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039.Love This Pain

 帰路の車内。


 ノエルは標準機能である自動運転を使わずに、ハンドルを握り続けている。

 彼はアクシデントに備えているというより、インフラとして整備されている自動運転を未だに信用出来ていないのかも知れない。


「ねぇノエル、あの人も?」


「うん。良く分かったね」


「一緒に居て、気持ちが軽くなる人。

 何より、食べっぷりが良かった!」


「あの人は、月面の刑務所に何年も放置されてたという過酷な経歴を持ってるんだ。

 学園でも偶に講義をやるんだけど、人気があって教室は満席になるみたいだよ」


「Le Comte de Monte−Cristoは、読んだ事がある!」


「巌窟王かぁ。

 心が強いだけじゃなくて楽天的で前向きな人だから、小説みたいな復讐は考えてないと思うよ。

 あの人なら、どこの惑星に行っても上手くいくんじゃないかな」


「何で異星出身者ばかり訪問してるの?」


「セーラには、フラット(公正)な目で見てほしいからね」


「???」


「ほら身近に居るエイミーやマイラを見ていると、欠点が見当たらない完璧なヒューマノイドとしか思えないでしょ? 完璧な人ばかり見ていると、思い込みで見方が歪んじゃう可能性があるから」


「でもプロヴィデンスが存在するから、異星人は他の惑星には干渉出来ないのでは?」


「何事も抜け道を探すのが、この宇宙のヒューマノイドの特性だからね」


「???」


「叡智と狡猾は紙一重ってね」


「難しいニホン語はわからない!」


「言ってる僕も、実は良くわからないけどね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



 夜半、ユウとの音声通話。

 ユウを姉のように慕っているノエルは、メールでは無く直接話せるのが嬉しいようである。

 

「デミグラスソースのハンバーグの作り方?」


「はい。須田食堂でもハンバーグはメニューに無いし、近場でボリュームがあるハンバーグが食べられる店があれば良いんですけど」


「ああ、セーラちゃんが『あの店』のハンバーグを気に入っちゃったんだね」


「ええ。近くの洋食屋さんでは、あれほどのボリュームがある店が見当たらなくて。

 立ち食いステーキ屋さんのハンバーグは小さくて、しかもデミソースのオプションが無いし」


「それなら、老舗のステーキ専門店で探すと良いじゃない?」


「あぁ、なるほど。

 ステーキ以外の料理として、かならずメニューに載ってますものね」


「自宅で作るなら、デミソースの缶詰を使うと良いよ。

 ●インツの業務用なら、定期配送便で手に入るし微調整するだけでかなりレヴェルが高い味になるからね」


「ユウさんは、デミグラスソースを自分で仕込む事があるんですか?」


「作り方は母さんに教わってるけど、いくらマリーが大食いでも仕込んだ分を消費しきれないからね。

 定期的に仕込んでるカーメリとかアラスカの厨房から、分けて貰った方が効率的かな」


「僕らは外食が基本なんで、ステーキ屋さんを探してみますね」


「近場でオススメできる美味しい店が見つかったら、連絡して欲しいな。

 シン君がマリーを抱えて、グンマまで短距離ジャンプしなくて済むからね」



                 ☆



 数日後のEV車内。


 後部座席には、コンビニのレジ袋に入った大量のスイーツや食料品が積まれている。

 ノエルが手土産を持参する事は珍しくないが、これだけ大量に用意されているのは珍しい。


「ノエルは年が私と変わらないのに、人を見極めるのが上手」


「そりゃそうだよ。

 子供の頃から、人を騙すのが得意な人達とやり合ってきたからね」


「それで今日は何故キャスパーさんの自宅へ行くの?」


「流れで行くと、分かるんじゃない?」


「今更、彼女を見極める必要は無い筈」


「いや、本人じゃなくて同居人に会いに行くんだ」


「同居人?彼女の恋人はユウさんだと聞いているけど?」


「同居人というより、相応しいニホン語は『下宿人』かなぁ。

 僕ともちょっと関係がある人なんだ」


「ノエル、妾の存在が発覚か!

 浮気は駄目!」


「ははは。

 どうやら僕の異母姉らしいんだけど、誰も詳しく説明してくれないんだよね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 シブヤの外れにある有料駐車場に車を停めた二人は、荷物を抱えて目的の建物に歩いていく。

 キャスパーの自宅は、コンシェルジュが常駐しているフロントから専用エレベーターで自室に直行できる豪華なタワーマンションである。

 


「ノエル!」

 自動ドアの前で待ち構えていた少女が、両手に荷物を抱えていたノエルにいきなり抱きつく。

 真後ろに居たセーラは険しい表情でそれを見ているが、『異母姉』と事前に聞いていなければ実力行使に及んだのは間違い無いであろう。


「ティア、相変わらず引きこもってるの?」


「この間、シンと欧州の美術館へ行ったよ!」


「確かに二人はそっくり……というかエイミーにも似てる?」


「セーラちゃん、それ以上は……」

 玄関に出迎えに出てきたキャスパーは、唇に人差し指を押し当てたジェスチャーで彼女を制止する。


「……大人の事情?」


「メトセラのコミュニティーでは、血縁関係を詮索するのは禁句なの。

 禁句というか、ぶっちゃけあまり重要視されていないという意味なのだけれど」


「分かった、今後は注意する」


「大丈夫!ノエルは可愛い妹!

 誰にも文句は言わせない」


「あのね……」

 実の姉と主張している彼女の暴言に、ノエルは頭を抱えるポーズを取らざるを得ないのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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