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026.All The Time

 場所は変わってシンが滞在中のアラスカ・ベース。


 約束どおりフェルマの研究室を訪れたシンは、グラヴィタス能力の計測に協力していた。

 身近に居るマッド・サイエンティストに日頃振り回されているシンではあるが、メトセラの女性とは違う柔らかい語り口や雰囲気に惹かれたのも進んで協力する気になった一因である。


 具体的には巨大なフレームに収まった直径1メートルほどの鉄球を動かすという単純なものだが、上半身裸で計測機器を付けたシンはかなりの手応えを感じていた。

 浮き上がらせた鉄球をフレームに触れないように空中で固定し、左右へ少しづつ移動させる。その状態で鉄球に様々な方向の回転運動を加え、さらに停止させる。

 これらの複雑な動きは、以前のシンには絶対に出来なかった芸当であろう。


(これはかなり効率の良い訓練になるな。タングステンとかの重金属で、同じような機材を作ってもらおうかな)


 室内には微かに芳香性の香りが充満しているが、香水が苦手なシンも何故か不快感を感じない。

 ボディラインがくっきりと分かるニットのワンピースに白衣を羽織った彼女が近づくと、その香りが強くなるような気がする。

 もしかしてこれはフェロモン?という奴なのかと、シンは鼻をひくひくさせないように自重(じちょう)しながら考えていたのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 数分後。

 計測がひと段落し、応接セットでシンはコーヒーをご馳走になっていた。


 計測終了後に機器を取り外し甲斐甲斐しく汗を拭ってくれたフェルマは、何故か顔を真っ赤にして拭ったタオルを手に室外に出て行った。

 ドリップしたコーヒーを手に戻ってきた彼女の顔はまだ赤みが抜けておらず、なぜか恥ずかしそうに目線を逸らしたまま応接セットに腰かけたシンにコーヒーを配膳する。


 Tokyoオフィスの面々が愛飲している濃いエスプレッソでは無く、浅煎りの豆を使った軽い風味のコーヒーはシンの好みにピッタリである。

 普段の忙しい日常と違って、あと何日かはのんびりと過ごす事ができる開放感と美味しいコーヒー、そして不思議な香りの効果でシンはかなりリラックスしていた。


「過去のグラヴィタスの使い手の記録?」

 数分後やっと顔色が元に戻った彼女は、普段の冷静な表情に戻っていた。

 生化学の専門化である彼女がシンの裸の上半身如きで赤くなったとは思えなかったが、その点を彼女に質問するほどシンは世慣れていない訳では無い。


「ええ、多少なりとも残っていれば嬉しいんですが」


「有名なのはそうね……海を二つに割った人とか」


「そういう伝説みたいのじゃなくて、能力をどう使ったとかの現実の記録が見たいんですけど」


「いや、それは伝説じゃなくて事実だと思うわ」


「???」


「オリジナルと呼ばれる第一世代のメトセラは、記録によれば本当に派手なことをたくさんやっているから。

 それにグラヴィタスを使えた人はメトセラの歴史上でもほんとに数人だから、シン君もその伝説の人達と無関係じゃないと思うけど」


「……」


「多分シン君の見たい資料はSIDのデータベースにもあるだろうから、暇な時にでも尋ねてみると面白いわよ。

 私には開示されない情報でも、血縁がありそうな君なら見せて貰える可能性が大ね」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 研究室を後にしたシンは、基地指令から薦められた温泉施設にエイミーを伴って来ていた。

 この温泉は海外にあるそれと同じで、男女の区分けは無く当然のように混浴である。


「地下にこんな温泉があるのは、凄いですね」

 シンの横で湯船につかっているエイミーは当然の事ながら一糸まとわぬ姿だが、普段からルームメイトとして生活し見慣れているのでシンには特に思う事は無い。

 もちろん幼い妹を0歳児の頃から身近で面倒を見てきた経験も、影響しているのは確かなのであるが。


「エイミー、こうして見ると背が伸びたよね」


「ふふっ、もうちょっと我慢して下さいね」

 湯船でほんのりと赤く染まった表情で、エイミーが呟く。


「我慢って?」


「まだ胸も小っちゃいですけど、キャスパーさんと同じ位のナイスボディになる予定ですから」



                 ☆



 毎日の除雪作業によるトレーニング、自分で調理しなくても用意されている美味しい食事、素晴らしい音色のギターを演奏しリラックスできる沢山の時間。

 シンのアラスカでの一週間は、あっという間に過ぎていった。


 最終日、帰路便が出発する直前。

 シンは基地司令と一緒に、綺麗に除雪されている地表の滑走路に来ていた。


「シン君、一週間ご苦労様」


「はい。とっても有意義で、良いトレーニングになりましたよ!」


「それで、あそこに見える雪の塊は何なのかな?」


「あはは、除雪した雪を積み上げるだけだと能がないので、サッポロ雪祭りを思い出して作ってみました」


 基地司令が雪の塊と称した場所には、夢の国で見覚えがある外見の『塔が沢山あるヨーロッパ風のお城』が出来上がっていた。

 子供が砂で作る造形とはちがって、塔の円柱は滑らかでまるで実物の建築物のように緻密な作りである。


「レイからギターを教わっているって聞いてたけど、君はアートの才能が音楽以外にもありそうだな。

 出来が良すぎて、衛星の定点撮影でおかしな事にならなきゃ良いが」


 基地司令の懸念通り、衛星から撮影された画像は『雪原の謎の建築物』として大きな話題となってしまうのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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