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002.Countless Wonders

「ティアの筋力について、失念していたよ。

 しばらく造形作家としての側面しか、見ていなかったからね」


 転がっている重いサンドバックを持ち上げながら、ユウが呟く。

 漫画のようにサンドバックは裂けていないが、ぶら下げる部分の分厚い皮革とチェーンが強い衝撃で破断している。


「ティアって、実は凄い強かったんだ。

 見直した!」


「いや、腕力が……」


「ヨコタで大暴れしたのは、シン君から聞いてるよ。

 憲兵がノイローゼになったって、有名な話だし」


「あの時は錯乱して……」


「でもさ、自分の身を守れるのは重要だよ。

 ノーナだって、格闘戦はすごく強いしね」


「うん、うん」


「……」


「さて、打撃技の講習をするつもりだったんだけど、これじゃ直ぐに修復できないな。

 時間が余ったのでどうしようか」


「ユウさん、それなら厨房でめんつゆの作り方を教えて欲しい!」


「そういえば、カフェテリアの件でもノエル君と二人で関わってるんだっけ」


「……セーラは料理もユウさんに習ってるの?」

 年齢が若い彼女が、家庭的な一面を持っているのが意外だったのだろう。


「うん。

 イイ女になるためには、努力が必要!」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



出汁(ダシ)の取り方?

 今なら液体や顆粒のダシは沢山あるのに?」

 料理の素人であるセーラは、蕎麦つゆの仕込みについての基礎知識も持っていないようである。


「まぁ忙しい時には私も出来合いを使う場合があるけど、基本の味は知らないとね」


「これを使えば、蕎麦とか饂飩のつゆが作れるの?」


「もちろん。

 『かえし』が仕込んであればね」


「こんなに大量の鰹節を使うの?」


「ふわっとして、生きてるみたい」

 厨房の換気で揺れ動いている削り節を見て、ティアが呟く。


「この鰹節はTokyoオフィスで仕入れてる中では、例外的に高級な食材だからね」


「うわっ、良い香り!」


「麺つゆは作ってあった冷めた出汁と、この保管してある『かえし』を合わせて作るんだ。

 それじゃ、自家製の麺つゆの味見をしてみる?」


 ユウに促されて、刺し身用の小皿に入った麺つゆを二人は口に運ぶ。


「これは、長崎庵のつゆと同じ味!」


「ユウ、麺と一緒に味見したい!」


「私も(味見したら)お腹が空いた!」


「えっと、これから手打ちするのも大変だから、冷凍うどんがあるからそれを使おうかな」

 冷凍庫から透明なパッケージを取り出したユウは、小さめな寸胴にお湯を沸かしていく。


「Tokyoオフィスでは、ニホンの麺類は食べないの?」


「麺類は一度に大量に作れる、乾麺のパスタだけなんだ。

 ほらマリーの食べる量から、準備が無理なのは想像がつくでしょう?」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「……冷凍うどんって、お湯で解凍しただけなのに凄く美味しい!」


「技術が進んでるから、さぬき風とかも作れるようになったみたい。

 ティア味はどうかな?」


「美味しい!おかわり!!」


「そうだ!冷蔵庫に冷めた天麩羅があったから、トッピングしちゃおうか」


「……冷めた天麩羅は、まずそう」

 顔を顰めているティアは、立ち食い蕎麦店で食事をした経験が無いのであろう。


「いや熱い麺つゆで温まるからね。

 かき揚げとか、海老天、コロッケなんかとっても美味しいと思うよ」


「汁に浸した天麩羅は、思ったよりうまうま!」

 セーラは外食の経験が豊富なので、つゆを吸った天ぷらを違和感無く頬張っている。


「今日はマリーが不在で良かったかも。

 居たら冷凍麺がぜんぜん足りなかったよね」


「冷凍の蕎麦も、同じくらい美味しい?」

 セルカークでは試食を繰り返した経験があるので、セーラは冷凍蕎麦にも興味があるようだ。


「随分前に取り寄せて試食した限りでは、うどんほどは美味しくなかったかな。

 でもニホン人は改良が得意だから、今は美味しい製品も出てるのかも知れないね」



                 ☆



「迎えに来ました。

 あれっ、いつの間にか二人が仲良しになってる?」


 ティアとセーラはお茶請け用のどら焼きを、仲良く割って二人で分け合っている。


「小姑と仲良くするのは、嫁の努め!」


「その言い方は年寄りくさい。

 義姉(おねえさま)とお呼び!」


「ははは、仲良く出来るのが一番だよね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 ここでリビングにフウが戻ってきたので、ノエルは彼女用のエスプレッソをドリップしながら相談を持ちかける事にする。


「最近ティアと居ると、監視されてるような視線を感じるんですよね。

 SID、Tokyoオフィス周辺の人影をチェックしてくれる?」


 スタンパーを使いながら、ノエルがコミュニケーターに向けて発言する。


『ストーキングしてる人物の気配は、ありませんね。

 それに敷地に侵入された場合には、セキュリティアラートが発令されますから』


「でもティアは、この惑星に来てからほとんど外出してないんだろ?

 それはEOPの興味の対象になったからじゃないかな?」


 ノエルがドリップしてくれたエスプレッソカップに、ブラウンシュガーの小袋を投入しながらフウが呟く。


「惑星規模で撮影されてるという、例のヤツですか?」

 ノエルはドリップマシンでは無く、手慣れた様子で急須から自分用の緑茶を注いでいる。


「ああ。

 過去にも同じように見られてる感じがするって、うちのメンバーが言っていた事があったからな」


「私達を撮影する、意味がわからない」

 EOP由来の動画を見たことが無いセーラにとっては、全く理解出来ないのであろう。


「そりゃ撮影対象は、絵になる人物が選ばれるんだろうね」

 ノエルの一言に、フウはしっかりと頷いている。


「最近は撮影?のためにチョッカイを掛けられる事は無くなったが、用心に越したことはない。

 ティアと一緒に出歩く時には、SIDに周囲を警戒して貰ってくれ」

お読みいただきありがとうございます。

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