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017.Nothing Is Wasted

 某政党本部の会議室。


 襲撃を回避したシリウスとノエルは、大臣の車に同乗して党本部へ来ていた。

 同乗していたコイケ以外のSP達は、所轄の警察と現場の事後処理をしているので此処には居ない。


 対物ライフル弾はシリウスによって防がれ後続集団もノエルが瞬時に無力化したのであるが、実は間近で見ていた筈のSP達は襲撃の内容を全く把握できていない。党本部に漸く合流したSPの隊長は、大臣同席のもとノエルから襲撃の概要を説明されている。


「対物ライフルは、この小さな犬が防いだと?」


「ええ、その通りです」


「1キロ離れた鉄塔の狙撃手は、車に同乗していた君が無力化したと?」

 いまだに性別が女性と勘違いしている隊長は、たおやかに見えるノエルを見てどう対応したら良いか困惑しているようだ。


「ええ、その通りです」


「追加の襲撃者達は、君が一人で無力化したと?

 更にあの大破した装甲車も、君が一人で壊したと?」


「ええ、その通りです」


 報告書をまとめる必要がある隊長は、こめかみを押さえて唸っている。

 あまりに現実離れした内容に、どう報告すれば良いのか頭を抱えているのであろう。


「隊長、あまり深刻に考えずに『プロメテウスから派遣された少尉が護ってくれた』と記述すれば、丸く収まるんじゃないかな?」


「あの大臣、それは流石に……」


「昔から軍関係者の間では、プロメテウスの兵隊は一騎当千であると言われてるんだ。

 君の上官が古株なら、それ以上追求される事は無いと思うよ」


「はぁ……」


 会議室から退出した隊長を気の毒そうな表情で見ながら、大臣はノエルに話し掛ける。


「シリウスには驚かされたけど、ノエル君には更にビックリだよ。

 義勇軍の人達は、服の下にSマークを隠してるのかい?」

 大臣はノエルが遠く離れていた対物ライフルの狙撃者を、最初に排除したのをしっかりと理解しているようだ。


「これは僕個人の能力では無くて、特殊な装備のお陰なんです」


「米帝の国防長官が聞いたら、その装備を買い占めようとするだろうね」


「その辺りの事情は口外出来ませんが、前任の大統領とは話が付いていますので。

 それに義勇軍は、現職の大統領とはお付き合いがありませんから」


前大統領(アンジー)は、素晴らしい人物だったからね

 現大統領と比較すると、振り幅が大きすぎるかも知れないね」


「ええ。

 ホワイトハウスのスタッフとして警備に協力していた義勇軍のメンバーも、没交渉になってしまいましたし」


「いずれにしても、君はセーラをしっかりと守ってくれそうだね。

 今後共に、孫娘を宜しく頼むよ」


「はい、それはもちろんです

 彼女は我々と同じ血筋ですし、個人的にも大切な人ですから」


「それは嬉しい一言だな。

 私が元気なうちに、曾孫を見れるのを楽しみにしているよ」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


『ノエル、今込み入った会話が出来ますか?』

 個人的な会話が一段落したタイミングで、SIDが珍しく割り込んでくる。


「ん、何か判明した事実があるのかな。

 今室内は大臣と僕だけだから、大丈夫だよ」


『どうやら作戦を主導していたのは、米帝の『大手メーカー』らしいです』

 ここで大臣の表情が一瞬にして険しくなる。懸念はしていたが、妨害のみならず実力行使に及んできたのは想定外だったのであろう。


「かなり意外だね。

 それに証拠を掴まれないように、相手もかなり用心してたんじゃないの?」

 現状で判明している事実としては、ノエルが言うように使用した要員や武器は徹底して東側のもので出所がわかる痕跡は全て消されていたのである。


『それが、Congohの調達部門へ情報提供(タレコミ)があって』


「ああ、ベルさんは中古兵器市場では顔だって聞いてるよ」


『ご存知のように大量購入する上客ですから、ロシア系の中古武器業者からリーク情報が入ってきたみたいです』


「へえっ、積年の恨みでしっぺ返しされたって訳なんだ」


 『大手メーカー』は米帝にあらゆる装備を納入しているので、その強い立場を利用してかなり阿漕(あこぎ)な事をしていると噂されているのである。


『内調には情報を提供しましたから、大臣のお耳にもすぐに詳細が届くと思いますが』


「……」


「あまりにも大手ですから、絶縁するのも難しいですよね。

 手打ちするにも、交渉に時間が掛かりそうですね」

 義勇軍の兵站に関しても関与しているノエルは、年に似合わない残念そうな口調で呟く。


「あいかわらず総取りを狙ってるんだろうけど、なんとか関与分野を少なくしないとニホンの航空産業が駄目になるからね」

 ノエルの一言に頷きながら、大臣は溜息混じりに声を絞り出したのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎

 


 数日後。

 Tokyoオフィスリビング。


「大臣の退任と引き換えに手打ちというのは、はっきり言って納得できませんね」


「自衛大臣としては、あの人は技術にも詳しいし辣腕過ぎたんだろうな。

 まぁこのまま自衛大臣を続けても、更に危険な目に遭うのは間違いないだろうし」


「あの大手が強行手段に出るなんて、米帝の今のトップは何をしてるんでしょうね。

 元大統領(アンジー)なら、そんな暴挙は絶対に許さなかったでしょうし」


「あの会社は研究開発部門はマトモなんだが、古き悪しき伝統が経営部門に受け継がれてるからな。

 退任の引き継ぎが終わったら慰労でハワイベースに招待しようと思うんだが、ユウとお前が接待役を引き受けてくれるかな?」


「ええ、喜んで。

 セーラも連れていけば、良い休暇になりそうですよね」


「次の役職は公安の幹部らしいから、接待しておいて損は無いからな」


「フウさんにしては、妙に打算的ですよね?」


「うちのメンバーは本気を出して暴れると、テロが起きたと勘違いされるからな。

 武官として勤務しているメンバーが、国内退去にでもされたら戦力ダウンが確実だし」

お読みいただきありがとうございます。

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