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045.Still

 夜半の自宅リビング。


 ノエルはビールを片手に、コミュニケーター経由で会話をしている。

 相手のシンからは小さな水流の音が聞こえるので、キッチンで作業中なのであろう。


「空戦映像は、しっかりと見せて貰ったよ。

 暫く見てない間に、随分と腕を上げたよね」


 空戦機動計測装置(ACMI)はネットワーク経由で映像をSIDへ転送しているので、リアルタイムで状況を見ていたのであろう。


「シンさんにそう言って貰えるのは、とても嬉しいです。

 さて本題の方なんですが」


「う〜ん、彼は僕の知ってるある『(ヒューマノイド)』に似てるかな」


「知ってる『(ヒューマノイド)』ですか?」


「その彼女は僕たちと違う由来のヒューマノイドで、空間把握能力が尋常じゃなく高いんだよ。

 彼のフライトを見てると、同じ雰囲気を感じるかな」


「なるほど。

 レイさんの空戦映像と同じで、短いタイムラインでの判断が凄いんですよ。

 機体の挙動が付いてこないもどかしさが、あるのかも知れないですね」


「それでノエル君は、彼の処遇をどうしたら良いと思う?」


「僕個人の意見としては、何もすべきでは無いと思います。

 彼はしっかりとこの惑星の軍隊組織に適応してますし、人柄もとっても好感を持てましたから」


「人柄かぁ……文化や道徳が全く違うバックボーンがあるのに、ヒューマノイドはそんなに違わないっていうのは不思議だよね」

 この一言は外惑星のヒューマノイドとの交流が多い、シンならではの感想なのであろう。


「ええ。

 もしかしてその部分も遺伝子のどこかに、書き込まれてるのかも知れませんね」


「ああ、数少ないお気に入りのノエル君だから、その一言はナナさんも参考にするだろうね」


「……」

 


                 ☆



 翌日の学園カフェテリア。


 珍しくフウが来校しているのは、校長に代わってノエルの報告を聞くためである。

 ちなみにランチタイムにはまだ早い時間帯なので、座席はがら空きで秘匿性の高い話をしていても特に問題は無い。


「報告書は読ませて貰ったから、今回は君の意見が満場一致で採用されたという事で」

 フウが昼食メニューの海南鶏飯を嬉しそうに頬張っているのは、あくまでもモニター試食としての業務なのであろう。


「米帝海軍内部では、彼の素性を疑う声ってあるんですか?」


「へえっ、短い期間で情が移った?」

 保温ジャーから追加のご飯をよそっているのは、あくまでも味をより深く確かめるために必要なのであろう。


「いえ、彼が噂レヴェルで冷遇されたら嫌だなぁと」


「その場合は、我々が喜んで職業斡旋に動く事になるね。

 厨房のお姉さん、チキンも追加で貰うね!」

 ご飯だけでは無く主菜のチキンを保温トレイから追加しているのは、好物だからでは無くあくまでも……。


「そんなに言い切って大丈夫なんですか?」


「我々には、絶大な信頼がある複数のアドバイザーが居るからね」


「確かにエイミーやキャスパーの一言は、大きいかと思いますけど」


「いやいや、もっと上からアドバイスを貰っていてね」


「ええっ、ノーナ(女王陛下)から、直接アドバイスがあったんですか?」


「彼はこのまま静観した方が、将来的には大きなプラスになるみたいだよ」


「へえっ、それは心強い一言ですね。

 まぁ今の米帝大統領から、変な横槍が入らないように情報統制はしっかりしないと」



                 ☆



「暫く放ったらかしだったから、ちゃんと構って」


 助手席から、運転中のノエルに拗ねた表情でセーラの呟きが聞こえる。

 もっともその激おこ?の表情は、無理矢理作った不自然なものなのであるが。


「ユウさんからは、Tokyoオフィスの滞在中はとっても楽しそうだったって聞いてるけど?」


「楽しそうだったのは、私よりリッキー。

 ピートととっても仲良しだから」


 Tokyoオフィスの面々にもしっかりと懐いているリッキーは、そのままオフィスで飼育したらどうかという声も出ていた。ただし過剰にグルメに育ってしまった彼女は、食事の世話がとても大変なのも事実である。


「それで今日はどこへ向かってるの?」


「サイタマの古い遊園地跡。

 もうちょっとで到着するよ」


「あっ、そこニュースで見た!

 でもだいぶ前に、閉園してるんでしょ?」


「うん。ちょっと伝手があって、解体前の回転木馬だけ見せて貰えるんだ」


 事前調査に来ていた建設会社の車列の前に、ノエルにも馴染みの顔が立っている。

 ニホン語も堪能な彼女は、遊園地関係者?と談笑中である。


 車外に出たノエルは、プロメテウス大使館の名刺を出して関係者と挨拶を交わす。

 この辺りは、彼の年齢不相応に世慣れている部分である。


「ベルさん、ずいぶんと到着が早かったですね」


「シンの手が空いてたから、優先してジャンプで送って貰えたんだ」


「航空機とラーメン以外で、自分から率先して動くなんて珍しいですよね」


「実はこの回転木馬の修復を、昔手伝った事があってね。

 自分の過去の思い出があるから、放っておけなくて」


 複数の工事関係者は、ベルが持参したタブレットの画像を熱心に見ている。

 移設工事や修復作業については当時の関係者はすでに亡くなっているので、ベルの持参した資料はとても貴重なのであろう。


「木馬や装飾部分の修復ついては、再設置する場合私達がお手伝い出来ますのでご連絡下さい」


「さすがCongohは世界最古の企業だけあって、貴重なノウハウをお持ちなんですね。

 木部に関しては国内で修復出来る人が見つからなくて、本当に困っていたんです」


 貴重な文化遺産の保全について頭を悩ませていた遊園地関係者は、ベルの具体的な申し出に心底嬉しそうな表情を浮かべていたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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