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038.Burning Lights

 ノエルのマンション。


 セルカークから帰還後、セーラは電子ブックでひたすら漫画を読んでいた。

 ちなみにCongoが所有している電子ライブラリは過去から現在まで、ジャンルを問わず膨大な量の蔵書を保有しているのである。

 読み始めたのは槍使い(ランサー)として技のヒントを得る為だったが、いつの間にか目的が変わってしまったようだ。


「すごい熱心だね」


「単純に物語として面白い!

 父さんが昔熱心に読んでいたのを、思い出した!」


「アイデアとかヒントは見つかりそう?」


「……うん、ぼちぼち、かな。

 ところでノエル、ステーキを一緒に食べたあの子とはどこで知り合ったの?」

 話題を急に変えようとしたのは、彼女は漫画を読み始めた本来の目的を忘れていたのであろう。


「いや知り合ったというか、キャスパーさんから同じマンションに居るから注意して欲しいって言われてさ」


「でもエレベーター・ホールでは、見た事が無い」


「彼が住んでるのは低層階だから、顔を合わせるタイミングは無かったのかもね」


「注意人物には、ぜんぜん見えない!」


「その通りで、義理堅くてすごくちゃんとした奴なんだよね。

 そういえば彼は商店街にある総合格闘技のジムで、トレーナーのアルバイトをしてるんだ」


「でも全然強そうに見えない」

 顔つきはシャープで締まった体つきであるが、上半身には余計な筋肉が付いていない。

 格闘家というよりも、陸上競技寄りのアスリート体型なのである。


「いや、素手で戦うと僕じゃ相手にならない気がするよ。

 彼の種族は筋肉の質が違うから、たとえばウエイトリフティングの競技に出場したら凄い事になるんじゃない?」


「そんなに!!!」


「強さを認識できない絡んで来たヤクザとかが、瞬殺されちゃうんじゃない?

 過剰防衛になるのを、キャスパーさんは心配してるんだろうね」



                 ☆



 タワー・マンションの地下駐車場。


「どこへ?」

 行き先を知らされていないセーラは、助手席でノエルに尋ねる。

 ノエルも口数が多い方では無いが、行き先も告げずに車をスタートさせるのは珍しい。


「ちょっと古い知り合いに会いにね」


 Tokyoオフィスから借りているワコー技研のEV車は、バッテリ容量も大きくロングドライブにも不安は無い。都心をスムースに脱出すると、車はサイタマの県境を超えてグンマ方面に向けて進んでいく。


「道路はあるけど、かなりの山奥。

 『関所』は無いの?」


「『関所』って……それは某映画のフィクションの話でしょ。

 もうすぐ到着するよ」


 車が停車したのは、かなりモダンな造りのログハウスの前である。

 周囲は深い森に覆われていて、別荘地とは無縁の場所であるのが明確に分かる。


 後席から膨らんだ紙袋を取り出したノエルは、玄関の呼び鈴を押す。


「やぁ、いらっしゃい!」


「ご無沙汰してます」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 広い部屋の中央にあるソファで、二人は親密そうに会話をしている。

 コミュニティ以外の男性と、ノエルが打ち解けているのを初めて見たセーラはかなり驚いた表情である。


「このナッツは、ハワイ産とは微妙に味が違うね」


「やっぱり分かります?

 かなり昔セルカークに移植された品種で、オーストラリアの原種に近いらしいですよ」


「そちらの美しいお嬢さんは、妹さんなのかな?」


「いえ、内縁の妻です」

 セーラは最近見た邦画の台詞(セリフ)を、有名女優の演技そのままの取り澄ました表情で呟く。


「ほう、ノエル君それはおめでとう!

 随分と若いうちに、身を固める決心をしたんだね」

 微笑みを浮かべながらセーラの分かり難い冗談に付き合っている彼は、すでに空気を読む事ができる社交性を身に着けているようである。


「ははは。

 まだ籍は入れてませんけど、まぁ生涯大事にするつもりです」


「ごちそうさま!」


「そういえば出版したグルメ本は、どれも好調みたいじゃないですか?

 僕も読ませて貰いましたけど、悪評が全く無いのが良いですよね」


「なんか出版社に自分の店も載せろって、圧力が掛かるみたいだけどね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「あっ、そうそう。

 近場で良い店を見つけたから、もし時間があったら一緒に行かない?」


「ごはん!お腹空いた!」


「ああ、僕が運転しますよ。

 お気に入りの店は、近くですか?」


「フジオカにある洋食屋さんなんだけどね」


「フジオカ……ああ、姐さんから聞いた事がありますよ。

 店内にマンガ本がやたらと多い店ですよね」


「●●文庫って店名は、店に入らないとわからないよね」


「マンガ本!」



                 ☆



「良かった。今日は営業してるみたいだね」


 年季が入った店の外見は、華美に飾られていない地元民に愛されている雰囲気である。


「地道なファンの方が、大勢居るみたいですね」

 開店前にも関わらず、既に数名のお客が行列を作っている。


「車のナンバーも、近県が多い」


 程なく4人掛けのテーブルに案内された一行は、分厚いメニューを広げている。

 セーラは山積みされている漫画の単行本に興味津々だが、さすがに空腹感が優先しているようである。


「注文は僕がまとめて大丈夫かな?

 二人はかなりの大食いだったよね」


「ええ。初めての店なので、おまかせします。

 僕より食べるので、セーラの分は大盛りでお願いします」


 セットのサラダとライスが先にテーブルに置かれるが、セーラ用の大盛りライスは俗に言われている『漫画盛』りになっている。


「うわぁ、ごはんの盛り方が嬉しい!

 お代わりしなくても大丈夫そう」

 

 配膳してくれたおばちゃんが、セーラの一言に笑顔になっている。

 SNS受けを狙って大盛りを注文するお客には、辟易しているのであろう。


「須田食堂以外にも、こんな盛りをしてくれる食堂があるんですね」


「あぁ、あそこの定食屋さんは本当に美味しかったですよね。

 それじゃ頂きましょうか」


 湯気が立っている3人前のステーキ皿は、巨大なハンバーグ以外にもチキン・ソテーやベーコンが相盛になっているすごいボリュームである。


「セーラちゃん、どう?」


「うん!ハンバーグは牛肉の味が濃くて、すっごく美味しい!」

 セーラの一言と豪快な食べっぷりは、近県の大食いが集っている?この店内でもとても目立っている。

 普段から女性フードファイターに見誤られているが、彼女の美貌とのギャップ故に、話し掛けれれる事は滅多に無いのである。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎

 

 米粒はおろかキャベツ一欠片残さずにに完食した彼女は、ノエルが会計しているレジ横から厨房へ笑顔で声を掛ける。


「ハンバーグで満腹になったのは、ひさしぶり。

 また絶対に来るね、ご馳走様!」


 笑顔で手を振る大食い美少女に、厨房の中はほっこりした雰囲気に包まれたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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