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029.Falling Into Place

 都内某所。


 Congohの社用車を運転して、ノエルはジョディを案内している。

 ジョディは米帝の運転免許システムしか知らないので、18歳未満であるノエルが運転しているのも何かの特例だと思い込んでいるのだろう。


「ここがCongohの研究施設ですか?

 まるで大学病院のような立派な建物ですね」


 まるで要塞のような正門が自動開閉し、ノエルは敷地内にある駐車スペースに車を停める。


「ええ。ニホンには研究施設が数か所ありますけど、ここは生化学専門らしいです。

 稀に受け入れる患者さんは、Congoh関係者に限りますから看板も出して無いんですよ」


 ノエルはIDカードで正面入口のドアを解錠すると、勝手知ったる様子で内部を進んでいく。

 研究室の頑丈なドアを開けるといつもながら散らかっている室内で、ナナがラップトップを前に何か考え事をしているようだ。


「おおっ、ノエル君いらっしゃい!

 新しいガールフレンドは、ちょっと年上だね」


 ナナは、ノエルとジョディにソファに座るように促すが、ソファには座る余地も無いほど物が散乱している。


「……そのセリフ、校長(ジー)からも聞いたような気がしますけど」

 ノエルはジョディのためにソファを片付けながら、前回訪問した時にはなかったペット用の止り木を見ている。そこにはノエルが先日捕獲したオウムが、まるで置物のように鎮座している。


『ノエル!、ノエル!』

 目の前に現れた彼を正確に認識したオウムは、名前を連呼している。


「短期間で随分と、ここの環境に慣れてますね」


「ああ、この子は天才王蟲だからね。

 トイレの躾も必要無かったし、放し飼いにしても逃げる様子も無いし」


 止り木から静かに羽ばたいたオウムは、何故かノエルでは無くジョディの肩にバサッと着地する。

 彼女はいきなりのオウムの行動に驚いた様子だが、本能で振り払う事も無く肩の上のオウムをじっと見ている。


「本当に人馴れしてるんですね。

 えっ?……何?」


「あれれ、気分でも悪くなった?」

 ナナとしては、珍しくビジターに気を使っているようだ。


「あの……何か言葉みたいなものが、この子から発せられたような気がして」


「???」

 ノエルは首を傾げているが、ナナは興味深げにオウムでは無くジョディを観察している。


「オーツ麦だけだと飽きるので、もうちょっと肉類が入った餌も欲しい……とか」


「なるほど。そのリクエストは覚えておくよ。

 もしかして、大型の鳥類を飼った経験があるのかな?」


「田舎の農園で育ったので、フクロウとか鷹は日常的に見慣れてましたけど」

 彼女が人差し指で優しく羽毛を撫でると、オウムはされるがままに目を細めている。


「……食事以外はとても快適だ、そうです」


「なるほど。

 テレパシーに類する能力なのかな」


「……」

 不用意な発言をしないようにノエルは口を(つぐ)んでいるが、オウムを見る目がより険しくなったのは確かである。



                 ☆


 

 数時間後のTokyoオフィス。

 ノエルはフウに相談があったのか、寮の自室からジャンプしてリビングに来ていた。


「ジョディさんは、黒服機関のブランチに挨拶に行きたいそうです」


「ヨコタか……ノエルはあの基地には土地勘があるのか?」


「いちおう行った事はありますけど、立ち寄っただけで敷地の内部は殆ど分かりませんね」


「ユウはあの場所へ行きたくないだろうから、やはりノエルに案内して貰う必要があるな」


「???」

 ユウが数年前にヨコタ基地を襲撃?した件を、ノエルは勿論知らない。

 首をかしげるノエルに説明をせずに、フウは言葉を続ける。


「黒服機関の幹部も常駐しているみたいだから、彼女は顔を出さない訳にはいかないだろう。

 まぁ最近はお互いに干渉しないような協定があるから、私やキャスパーが出張るまでも無いだろうが」


「対外的に自分が案内するのは、無理があると思いますが?」

 プロメテウスに軍籍があるノエルであっても、相手が子供扱いして揉める可能性が高いと思われる。


「案内するのは施設の入り口までで良いんじゃないか?

 ヨコタ基地のビジター・パスはこちらで手配するから、基地の家族みたいな顔をしてフードコートで時間をつぶしてれば問題ないと思うよ」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



 ノエルが運転した社用車は、問題無くヨコタのゲートを通過する事が出来た。

 指定された駐車場から、ノエルは事前に聞いていた支所の建物へジョディを案内する。

 建物はまるで空襲に備えるような重量鉄筋製で、他の基地内の安普請の建物とは印象が全く異なっている。


「うわぁ、この建物だけ雰囲気が違いますよね?」


「うん。私は良く知らないけど、何か曰くがあるみたい」


「……それじゃフードコートで、何か食べながら待ってますね。

 話が長くなりそうでしたら、連絡して下さい」


「うん。待たせて悪いけど、宜しく」


 ノエルの容貌はモンゴロイドとはかけ離れているので、首にかけているビジターのカードを見なくても誰にも声を掛けられる事も無い。たどり着いたフードコートの建物は、まるで地方都市のショッピングセンターのような立派な雰囲気である。


(うわぁ、ビーフサンドの店がバッティングしてるんじゃない?

 これならドーナツの方が良いかな)


 米帝訪問時には部隊メンバーを伴って良く利用していたので、メニューは馴染みのあるものばかりである。

 

「そういえばマフィンのメニューは食べた事が無いから、これにしようかな。

 すいません!」


 軍事基地独特の雰囲気の中で、何故かノエルは普段よりリラックスしているように見えたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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