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034.Better

 オワフ島某所。


 ノエルとジョディは、巨大ショッピングセンターの傍にある中華料理店に来ていた。

 薄暗い店内は米帝の飲食店の特徴であるが、最近ニホンの明るい飲食店に慣れてしまったノエルにとっては違和感がある光景である。ここはかなりの有名店らしく、店内は観光客と地元民で満席に近い盛況になっている。


「ノエル君、無理に連れ出してごめんね。

 此処はオワフ島に来たら、絶対に行きたいと思ってた店なんだ!」


 4人掛けのボックス席に案内された二人は、早速瓶ビールで喉を潤している。

 ノエルが年齢確認をされないのは、やはり彼の落ち着いた佇まいの所為であろう。


「いえ。僕も見掛けよりは食べるんで、こういう穴場は大歓迎ですよ。

 それにマリー姐さんも、此処はとっても良い店だって言ってましたし」


「マリー姐さんって?

 ノエル君って、マリーさんの弟だったの?」


「彼女は僕の食べ歩きの師匠ですから。

 いつも僕を弟みたいに、可愛がってくれてますし」


「プロメテウスの女性陣は似た雰囲気の人が多いけど、確かに二人が並んでると姉妹にしか見えないわよね」


「ははは。

 ルーさんと合わせて、商店街では外人3姉妹と言われてるらしいですよ」


「それはノエル君にとっては、不本意でしょうね」


「僕もシンさんみたいに男らしくなりたいと思うんですけど、亡くなった母とそっくりなので典型的な女顔と言われてるんですよ。馴染みになった美容師さんは、短髪は絶対駄目でこの髪型以外は許してくれませんし」


「確かにショートボブがこれだけ似合う人は居ないかもね。

 でもノエル君は年上に好かれるシン君と違って、年齢関係無く全ての女性に好かれるタイプだよね」


「はぁ、自分では良くわかりませんけど。

 まぁトーコさんとかの男性が苦手なタイプとも、仲良くさせて貰ってます」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



「うわぁ、噂以上に凄いボリュームだわ!」

 大皿に盛られたキムチチャーハンと、同じサイズの皿にてんこ盛りされた豚肉のフライを見てジョディが嬉しそうな声を上げる。だが注文はそれだけでは無く、テーブルの上を埋め尽くす勢いで次から次へと大皿が運ばれてくる。


「なるほど、少食のシンさんが同行を遠慮すると言ってたのも納得ですね」


「この店ではDoggy(持ち帰り)Back(紙袋)が何時でも頼めるから、店員さんが注文を静止しなかったのね。それじゃ、食べましょう!」


「これはニホンの洋食屋さんの、ポークチャップと違いますね」


「???」


「ケチャップ味が付いてないし、どっちかと言えばトンカツ寄りですね」


「私はニホン食に詳しくないけど、トンカツは人気のある料理なんでしょ?」


「ご馳走というより、日常食としては人気があるメニューですね」


 持ち帰りを全く考えていない二人は、すごい勢いで皿を空にしていくのであった。



                 ☆



 夜半のリビング。


「Dragonflyの定期テストですか?

 明日は体が空いてますから、大丈夫ですけど」


 夕食を担当したユウは、ジャンプで帰還する前に休憩している。

 宿泊した方が手間が少ないと思いがちだが、ジャンプ先で睡眠を取ってしまうと時差の修正が難しくなるのである。


「うん。最近は出番が減ってるから、時々はフライトしてやらないとね」


「自分が操縦するなら対空時間を稼ぐという名目がありますけど、後席が空いてるのは勿体ないですよね」


「エリーを乗せるのは体力的に不安があるから、空席でも良いかな」


「それじゃジョディさんに希望を聞いてみて、駄目なら空席にしましょうか」

 コミュニケーターを通じて会話するので無く、ユウは席を立って彼女の自室へ足を向ける。


「そうだね。与圧服は慣れてないと体重も落ちるし、遊覧飛行とは言えない辛さがあるからね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「もちろん乗ります!」

 就寝前に部屋の大画面でネットサーフィンをしていたジョディは、部屋を訪ねて来たユウに食い気味に返答する。


「えっ、即答して大丈夫?乗り慣れてるうちのマリーも、与圧服はできれば避けたいって言ってる位なんだよ」


「だってこれを逃すと超高高度のフライトなんて、二度と体験できないと思いますし。

 それに『宇宙の渚』っていうのを、ぜひ肉眼で見てみたいじゃないですか」


「それじゃ、もうアルコールを飲まないでしっかりと睡眠を取ってくれるかな」


「はい。でも遠足前のハイスクール生みたいに、楽しみで眠れないかも」


「……」



                 ☆


 翌早朝。


 与圧服姿のユウはドラゴン・レディのコックピットに収まっていた。

 アフターバーナーが無いターボファンの機体だが、低く鈍いエンジンの音がコックピット内に響いている。


「ジョディさん、離陸しますよ」

 インカムを通じて、後席にユウは声を掛ける。


10−4 (了解)


 さすが軍務経験者なので、応答の合図も違和感が無い。

 与圧服の圧迫感は並では無いが、スキューバの経験も豊富な彼女は呼吸の仕方でも不安を感じさせない。独立したキャノピーの後部席に居るので姿は見えないが、落ち着いているジョディにユウはこのまま離陸しても問題無いと判断したようである。


 ここで管制のジョーに向けて、リラックスした口調でアナウンスする。


「イエローピタヤ、ネットワーク接続確認。離陸する」


「こちらハワイベース管制塔、離陸を許可する。機体の様子をしっかりとモニターしておいてね」


了解(ラジャ)


 スロットルを開けた機体は、滑走路でどんどん加速していく。

「V1……VR」


 主翼の両先端に付いていた補助輪が外れ、コロコロと滑走路を転がっていく。

 パワー全開になったターボファンエンジンの唸る様な騒音が、コックピット内に更に大きく響く。


「V2、テイクオフ……」


 かなり長い距離を必要としたが、機体はふわりと滑走路を離れる。


(グライダーぽい外見と違って、やっぱりパワーがあるよね)


「うわっ!」

 初めて複座の機体に搭乗しただろうジョディは、思わずジェットコースターのように声を上げている。


 ひさびさにU字型の操縦輪を握り締めたユウの掌が、グローブの下でかなり汗ばんでいるのが分かる。


(久々だけど、このまま機嫌を損ねずに飛んでくれよ)


 ユウは座標を入力してある自動操縦装置をオンにして、操縦輪に入れていた力を抜く。

 機体は指定されたコースを、滑らかな挙動で力強く上昇していくのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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