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040.When You Were Mine

飲食店に関する記述は、あくまでもフィクションです。

 ガラスケースに入っているティアが作った作品は、サイズも小さく原型?からかなり縮小されているように見える。まるで手のひらに載るような小さな作品にも関わらず、セーラは(まばた)きを忘れてしまったようにじっと見入っている。


「すごい!今にも動き出しそう!

 こんなの見たことが無い!」

 セーラはフィギュアに関しての知識を全く持っていないので、あくまでも造形作品としての評価なのであろう。


「3Dスキャン後に、ずいぶんと小さく出力したんですね」

 フィギュアに関して人並みの知識があるノエルはセーラと一緒に作品を鑑賞しているが、セーラの動き出しそうという一言も大袈裟では無くやはり出来栄えに感嘆しているのであろう。


「やっぱりそう思うよね。

 原型のサイズだともっと迫力があったんだけど、ティアは3Dスキャンした後のクレイは要らないって言うんだよね」


 お世話役?のキャスパーは何かと気苦労も多いだろうが、彼女の作る作品について惚れ込んでいるのが分かる。もともとこの惑星の美術に関しては造形が深い彼女は、当初からティアの才能を正当に評価していた一人なのである。


 ティア本人はリビングのテーブルで、ノエルが買ってきたコンビニスイーツに夢中である。

 新作のロールケーキやチーズケーキをはむはむと頬張る姿は、繊細な作品を作るアーティストには全く見えないであろう。


「ノーナさんでしたっけ、女王様は彼女の長期滞在をどう思ってるんですかね?」


「ああ、別に戻ってこいとも言われてないし。

 何より彼女は、ティアが作る作品が大好きだからね」


「本国にはデータだけを送ってるんですか?」


「うん。こういう小さい出力見本は、シン君にまとめて届けて貰ってるんだ」


「一番大切な3Dスキャンは、誰がやってるんですか?」


「多分意外に思われるだろうけど、造形からスキャンとデータ修正まで全てティア本人がやってるんだ」


「いやエイミーがコンピュータの操作に習熟してるのを見てますから、意外では無いですね。

 バステトは何でも出来るスーパー・ヒューマノイドなんですよね」


「まぁ私みたいな機械音痴が稀に居るけど、兵隊以外の職業は何でも出来るかな」



                 ☆



 帰路の車内。


「ねぇノエル、『兵隊以外』ってどういう意味?」


「バステトにとって、人殺しは最大の禁忌なんだって」


「殺生がいけないって事?

 でも彼女達は肉も普通に食べるし、ヴィーガンでも無いでしょ?」


「いや、同じヒューマノイドを殺めてはいけないって事らしいよ」


「??訳がわからない」


「彼らは為政者にアドバイスするのが使命だから、本人も強い倫理観が無いと駄目らしいよ」


「もし誤って手を掛けてしまったら、どうなるの?」


「……そうならないように、シンさんみたいな護士(ガーディアン)が必要なんじゃないかな。

 おっと聞いていた店は、此処だね」

 駐車スペースに車を停めると、ノエルはセーラを促して入り口へと向かう。


「変な看板の店。

 何の料理の店なの?」

 ニホンの有名な山を模した看板は、ショウワ・テイストを感じさせるレトロなイメージである。


「いろんなチェーンを運営してる大きな会社の店で、和洋中なんでもござれの新しい業態なんだって」


 Congoh以外の知人から評判を聞いた店なので一抹の不安があったが、駐車場に停めてしまったので今から引き返すという選択肢は無い。二人はチェーン展開している店舗も良く利用しているし、飛び込みで初見の店に入った経験も多い。ユウのようにチェーン店を毛嫌いしている訳では無く、口に合わない場合は2度目の利用が無いというごく普通の消費者なのである。


 店内の4人がけテーブルに案内された2人は、写真が一切使われていないメニューを手に取る。

 見開きのクリアファイルに入ったメニューは、細かい文字でビッシリと書かれている。


「字ばっかりのメニューで、選ぶのが大変。注文はノエルが決めて!」


 店内には山盛りになったカツカレーの皿を前にしている客が複数居るが、良い飲食店の特徴である笑顔が見られない。スプーンの手が止まって持て余しているような表情を見ると、ボリュームよりもどうやら味の方に問題があるように見える。


(なんとなく危なそうな店に入っちゃったみたいだから、カツカレー以外の無難そうなメニューを選ぼうかな)

 もちろんノエルは口に出さずに、地雷を避けるためにメニューを真剣に眺めている。

 

(ステーキは出処が書いてないし品質に問題があるかも知れないから、ハンバーグ辺りが無難かな)


「すいません、この名物ハンバーグを定食セットにして2つ下さい。

 ソースは2つともデミグラスで、ご飯は大盛りで」


「あとノンアルビールを2つ!」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「ノエル、注文してくれたハンバーグってボリュームがあるように見えない!」

 店内の目立つ場所に掲げられたポスターを見ながら、セーラが発言する。


「でも350グラムって書いてあるよ。

 足りなかったら、他のメニューを追加すれば良いんじゃない?」


 それほど時間が掛からずに提供されたハンバーグは、そのボールのような形状の所為かやはりボリュームがあるようには見えない。鉄板の上にしっかりと掛けられたデミグラスソースも、かなり濃度が高くドロッとしている。


「デミグラスソースにキャベツとコーンの付け合せというのは、面白い組み合わせだよね」

 やっぱり地雷を踏んでしまったとノエルは後悔しながらも、料理の見掛けに無難な感想を口にする。


「でも、ぜんぜん美味しくない!

 ソースは煮詰まり過ぎで塩っぱいし、ハンバーグは中身がパサパサで肉の味がしない!」

 セーラはさすがに小声で、ノエルにだけ聞こえるように声を上げる。

 外食が多い二人としては、店内での不要なトラブルを避けるために身についた習慣なのであろう。


 ノエルもハンバーグを一口だけ口にして、躊躇無く席から立ち上がる。


「セーラ、行くよ

(早く他の店に行って、口直ししたいな)」

 もはや隠す事無い普通の声量でノエルはセーラに退店を促すが、普段なら「もう少し食べる」と口にする彼女も納得した表情で席を立っている。


 レジで会計してくれる女性は、一口だけ食べて席を立ったノエルに何も聞いてこない。

 客が満足しているかどうかは、アルバイトである彼女には関係無いのかも知れないが。

お読みいただきありがとうございます。

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