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003.Born That We May Have Life

 数日後。


 ノエルのマンションで開かれる不定期の飲み会は誰でも参加できるが、アルコール度数が高い蒸留酒を学園生には飲ませないのが不文律である。Tokyoオフィスは大使館の中にあるので治外法権なのだが、ノエルの自宅ではニホンの法律が適用されるというのがその大きな理由である。


 尤も学園生の大多数を占めるメトセラ(プロメテウス出身者)は、アルコールや毒物に対する耐性が異常に高いので、急性アルコール中毒になる可能性はほとんどゼロなのであるが。


 冷蔵庫に備蓄されていた常備菜や余った料理は、ホスト役のノエルが古いものからテーブルに出している。

 彼は段取りを重視する性格なので、料理は大皿を使って整然と綺麗に並べられているのは当然である。ほとんどが冷たいままであるが、ピッザだけはエイミーが作って生地状態で冷凍していたものを直前に焼き上げたものになっている。


「セーラちゃんは、だいぶ元気になったみたいだね」

 冷えたグラスで日本酒を飲んでいるシンは、ますますレイに似てハンサム度が増している。

 細マッチョであるのは変わらないが、数え切れない修羅場を経験して来たのは伊達では無い。

 ちなみに口にしている久●田千寿はCongohの定期配送便で手に入るもので、流通に乗っている吟醸酒の中では適正な価格と味で評判が高い一品である。

 

「ん」

 ユウの隣に座っているセーラは冷たい焼き餃子をおちょぼ口で齧りながら、ユウに注いで貰った同じ日本酒を口にしている。彼女は欧州滞在が長くワインを飲み慣れているので、フルーティーな吟醸酒が口に合うのであろう。


「うん。ノエル君とお似合いじゃないかな。

 ミーファはどう思う?」

 横目で彼女を見ているユウは5年前は既に成人していたので、容姿は全く変わっていない。

 だが少しの歳月は彼女に、より女性らしい艶やかさをもたらしている。


「私はノエルの『保護者』だから、ジョディさんみたいに無関心ではいられないですけどね。

 心情的には、Cut In(割り込み) Lineって感じですかね」

 

 ピッザを頬張っているミーファは、幼女からすらりとした肢体の美少女に変貌している。

 飛び級で医大に進学した彼女は日々街角で芸能関係者にスカウトされるので、外出時にはサングラスが欠かせないという。


「いじわる!」

 気安い言葉遣いは、ミーファと彼女の関係が予想外に良好である所為であろう。

 実年齢では彼女はセーラよりはるかに年下なのだが、『保護者』を自称するだけあって年齢不相応の貫禄を感じさせるのである。


「ははは。でもセーラはユウに似ているから、ノエル好みなんじゃない?」

 ロングソファでユウと横並びで座っているセーラは、確かにユウと姉妹と言われても不自然では無い。


「嫌われないように、いろいろ教えて?」

 隣にすわっているユウに、彼女は破壊力抜群の上目遣いでお願いをしている。


「えっ、私が?」


「うん。料理以外も」


「そういえば愛弟子のエイミーは、料理も格闘技ももうユウさんから卒業したんでしょ?」

 ミーファは、シンが作った牛腿肉のコンビーフを美味しそうに頬張っている。

 荒くほぐしたそれは、市販品と違って肉の旨味が凝縮した逸品である。


「うん。今はシン君と一緒に、母さんから教わってる段階だからね。

 確かに手は空いてるけど、そういうのが望みなのかな?」


「うん。

 逃さないように」


「ああ、そういう事か。

 セーラの母君は血筋的に私の母さんに近いみたいだから、本人からお願いされると断れないかな。

 ノエル君はどう思う?」


「ユウさんにお世話して貰えるのなら、全く異存は無いです。

 というか、すごく羨ましいですね」


「まぁ既に内縁の妻状態だからね」

 毒舌はミーファの特徴であるが、彼女の一言にセーラはしっかりと頷いている。


「彼は私のもの。それは確定事項!」


「シン君、愛されてるね」


「……」


                 ☆


 翌日。


 荷物エレベーターで届いた定期便を、搬入口でノエルとジョディが検品をしている。

 このフロアはすべてノエルが所有しているので、荷物収納用の専用搬入口が存在するのである。


「今回の定期配送便は、やけに量が多いね。

 こんなに注文した覚えが無いんだけど」


「ほとんどがフウさんが注文した衣料品ですね。あのお姫様の分じゃないですか?」

 専用ターミナルにチェックを入れながら、ジョディは応える。


「ジョディさんまでお姫様って言うんだ。

 この可愛らしいワンピースは、あきらかにフウさんの趣味だよね」


「ほほぅ、意外にもノエルはそういうフェミニンな服装が好きなんですか?」


「いやいや、周りにこういう服を着てる人が皆無だからさ。

 それに野戦服を着て育ったから、カーキ色以外の服装は新鮮なんだよね」


「私もそういうファミニンな服装の方が良いでしょうか?」

 ジョディはワンピースを前に当てて、にっこりと笑う。

 彼女は軍隊経験者だけあって、普段の服装もジーンズを含めラフな印象がある。


「とってもお似合いですけど、同僚にそんなセクハラみたいな指示は出せませんよ」


「そういえばあの子、今日は早朝から出掛けたんですね」


「護衛の人を連れて、ユウさんに会いに行ってます」


「ユウさんにお世話になるなら、自分の身の回りの事が出来るように世間一般の常識から教育して貰いたいですよね」


「でもああ見えて、実は家事が出来ない訳じゃないんですよ。

 亡くなった母君に、スパルタで鍛えられたって聞いていますから」


「ああ、良く聞くプロメテウス出身者の特徴なんですね。

 ノエル君の母君も、そうだったんですか?」


「母さんは『泳げない奴は溺れろ』っていうのが口癖でしたから。

 僕は6才の頃には、もう戦場に同行してましたし」


「今でも元気に生活出来てるのは、母君のお陰なんですね」


「ええ。お陰で頼りになる女性には弱い、マザコンに育っちゃいましたけどね」

 ノエルの唐突な一言に、何故かジョディは赤くなった表情を隠すように俯いたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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