけば良かったかな」


 ノエルが選んだ店舗は、簡素な白い看板を掲げている明るい内装の店である。

 酒造メーカーのロゴマークがガラス引き戸に刻まれているので、店のスポンサーとして関係があるのかも知れない。店内は酔客で賑わっているが、大声を出すような喧騒も無く落ち着いた雰囲気である。


「まず飲み物は焼酎のボトルと、『割り材』はグレープフルーツとバイスと……」

 4人がけテーブルに案内されて、ノエルは迷う事なくスラスラと注文を入れていく。


「ノエルが、呪文みたいな注文してる」


「……うん」


 テーブルに運ばれて来たカラフルな『割り材』を前に、ノエルは酎ハイの作り方を二人に実演し始める。


「この焼酎ボトルのスピリッツをまず入れて、好みの『割り材』を入れると酎ハイが出来るんだ。

 あっティア、そんなに焼酎を入れると濃すぎるから!」


「このレモン味、普通のジュースみたいで飲みやすい!」


「ノエルの飲んでる赤いのって、何味なの?」

 ティアは自分で作った濃いめのりんごサワーを飲みながら、アルコールっぽさが感じられず不可解な表情を浮かべている。有名甲類の焼酎は雑味が少なく飲みやすいので、飲みすぎは要注意だと思われる。


「バイスって言って、梅シソ味かなぁ。

 商店街の居酒屋で、ユウさんに教わったんだ」


 そして大量に注文していたつまみ類が、運ばれてくる。

 テーブルの上は様々な料理で、満杯になっている。


「わっ、こんがり皮が焼けてる!美味しそう!」


「この鳥の素揚げは、この店の名物みたいだよ」

 人数分注文していた半身の鶏素揚げは、それぞれが食べやすく3当分にカットされている。


「つくねと一緒に生ピーマン?って、変なの?」


「これは一緒に食べると、美味しいらしいよ」

 ノエルは串から外したつくねを、ビーマンで包み込んで口に放り込む。


「ほのかな苦味が、癖になりそうだね」


「この煮込み、味が濃くなくて美味しい!

 ノエル、その刺し身みたいなのは何?」


「お店の名物の『白レバーのたたき』だって。

 

 珍しい料理を味わいながら、リラックスした時間がゆったりと過ぎていく。

お読みいただきありがとうございます。

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