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021.I Will Find A Way

 須田食堂。


「セーラ、最近良く食べるね!」

 『いつもの定食』に加えて大盛りの野菜炒めを頬張っているセーラは、総カロリーだけでは無く栄養バランスも考えているようだ。


「ノルマがあるから。

 まだ成長期だから、効率的に身体を大きく出来るって」


「そうそう。

 おばちゃん、私にもいつも定食ね!」


「ねぇトーコ、何で君が同じテーブルに居るの?」


 5年前は食が細かったトーコは、背丈が高くなっただけで無く抜群のプロポーションの和風美人に成長している。Congoh御用達のこの店でもそもそとご飯を食べていた姿は、今の彼女からは全く想像出来ないであろう。


「そりゃセーラとは、超仲良しだからね。

 アンからも、お世話するように言われてるし」


「トーコもここ何年で、印象が大きく変わったよね」


「そう?」


「最初に会った頃はマトリョーシカみたいだったのに、今やGPライダーみたいになってるし」


「昔の写真を見て、ビックリした。

 まるで別人!」


「おばちゃん、あとお新香盛り合わせを追加ね!

 私はそんなに筋肉は無いし、そんなに変わったつもりも無いんだけどね」


「ワンメイクレースのタイムは自分より速いって、アンが感心してたよ」


「そりゃ私の腕前じゃなくて、和光技研の人達のおかげでしょ。

 アンが顧問に居るおかげで、役得も大きいしね」

 トーコはすごい食べっぷりで、揚げたての唐揚げを頬張っている。

 食が細かった昔の面影は、もはや微塵も感じられない。


「トーコ、バイクも教えて!」


「うん、喜んで。

 セーラは昔の自分を見てるみたいで、世話を焼きたくなるんだよね」



                 ☆



 Tokyoオフィスの敷地。


 セキュリティ上の理由で、敷地内は立木などの障害物が全く無い。

 広大な敷地に見えている大使館に使われている建物は小さく土地の無駄遣いのように見えるが、実は地下には過去の大戦で作られた巨大な地下施設が埋没しているのである。


 トーコはカラーコーンを並べて、簡易コースを作っている。

 セーラは肘と膝にプロテクターを付けた姿で、ノエルにスポーツタイプの電動バイクの操作を習っている。


「クラッチとかギアは無いの?」


「電動バイクでも付いてるのもあるけど、この和光技研の電動バイクには付いてないね」


「それじゃ運転は自転車と一緒?」


「極論すると、そうなるね。

 でも重量が200Kgもある自転車は存在しないし、ほらハンドルもそんなに曲がらないでしょ?」


「ふ〜ん」


「それじゃ後ろにのって、しっかりと掴まっててね」

 コーンを並べ終えたトーコが、ヘルメットを装着してセーラに指示を出す。

 セーラは慣れないヘルメットを被るが、顎のストラップに苦戦しているようだ。


 ゆっくりと即席コースを周回し始めたトーコだが、どんどんスピードを上げていく。

 スムースな体重移動を後席のトーコに体感させて、バイクの基本的な運転を教えているのであろう。

 かなりスピードを出した周回を終えると、モーターを停止させてメインスタンドを立てる。


「バイクって、気持ちいい!」

 ヘルメットを被ったままで、トーコは嬌声を上げている。

 喜怒哀楽をこれだけストレートに表現するのは、彼女としては珍しい。

 仮設コースでは周回していただけで景色は変わらないが、路面を捉える感覚と風を切って走る爽快感がセーラの琴線に触れたのであろう。


「カーブを曲がる時の、感覚は分かったかな?」


「うん」


「それじゃ右手のアクセルを開けすぎないように、一人でゆっくりと周回してみようか」


了解(ラジャ)


 電動バイクはほぼ無音なので、アクセルワークの技量を判断するのは難しい。

 だがセーラは予想していた以上に、スムースに周回を重ねていく。


「あらら、この様子だと標識だけ覚えればもう公道に出れそうだよね」


「そうですね。免許証はすでに持っているので、あとはツーリングして公道に慣れて貰えば」


「もしかして運転に関しては、すごい逸材なのかも知れないね」


「ええ。後で彼女の母君についても、調べておかないと。

 想像していない適性が、まだまだありそうな気がしますね」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 翌早朝、ノエルのマンションの地下駐車場。

 

 前日の練習でも使用した和光技研の電動バイクは、大型クラスの出力があるのでタンデムしてもかなり余裕がある。ノエルが運転しては練習にならないので、当然セーラが運転しノエルが後席に座る事になる。


「ノエルに後ろから抱きしめられると、興奮して運転出来ないかも」

 今日の彼女は、トーコから借用したライダーズジャケットを着ている。

 身体の各所にプロテクターが入っているので、転倒してもダメージは小さいであろう。


「ははは。

 ふざけてないで、出発しよう。

 道はインカム越しに教えてあげるから」


了解(ラジャ)


 運転が初心者の上にタンデムも初めてだろうが、彼女は地下駐車場からスムースに公道へ出ていく。

 後席でセーラに抱きついているノエルは、彼女のシートにしっかりと収まっている安定感に驚いていた。


(乗馬を経験してるからか、体幹がしっかりしてるんだよね)


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 数時間後。


「ここがトーコが言っていたお店?」

 昔のドライブインのような広い駐車場に、セーラはバイクを停車させる。

 メインスタンドを軽々と掛ける事が可能なのは、腕力以外にもバイクの重心をしっかりと把握しているからであろう。


「そう。もつ煮が有名な店は全国にあるけど、ここは別格かな」


「ふぅ〜ん、店構えは質素だけど、すごいお客さんがいっぱい!」


 行列に並んでいると、店内から出てきたおばちゃんから注文を催促される。


「もつ煮定食大、ご飯大盛りを2つ」

 ノエルの注文の一言に、お店のおばちゃんは特に文句をいわずに受け付けてくれる。

 どうやら複数回来ているノエルの顔を、常連?として覚えていたのであろう。


「はい。おまちどうさま」

 着席して1分も掛かっていないが、いつものようにお盆を縦向きにして定食が配膳される。

 大ぶりの丼にはご飯がてんこ盛りされていて、たおやかな二人に似つかわしくない光景である。


「うわっ、美味しそう!」


「七味は味を見てから、少しづつ入れてね」

 佃煮瓶の蓋に穴を開けた容器から、ノエルは控え目に七味を振りかける。

 以前に辛味を足しすぎて、失敗した経験があるのだろうか。


「ん〜美味しい!」


 幸せそうな表情を浮かべてモツ煮を頬張る美少女に、普段は無表情な店員さん達も思わず笑みを浮かべていたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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