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051.Can't Take My Eyes Off You

 セタガヤの瀟洒なマンション。


 自衛大臣経験者であるセーラの祖父は、セキュリティ上の理由からコンシェルジュと民間ガードマンが常駐しているこの物件に引っ越して来ていた。現在公安関係の要職に就いている彼だが、大臣時代の経緯もあるので身辺警護には神経質に成らざるを得ないのであろう。


「セーラ、しばらく会わないうちに成長したな」

 海外デザイナーの家具でまとめられたリビングは、上質ながらも華美にならず家主の人柄を表しているようだ。セーラは座り心地の良いソファで、久々の祖父との再会にリラックスしているように見える。


「成長?背丈は変わらないよ」


「いや、だいぶ落ち着いて大人びたように見えるよ。

 お前の父さんに、ますます雰囲気が似てきたような気がする」


「そう?嬉しい。

 短い間に、いろんな経験をしたからかな」


「ノエル君とは、最近どうだ?

 今日は一緒かと思ってたのに」


「車でエントランスまで送ってくれて、あとで迎えに来るって。

 久しぶりの家族水入らずを、邪魔したくないって」


「いや、仲良くやってるならそれで良いんだ。

 子供は私が健在のうちに、会えれば嬉しいけどな」


「グランパ、せっかちなのは変わらない。

 ラブラブだけど、子供はかなり先だと思うよ」


「それもそうだな。

 ……この子はずいぶんと人懐っこいな。

 まるでセラピードッグみたいだ」


 散歩ついでに連れてきたリッキーが、初対面の筈の祖父の膝の上に収まっている。

 大柄なので躰が乗り切らないが、膝に顎を載せてリラックスした様子である。


「グランパは私と同じ匂いがするからじゃない?」


「匂い?そうなのかな」

 背中や頭部を優しくマッサージされているリッキーだが、嫌がった素振りは全く感じられない。

 確かに猫らしくないのは、事実であろう。


「ううん、雰囲気が私と似てるって意味。

 ずいぶんと忙しそうだけど、身体の調子はどうなの?」


「プロメテウスの総領事に紹介して貰った病院に通ってるんだが、すごく調子が良くなったよ。

 周りからも20歳も若返ったって言われるしね」


「私の係累はグランパだけだから、長生きして貰わないと困る」



                 ☆


 

 学園の校長室。


「確かにセーラ君は、短期間でどんどん成長してますね」


「また何か依頼ですか?」

 校長室に呼び出される度に無理難題を押し付けられているノエルとしては、警戒をしてしまうのは仕方がないのであろう。


「ははは。そうそう頼み事は続きませんよ。

 暫くは学業に専念して、のんびり過ごして下さい」


「校長とは思えないセリフ」

 セーラが遠慮が無い口調で呟く。

 まるで非難するような冷たい表情は、彼女の本音なのであろう。


「私はそんなに、人使いが荒いと思われてるんですかね?」


「うん」


「……敢えて言わせて貰うなら、カフェテリアのメニューについてアドバイスが欲しいですね。

 お二人はうちの学生の中では外食に詳しいですから、ユウ君とかシン君とは視点が違うでしょうから」


「僕個人としては、カフェテリアのメニューには満足してるんですけど。

 セーラはどう?」


「う〜ん、美味しいけどニホンの定番料理を食べたい時もある。

 たとえばカレーとかは、レギュラーメニューであって欲しい!」


「なるほど。それじゃユウ君に調理のレクチャーして貰う前に、食べ歩きに付き合ってあげて欲しいですね」


「僕たちはユウさんやシンさんみたいな、食のエキスパートじゃないですよ。

 食べ歩きなら姐さん(マリー)に同行して貰った方が」


「セルカークでも、成り行きで良い結果を出したじゃないですか?

 別に身構えなくても、普段通りで良いんですよ」



                 ☆


 数日後。


 校長(ジー)から依頼されたノエルとセーラは、専任コックの食べ歩きに同行していた。


 「カフェテリアの顧客は特殊ですから、メニューを決めるのも大変ですよね?」


 学園からの道すがら、ノエルは専任コックの女性に気安く話し掛ける。

 さすがに数ヶ月前に学園へ赴任したので、彼女とは一応の顔見知りではある。


「そうなのよ。校長(ジー)はその辺りを理解してくれなくて。

 漠然と『カイゼン』しろって、そればっかし」


「生徒からの味の感想とかは、どうなんですか?」


「それが、文句を言われた事が無い代わりに、同じくらい要望が出てこないのよね」


「カフェテリアの日替わりメニューは、いつも美味しくて文句の付け所が無いからだと思う」

 頻繁に利用しているセーラは、味について客観的な評価が出来る一人であるのは確かである。


「それは嬉しい一言だけど、逆に毎日のメニューに関して知恵を絞るのも大変なのよ。

 できるだけ重複しないように考えてるんだけど、アイデアは限りがあるしね」


「やはり定番メニューも必要では?」


「基本的に一人でやり繰りしてるから、メニューを増やすのもねぇ。

 それにカレーもカツ丼も美味しいけど、そんなに頻繁に食べたくなるものかなぁ?」


「カレーやカツ丼が定番だと分かってるくせに、あなたニホン食を良く分かってない!」

 セーラが面識があまりない相手に、食って掛かるのは珍しい。


「ええっ、どういう事?」


「ニホン人は、週2回や3回カレーを食べるのも珍しく無い。

 だから定番の国民食と言われてる!」


「そう、なのかな?」


「……えっとお話中ですが、ここが提携飲食店の須田食堂です」


 商店街の最初の目的地に到着したノエルは、白熱しそうな二人の会話に割って入ったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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