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013.All Yours

「なぜこんな場所に停まるの?」


 山岳トンネル内の退避場所に停車したノエルに、セーラが怪訝な表情で尋ねる。


「ここで待ち合わせをしてるんだ」


 後続車両が来ていないのを念入りに確認したノエルは、車外に出るようにセーラに促す。


「もうそろそろ、約束の時間かな」

 ノエルが口を開いた瞬間、一組の男女が目の前に現れる。

 ジャンプで現れたシンは、アンを横抱きしている。


「えっ、何!」

 ジャンプによる出現を初めて目の当たりにしたセーラは、驚きの声を上げている。


「セーラ、この人は僕の兄みたいな人でシンさんだよ」


「セーラちゃん、これから長い付き合いになると思うけど宜しくね」


「んんっ、ノエルと似てるけどとってもハンサム。

 隣の私と同じ服装の人は?」


「彼女はアン、頼りになるお姉さんかな」


「年上って言っても、そんなにノエルと変わらないわよ。

 それよりも早く交代しましょ」


 後席に抱えていた荷物を置いたアンは、ドアを閉めるとドライバーシートに腰掛ける。

 彼女は手慣れた様子で、シートの位置とハーネスを調整している。


「……同じ服装は、そういう事なんだ」

 頭の回転が早いセーラは、説明無しに交代の意味を理解したようである。


「この合流地点までに襲撃される可能性もあったけど、何も無くて良かったよ。

 セーラの体力の回復を待ったのは、それが理由だったから」


「それじゃセーラちゃん、バックパックをこっちに頂戴。

 それじゃノエル君、彼女はしっかりと預かるから宜しく」


「???」

 バックパックを背負ったシンに横抱きされた彼女は、ノエルに向けてコクリと首を傾げている。


「セーラ、たぶん今日中にはケリが着くと思うから、Tokyoオフィスでのんびりしていて」


「……うん?」


 ノエルが言葉を終えたタイミングで、セーラを横抱きにしたシンがトンネルの中で消失する。


「第一段階終了。

 それじゃ、運転はお任せしますね」

 助手席に乗り込んだシンは、ハーネスを装着する。


「欧州の道をこの車で走るのは、久しぶり。

 ノエルが運転しても、構わないけど?」


「ドライビングテクニックでは絶対に敵わないから、遠慮します。

 それにこの車、アンの趣味が入ってますよね?」


「そりゃ私がプロデュースした和光技研の特注車だからね。

 でもおかしな特殊装備は、アラスカの007マニアの仕業だけど」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 トンネル内を走り始めて僅か数秒で、SIDから警告が告げられる。


『200メートル先のトンネル出口で待ち伏せです。

 装甲車両一台、Mi−24一機で道路が閉鎖されています』


 ヘリのローター音がしていないのは、既に道路を封鎖するように着陸しているからであろう。

 図体の大きい旧式の戦闘ヘリは、欧州の幅広の道路を封鎖するには絶好のサイズである。


「あらら、あんな骨董品をこんな田舎道に引っ張り出して」


 トンネル出口がかろうじて目視できる距離で、アンは車を静かに停車させる。


「SID、封鎖されている道路に一般車両は居るのかな?」


『監視衛星からの画像解析では、待ち伏せの一団以外には車両は見当たりません。

 この場所はセキュリティカメラが殆ど無いので、通行人については不明です」


「時間を掛けると、一般人が巻き添えになる可能性が高いかな。

 短時間で始末しないと」


「この車の特殊装備だけじゃ、切り抜けるのは難しいわね。

 言われた通り、例のモノは持ってきてるけど」


「アスカロン……これを実戦で使う事になるとは」

 ノエルが後席から取り上げた武器は、まるでベルトリンクが付いていない小型のガトリングガンに見える。マズルサイズは小さいが5連の銃身と、それを回転させる為の駆動装置が付いている。


「射撃が苦手な私じゃ満足に使えないけど、ノエルなら大丈夫なんじゃない?」


「地下レンジで試写した時には大丈夫でしたけど、実戦だとどうなる事やら」


 助手席から降りたノエルはセフティを解除し、両手持ちのアスカロンを構えながら走り出す。

 まるでスプリンターのように滑らかなフォームで疾走するノエルは、アスカロンの重さを微塵も感じさせない。


『ヒュイーン!』

 漸く回転を始めた銃身の速度は目に見えるほどに遅いが、駆動装置のグリーンランプを確認したノエルはグリップに付いているトリガーを引き絞る。


『ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!ヒュン!』

反動も発射音も無しに銃身から何かが飛び出して、空気を切り裂く音がトンネル内に残響する。


 待ち伏せ相手が銃器で反撃出来たのは最初の数秒で、トンネルを塞いでいた走行車両とヘリが輪郭を失ってまるで蜃気楼の様に形が無くなっていく。


 トンネルの出口で立ち止まったノエルの見たものは、まるで航空事故が発生した現場と同じような一面に広がる細かい残骸のみである。


「……言葉が無いわね」

 ゆっくりと徐行しながら付いてきたアンは、運転席から上ずった声を絞り出している。

 自爆テロに遭遇した事がある彼女としても、見たことが無い凄惨な光景なのであろう。


「試射じゃ分からなかったけど、まるでアヴェンジャー(GAU−8)を乱れ撃ちしたみたいだ」


「残骸も、元が何だったかぜんぜん分からないものね」


「セーラと交代して貰って良かったですよ」


 ノエルはポケットから取り出したゼリーのパウチを、次々と口にして空にしていく。

 飲食を躊躇うような光景の中ではあるが、ノエルは早急にエネルギーを補給する必要があるのだろう。

 飲んでいるのは超高カロリーのエネルギー補充飲料で、マリーの為に開発された特注品である。


「確かに、夢に見そうな光景だものね」


「それじゃ引き続きカーメリまで運転をお願いします。

 疲労感が酷いんで、僕は助手席で一眠りさせて貰います」


 パウチを数個空にしたノエルは、見るからに顔色が悪く疲れた表情をしている。

 銃身すら熱くなっていないアスカロンを後席に置くと、ノエルは腕を組んで目を閉じたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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