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028.Fear No More

 翌早朝の学園寮。


 朝食前に、学園の関係者(メッセンジャー)としてユウがリビングに来ている。

 どうやら彼女は、校長(ジー)から直々の伝言を頼まれている様である。


「学園の校長先生が、私に会いたがってる?

 何かの間違いじゃないですか?」

 

 寮生の朝食準備で忙しいシンとエイミーに代わって、ユウは自らジョディに応対している。

 ユウのフットワークが軽いのはジャンプを使えるためであるが、内情を知らないジョディは早朝からメッセージを届けに来たユウに恐縮至極である


「ご存じかと思いますが、雫谷学園はCongoh直営の教育法人です。

 それに当代の校長は昔黒服機関に在籍していた事があって、現役のエージェントが来ているならぜひ会ってみたいという事みたいです」

 校長(ジー)とジョディとの面談は今回の招致の最大の目的なのであるが、それを本人に告げるのは難しいであろう。


「そういえば、昨日お会いしたフローラさんも、我々の機関に在籍していたと仰っていましたね」


「ええ。かなり昔から交流があるみたいで、昔は相互派遣が頻繁にあったみたいです。

それで、今日のご予定は?」

事前にホスト役が誰なのか把握していたのだろう、ユウは本人では無くノエルに向かって確認をする。


「滞在中に中華街を視察する以外は、まだ具体的な予定は決まっていません」


「それじゃ宜しければ、皆さんが通ってる学園にお邪魔させていただけますか?」

 校長(ジー)を表敬訪問する理由は彼女には無いが、ユウが直接伝言を伝えに来たプレッシャーは思ったより大きかったのであろう。


「それは重畳。

 校長(ジー)との面談を終えたら、イケブクロのお気に入りの店を私がご案内しますよ」


「ユウさん自らですか?それは本当に助かります」

 観光地である中華街なら兎も角、イケブクロに土地勘が無いノエルは多忙なユウの助力に心から感謝したのであった。



                 ☆


 学園校長室。


「ジョディさん、わざわざご足労いただき有難うございます」


「お会い出来て光栄です……あれっ、あ」


「ジョディさん!」


 校長(ジー)と握手をしていた彼女が、ソファの上にどさりと崩れ落ちる。

 応接用に置いてある高級ソファーセットは、ジョディの身体をしっかりと受け止めているので彼女にダメージは無さそうだ。まるで貧血で倒れたように見えるが、同行しているユウは彼女の様子を見ながら校長(ジー)に疑いの目を向けている。


「何かしましたね!

 検査の為とはいえ、強引すぎるんじゃないですか?」


「いやいや、彼女の中に居るモノが握手を通して予期しない反応をしちゃったみたいだね」


「……じゃぁやっぱり、彼女は寄生されてるんですね」


「うん。まぁ『右手』がビューンと伸びて話を始めたりしないから、安心して良いよ」


「???」

 ニホンのサブカルに詳しくないノエルは、意味を理解できずに首を傾げている。


「それは、彼女の行動に影響を与えていないという事ですか?」

 事情をしっかりと理解出来ているユウは、校長(ジー)に核心に触れた部分を質問する。


「寄生生物というよりは、彼女の思考をアシストしている感じかな。

 今この場で消してしまう事も出来るけど、最悪彼女の脳活動が阻害される可能性があるからね」


「いきなり頭蓋骨の中に空間が出来たら、医学に素人の私でも危険性は理解できますよ。

 その場合は、ナナさんの立ち会いが必要になりそうですね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 数分後。


「……あれっ、私ったら」

 ソファで横になっていたジョディが、頭を振りながら立ち上がる。


「長距離移動の疲れが溜まってたんでしょうね。

 まだフラフラしますか?」


「もう大丈夫です。

 校長先生には、失礼をしてしまいました」


 スケジュールの都合で校長は離席してしまったと聞いて、ジョディは謝罪の言葉を発する。


「いいえ。朝食の量が足りなかったのでは?

 朝食はしっかりと採った方が良いですよ」


「はい。いつもはオートミールを大盛りで食べてるんで、たしかに量は控えめだったかも知れません」



                 ☆



 数分後、イケブクロ東口の小さな中華料理店。


 この店は定期配送便のジャンボ餃子の供給元であり、Tokyoオフィスメンバーも頻繁に利用している庶民的な良い店である。


「北口には中華料理店が密集しているんですが、この時間ではまだやってないので。

 ここはニホン風の中華料理店ですけど、Tokyoオフィスメンバーが常連なんですよ」


 ノエルは授業があるのでユウに案内を任せて此処には居ないが、後ほどユウと交代する予定である。

 ちなみにこの店には英語表記のメニューが無いので、注文はすべてユウがまとめて行っている。


「学園寮の皆さんは、この店を利用しないんですか?」

 カッコンカッコンと鍋を振る音が聞こえる1階のカウンターに座った二人は、雑談を続けている。


「中華料理に関しては、シン君に頼めば何でも作って貰えますから。

 でもここの餃子に関しては、シン君もお気に入りみたいです」


「この餃子って、NYの『鍋貼』とかなり違いますね」


 先に配膳された餃子は、かなり大ぶりのジャンボ餃子である。

 通常の一人前は3個なのであるが、ユウのオーダーは一人前5個になっている。


「中国の伝統餃子は主食扱いですけど、ニホンの餃子は副菜(おかず)ですからね」


「だからご飯メニューを一緒に頼むのが、常識(マナー)なんですね」

 このタイミングで、注文していた肉ピーマン丼が配膳される。


「ええ。皮を薄くして香ばしく焼き上げるのが特徴なんですよ」


「うん!具の旨味が凄いですね。これなら副菜(おかず)として食べられるのも納得かも。

 この青椒肉絲が乗ってるライスも、美味しそうですね」


「これはうちのマリーの大好物で、ここのライスメニューは何を頼んでも安くて美味しいんですよ」


「えっ、これで6ドルなんですか?信じられない!

 うわぁ、出来たて熱々で美味しい!」


「この店は厨房で鍋を振ってから、わずか数秒で提供されますから」


「メニュー数を抑えてるのは、そういう理由があるんですね。

 あの、追加を頼んでも良いですか?」


「ジョディさんって、ノエル君から割と少食って聞いてたんですけど」


「ははは。

 年下の可愛い男の子の前で、ドカ食いは出来ませんよ」


 同じ軍務経験者の女性ながらマッチョな部分が感じられないので、ユウは初対面の彼女に強い共感を覚えたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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