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030.Carry Me Home

 ジョディが合流したフードコートの客席。

 彼女の支局長との面談は本当に顔見世だけだったようで、ごく短時間でノエルと合流していた。


 客席にノエルの姿を見つけた彼女は、大手ドーナツチェーン店でオールドファッションを注文している。

 ニホンでは硬めの生地のオールドファッションが主流なので、ふかふかの柔らかいタイプは珍しい。


「ニホンには、義勇軍の軍事基地は存在しないの?」

 ノエルと同じ4人掛けのテーブルにトレイを置いた彼女は、あまり知られていない事実を確認する。

 プロメテウス義勇軍の情報は、一般に閲覧できるネット上で見つけるのが非常に困難なのである。


「ええ。米帝とか欧州には基地がありますけど、ニホンの場合は航空機を保有している基地はありませんね」

 イングリッシュ・マフィンのサンドイッチを食べ終えたノエルは、マグカップでサーブされているコーヒーを口にしている。大手ハンバーガーチェーンのそれと同じ特徴の無いブレンドコーヒーは、飲めないほど不味くは無いがお替りしたいほど美味しくも無い。


「それで作戦には支障が無いの?」

 もちろんジョディは、義勇軍に存在するアンキレー装着者の能力を知らないのである。


「いざという時には、協力関係にある防衛隊の手を借りれるようになってますから。

 まぁ本当の緊急事態の場合は、ハワイベースに航空機ハンガーがありますし」

 

「そういえば、義勇軍はウイングマークを持った要員が沢山居るのよね?」


「小さい軍隊なので、空軍とか陸軍の区分けが無いんですよ。

 Tokyoオフィスのメンバーはマリー以外は、ほとんど操縦が可能です」

 案内役として過不足の無い説明をしているノエルであるが、実は義勇軍所属の兵隊としては新兵なので内容に関しては全てフウからの受け売りなのである。


「こうして米帝国内みたいなフードコートに来てると、自分の食生活を見直す良い機会かなぁって」


「???」


「NYでは忙しすぎて、サンドイッチとかハンバーガーばかりに偏りがちでしょ。

 ニホンはレストランの外食でも安くて栄養バランスが取れていて、とても良い場所よね」


「確かにニホンは暮らしやすいですよ。

 どうせなら、ジョディさんもCongohに転籍しませんか?」

 フードコートの客席を眺めていたノエルは、ここで強い違和感を感じたようでリラックスしていた表情が瞬時に険しくなっている。


「私みたいな中庸で優秀で無い人間には、肩身が狭いと思うけど。

 どうかした?」


「ジョディさん……なんか雲行きが怪しくなってきたみたいです」


「えっ?」


「これから移動しますけど、僕から離れないように注意して下さいね」


 彼女は危険を察知したノエルに助けられた経験があるので、訳もわからず頷き返す。

 トレイを片付けずに席を立ったノエルは、ジョディを伴って2階へ向かう階段を上がっていく。


「SID、シンさんは今何処に居るかな?」

 ノエルはコミュニケーターに向けて、余人が聞き取れない囁き声で会話を続けている。


「今大統領(アンジー)の用事で、北米に行っています」


「それじゃ、ユウさんには連絡が付くかな?」


「……ノエル君、何か起きた?」

 何かが起こると予感していたのだろうか、ユウがここで待ち時間無しに会話に加わった。


「今フードコートに居るんですが、機関の連中が慌ただしく入り口を固めてるんです。

 無関係なら良いんですが、このタイミングで拘束されると厄介ですね」


 ノエルと一緒に屋上に出たジョディは、ようやく緊迫した空気に気がついたようだ。


「へえっ、どこで察知されたのかな?

 もしかして入退室装置に、余計なものが写ったのかも」


「……今屋上に到着しました。

 流石にフードコートなので、手荒な事はされないと思うんですが」


「シン君が居ないから、簡単には行かないかな。

 ノエル君、空間迷彩を単独で起動できる?」


「出来ると思いますが、複数人数を隠蔽できるんですか?」


「多分横抱きすれば、大丈夫だと思う。

 私もその基地から、キャスパーを連れて脱出したから」


「ああ、そういう事情だったんですね。

 僕もこの基地には、もう顔を出せなくなるのかな」


「Congohの社用車は後で取りに行くから、そのままタイミングを図って脱出して!

 鉄条網を飛び越えれば、タクシーを拾うのも簡単だからね」


「了解。

 脱出に成功したら、また連絡します」



                 ☆



 数分後、移動中のタクシー車内。


 今回のノエルの脱出は、基地の警報も鳴らさずに穏便に実行出来た。

 フードコートの出入り口に歩哨が集まっていたのは事実だが、客席まで乱入して来なかったので二人には無関係の騒ぎだったのかも知れない。


「ノエル君、君の持ってる驚くべき特殊能力はさておいて。

 まずさっきのドタバタの理由を、説明して貰えるかな?」


「多分あの支局の建物のセキュリティチェックに、引っ掛かったんだと思います」


「私は銃火器は一切持っていないし、それにエージェントだからそれを理由に拘束するのはおかしいよね?

 スパイ容疑でも掛けられてるのかな」


「到着後にTokyoオフィスで説明しますから、もうちょっと待ってもらえますか?」


「……なんか聞きたくないような悪い話なんだよね?」


「とりあえず幾通りも解決策はありますから、そんなに気を重くしなくても大丈夫ですよ」


 背格好はまだまだ少女?に見えるノエルだが、相手に与える言葉の説得力は年齢とはかけ離れたものである。戦場の後方部門で頑固な傭兵達を束ねていた経験は、伊達では無いのであろう。


(随分と年下なのに、なぜかこの子といると大丈夫って思えるのよね)


 たしかに車窓から外を眺めるノエルの表情は、いつもと同じく沈着冷静に見えたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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