004.If You Want Love Someone
フウとの会話は続く。
「今まで聞いた事がありませんでしたけど、Tokyoオフィスの防衛体制はどうなってるんですか?」
「住宅街にあるから、基本的には体制というほどの大袈裟なものは存在しないな。
もちろん最終手段のミサイルランチャーは隠してあるが、表沙汰になるとニホン政府が煩いしな」
「なるほど。
治外法権の敷地でも、本当の秘密基地であるのが露呈すると問題ですものね」
「埋没されている地下部分は戦術核の直撃にも耐えられるし、地上部分の建物は超強化コンクリートと防弾仕様の窓だから、対地攻撃されても深刻な被害は受けないというのが前提だけどな」
「敷地が広いですから民間テレビ局にヘリで空撮されるとまずいですけど、EOP撮影のために襲撃が事前に予告されるケースはあり得ないですからね」
「それに何より、我々には戦略兵器指定されているマリーが居るからな。
念の為にシンとシリウスにも、しばらく常駐して貰うように頼んであるし」
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翌朝。
ティアが同居を開始した数日前から、3人はしっかりと朝食を摂るようになっている。
ノエルは朝食を抜く程度で動けなくなる事はないが、彼女はとにかく燃費が悪く空腹状態に弱いのである。
「このマンションが、もし攻撃されたらどうするの?」
朝から厚切りトーストをモリモリ食べているティアを見ながら、セーラはいつもの焼き立てのブリオッシュを頬張っている。
「その場合は、プロヴィデンスが外宇宙からの侵略だって認識するだろうね」
ティアのトーストをせっせと焼きながら、ノエルが答える。
スチームトースターで立て続けに焼いているが、ティアが食べるスピードに追いつかずノエルは自分の朝食を食べる余裕が無い。
「Tokyoオフィスとの、違いが分からない!」
「この惑星の住民が攻撃された場合、攻撃手段が地元で調達されていても侵略に該当するからね。
その場合は介入してくるんじゃないかな」
焼き上げたトーストを皿に載せると同時にスチーム用の水を補充し新しいトーストを入れる、この繰り返しが延々と続いている。
「介入してきた要員なり攻撃手段が、無かった事にされる」
プロヴィデンスに関して広範な知識があるティアが、好物のりんごバターを厚塗りしながら断言する。近隣の高級スーパーで選んだ中でも、この店舗オリジナルのジャムが彼女のお気に入りなのである。
「???」
「要するに、マリーのイレース能力と同様に、焼いているトーストのように跡形もなく消えるってことだね」
「そう。サクサク消えていく」
「怖っ!」
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「こんなタイミングで観光に行って大丈夫なの?」
Tokyoオフィスへの道すがら、セーラは珍しく懸念の声を上げている。
心配性では無い彼女であるが、やはり襲撃現場に遭遇したく無いのであろう。
「逆にティアが、Tokyoオフィスの建物に近づかない方が良いんじゃないかな。
車を借りてさっさと出発した方が良さそうだよね」
「なるほど」
わざわざ玄関前で3人を出迎えたフウも、同じ心境なのであろう。
「フウさん、それじゃ借りていきますね」
「ああ、周囲に気をつけてな」
ここでノエルの胸元のコミュニケーターから、聞きたくなかった警告が発せられる。
『ノエルさん、残念ながら出発はすこし延期のようです。
接近してくる飛翔体を、複数確認しています』
「バウッ!」
玄関から飛び出してきたシリウスが、一同に向けて警告を発しているようだ。
「うわぁ、このタイミング!電車にすれば良かったかな。
シリウス、今回も頼んだよ!」
「バウッ!」
「シンさん、僕が手伝える事がありますか?」
敷地から上空を見上げるシンの表情は引き締まり、非常事態に備えているのが分かる。
「シリウスと一緒に順番に片付けるから、処理漏れが無いか屋上から確認して貰えるかな。
想定より大型のドローンだから、自爆攻撃以外に空対地ミサイルとかも装備してるかも」
「了解。屋上に行ってきます」
「外界はこんなに物騒なの?
引き篭もっていたから、知らなかった」
「欧州の内戦地域じゃないから、こんな戦場みたいな事はテロでも無い限り起きないよね」
屋上へ階段で向かいながら、3人は緊迫感が無い会話を続ける。
「飛んでくるのに、音がしない?」
「後方推進のプロペラは、あんまり音がしないんだよ。
SID、ジャミングは出来そうかな?」
『タイミングを図らないと、住宅地に墜落しますから難しいですね』
「マスコミとかが察知して、大騒ぎになってない?」
『陸防レーダーにも全く映っていないので、近隣の住民が先に気がつくかも知れませんね』
「来た!」
ノエルが優れた視力で、曇り空に浮かぶ小さいドットを発見する。
一見するとセスナ機にしか見えない機体は、胴体が平べったく操縦席も無い。
「群体制御するには、機体が大きすぎるんだろう。
これなら順番に処理できるかな」
ノエルは腰のインサイドホルスターから抜き出したケラウノスの、セレクターを散弾モードに切り替えながら呟いたのであった。
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