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033.Haven't Seen It Yet

「これはブートキャンプの課題で、私が使った?」


「そう。君が触ったそのままの状態でルーが送って来てくれたんだ」


「???」


「触ってみるまで、何の変哲も無いセミ・カスタムの1911だと思ったんだけど。

 ノエル君なら触って見ただけで、違いが理解できそうだよね」


 ノエルは銃を手にした瞬間、マガジンを取り外しチャンバーに残弾が無いのを確認し、スライドストップを外してスライドを取り外す。一種にしてフィールドストリップを終えると、バレルのロッキングラグのかみ合わせやスライドの内側のツールマーク、フィーディングランプの状態を確認する。


「あの……自分は元の状態を知らないので、この現物に対しての評価になりますが。

 兵站に携わった経験から言わせていただければ、凄腕のガンスミスがかなりの工数を掛けてフィッティングした採算度外視のフルカスタムだと思います」


「その根拠は?」


「このスムースな動きながらガタが全く感じられないスライドと、ロッキングラグがはらりと解除される感じ、あとフィーディングの滑らかさとかトリガープルとか数え上げるとキリがありませんけど」


「フウがチューンしたハンドガンは、使った事があるよね?」


「はい。ただフウさんがここまで時間を掛けて調整することは、あり得ないかと。

 彼女は実用性と工数とのバランスを、いつでも考えている常識的な方ですから」


「ルーは此処に送る前に当然のようにフウに見て貰ったそうだが、彼女はこの銃は自分でチューンしたものでは無いと言い切ったみたいだよ。こんなに高度が技術は、自分は持っていないと断言していたそうだ」


「……あの、私が何か?」

 何かしら叱責がありそうな空気に、セーラがおずおずと発言する。


「いや。君は非常にレアなアノマリアを保有してるかも知れない、というだけの話だよ。

 一朝一夕で解明できるような話じゃないから、現時点では気にする必要も無いよ」


「はぁ……」


                 ☆



 データセンターで簡単なミーティングを終えた二人は、リザーブされていた居室に来ていた。


「この部屋は、寮とおんなじ」


「確かに内装まで同一だから、何処に居るのか分からなくなりそうだね。

 もうすぐお昼時だから、教えて貰ったフードコートへまず行ってみようか」


「うん。

 ややっこしい話が続いたので、お腹ぺこぺこ」


 この島の住人は自炊が基本なのでフードコートの規模は小さいと聞いていたが、客席の数はかなり多く食事以外の用途も想定しているように見える。

 中央に設置されているグランドピアノや、巨大なPA装置はフードコートというよりもホテルの多目的ラウンジのような雰囲気である。


「予想外に広い!

 まるでショッピングセンターみたい」


 ここで客席に落ち着いた二人の前に、ウエイトレスでは無くコック服を着た女性がトレイを持って近づいてくる。


「ニホン語を話すお客さんは久しぶりだね。

 シン君は元気かな?」

 どうやら注文を取りに来たのでは無く、彼女は別の用事があるようだ。


「シンさんのお知り合いですか?」


「Congohの飲食系の職員で、彼とユウさんを知らない人は居ないよ。

 唐突で悪いけど、試作品の排骨飯(パイコーハン)を食べてくれないかな?」


 問答無用で試食を頼むつもりだったのか、彼の持参していたトレイには丼が二つ載っている。

 しっかりと湯気が立っているので、まだ作りたてなのであろう。


「カツ丼みたいで、美味しそう。

 いただきます!」

 大好物のカツ丼に似ている丼モノなので、セーラは躊躇無く箸を取って食べ始める。


 セーラが口一杯に頬張っているのを見たノエルは、自分も手を合わせてから食べ始める。

 丼に入っていた白米も事前にユウから聞いていた通り短粒種で、炊きたての良い香りが感じられる。


「ああ、食べやすいようにロース肉にして、タレカツ丼みたいな調理方法にしてるんですね」


「そうなんだ。本物の排骨の方が美味しいけど、丼だと食べにくいのが難点でね。

 シン君からもアドバイスを受けて、タレもかなりアレンジしてるんだ」


「ご飯もお肉もとっても美味しい!

 ハワイのあの店のポークチョップみたい!」


「ああ、確かにそうだね。

 魯肉飯(ルーローハン)はまだレトルト餡がオーサカで試作中みたいですけど、鶏肉飯は作らないんですか?」


「残念ながら鶏肉飯は試作したんだけど、評判がイマイチでね。

 タレの味付けをまだ試行錯誤してるんだ」


「タイワン本場の味は、五香粉の癖が強いから好みが別れますよね」


「……二人はグルメみたいだから、もし良かったもう一品試食してくれない?

 食べ慣れてる人に、ぜひ意見を聞いてみたいんだ」


「僕らが食べ慣れてるメニューですか?」


 彼女は厨房に戻ると、さきほどと違うサイズの丼を二人の前に手早く配膳する。

 それは見紛う事が無い、薬味のネギだけが載った『かけ蕎麦』である。


「これは予想外!」


「ようやくメニューに入れる算段が立ったんだけど、これを評価してくれる人が居なくてさ。

 トーキョーではありふれたメニューだから、ぜひ二人に判断して貰いたいんだよね」


「うわ、蕎麦粉の比率が高いんですね。

 すごく香りが強く感じますね」


「蕎麦汁、美味しい!老舗の蕎麦屋と同じ味」


「これは、押出式の製麺機で作ったんですか?」


「さすが食べ慣れてると、分かっちゃうんだ。

 温かい蕎麦としての、評価はどうかな?」


「蕎麦の舌ざわりが滑らか過ぎるのが気になりますけど、味は普通に美味しいと思います」


「うん。

 まるでシラタキみたい(な食感)だけど、不味くは無い」


「この食堂で蕎麦っていうのは意外ですけど、研究者とか忙しい職員さんにとっては良いメニューですよね」


「そうなんだよ!出来上がりまでの時間が短いし、トッピングでバラエティが出せるからね。

 ユウさんからアドバイスを貰って、ここまで仕上げるのに時間が掛かったけどね」


「なるほど、蕎麦汁のレシピはユウさんに教わったんですね。

 ●士そばみたいに、セットメニューにするのも良さそうですよね」


「いやぁ、立ち寄ってくれたおかげで少し先が見えてきたよ。

 あと懸案の食感の問題は、もっと水分量とか圧力で微調整をしないと」


「押出式麺の蕎麦チェーンってニホンには結構ありますよね?

 企業秘密の部分かも知れませんけど、ノウハウが分かると良いですね」


「聞いた限りでは、やっぱり蕎麦の製粉具合と水加減みたいなんだよ。

 試行錯誤を繰り返してるんだけど、まだ経験値が足りてないのかも」


「だったら、強力粉から生地を作るポピーナのベテラン職人に、アドバイスを貰ったら良いような気がしますけど」


「あっそうだね。ポピーナの店長に、お願いしてみようかな」

お読みいただきありがとうございます。

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