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027.A Jackson In Your Kitchen

 学園寮のリビング。


 Tokyoオフィスでフウに挨拶を済ませた二人は、ジョディ本人が希望した宿泊先である学園寮に来ていた。リビングにはケイとパピ以外の主要メンバーが揃っているが、この寮では来客の宿泊が頻繁なので誰も不自然に思っていないようである。


「随分と年上のガールフレンドを連れてきましたね。

 やっぱりノエルは年上好きだったんですね」


「トーコさんそれは違います。インターン先でお世話になった方なんです。

 シンさん、しばらくお世話になります」

 ノエルは普段使わない米帝語に切り替えているが、これは来日したばかりのジョディに疎外感を感じさせない為であろう。


「改まった挨拶なんて要らないよ。もともとノエル君には、此処に住んで貰いたいと思っているから。

ミーファも後から合流するんでしょ?」

 寮のメンバーはトーコ以外は多国語を操るので、シンは打ち合わせも無しに米帝語で返答する。寮では居住地域の標準言語を使うのが規定(ルール)なのであるが、おもてなしの為に臨機応変に対応するのは当然なのであろう。


「彼女はリッキーの健康診断があるので、ナナさんに預けてから来るみたいです」


 ここでシンは彼女に握手を求めながら、気さくな雰囲気で話しかける。

「ジョディさんのことは、大統領(アンジー)からも伺っています。

 とても優秀な要員だと褒めてましたよ」

 

「あの……自分は大統領(アンジー)に直接お目にかかった事が無いのですが。

 シンさんは、大統領閣下と親しいのですか?」


「ええ。ホワイトハウスのスタッフですから。

 ところでジョディさんは、苦手な食材とかありますか?」


 シンから米帝政府職員のIDカードを見せられた彼女は、目を白黒させて驚いている。

 『Senior Advisor(上級顧問)』の記載があるという事は、大統領(アンジー)が自ら選任した職員であるのを示しているからである。


「生の食材はちょっと苦手です。食わず嫌いだと思うんですが」

 たぶん寿司を殆ど食べたことが無いのを、遠慮がちに発言しているのであろう。


「ピッザとかパスタは大丈夫ですか?」

 このシンの発言は、小麦アレルギーが無いのかという確認である。


「はい。大好物です」


「それじゃ部屋に荷物を置いたら、まず温泉にでも入ってゆっくりして下さいね。

 ルー、いつものように案内を頼めるかな?」

 女性ゲストをシンが温泉に案内するのは不自然なので、ルーに頼むのはいつものルーティンである。


了解(らじゃ)

 姉さん、案内しますのでこちらへどうぞ」

 シンと同じくらい多国語に精通したルーは、女性ゲストの扱いにも慣れているのである。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



 地階にある大浴場は、建物の規模から考えると信じられないくらいに広い。

 更衣室には各居室と同じランドリー回収ボックスもあるので、長期滞在する彼女にルーが使い方を説明している。


「寮生の衣類にはすべて電子タグが付いていますから、タグが無い衣類はクリーニング後にゲスト所有としてこちらに戻ってきます。シャツやパンツ類などの映像に残っている分は、行方不明になる事はありませんから安心して回収ボックスに入れて下さい」


 ルーが最初に手渡した新品のジャージや下着とタオル類がセットになったお泊りセットは、リビングの隠し戸棚に常備されているもので当然ながらタグが装着されている。


「まるでホテルのような贅沢なシステムですね。

 ここには良くお客さんが来るんですか?」


「Tokyoオフィスにもジャグジー付きの大浴場があるんですけど、こっちは掛け流しの天然温泉で本格的ですからね。それにシンとエイミーが揃っている時は、出てくる食事も凄いんですよ」


「ああ、宿泊先に此処を選んだのは正解だったみたいですね」


「Tokyoオフィスのユウさんは、ニホン料理が一番上手ですからね。

 この寮の料理人二人は、レパートリーが多いんでいろんな料理が堪能できますよ。


「それじゃ、ここで衣類は全部脱いじゃって下さい。

 ……お姉さんは、もしかして軍隊経験者じゃないですか?」


 ルーは浴場を案内するために、自分もさっさと服を脱いでいく。

 ニホンに来て以来身長が少し伸びた彼女は、胸のサイズもしっかりと育っているようである。


「えっ、分かりますか?」


「軍で集団生活していた人は、脱ぎっぷりで分かっちゃうんですよ」


「ははは、なるほど」


「ニホンスタイルの温泉は決まりごとが多いですけど、ここで覚えれば一般の温泉施設でも役に立ちますから」

 ケロリン桶が並んだニホン仕様の大浴場は、ジョディにとっては未知の施設であろう。


「うわぁ、すごく綺麗な夜景が見えますね。

 これはもしかしてオワフですか?」


 地下の威圧感を和らげるためのバーチャルウインドには、いつも何処かの景色が流れている。


「ええ。ハワイにも拠点がありますから、これはライブ映像ですね。

 星空を見ただけで分かるなんて、長期滞在した経験があるんですか?」


「ええ。大好きな場所ですから」


「それじゃフウさんと交渉して、ハワイベースの視察も追加しましょうか?」


「ははは。ニホンに視察に行ったのに、ハワイに立ち寄ったら遊んでたと怒られそうですね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



「うわぁ、このチャーハン美味しい!」

 彼女は夕食の席で、ピッザやパスタでは無く真っ先に大皿から取り分けたチャーハンを口にしている。


「ジョディさん、中華料理を食べ慣れてるように見えますけど?」

 レンゲと箸を器用に使い分けている彼女を見て、シンが予想外という表情をしている。


「はい。実はNYの中華料理店は、ほとんど制覇するほど大好物です!

 うわぁ、この牡蠣の炒めものも美味しい!」

 

「一緒に食事をした時には、中華料理好きなんて一言も言わなかったですよね?」

 ノエルが彼女の嗜好について、本当に意外そうな顔をしている。


「NYの中心部は家賃が高いんで、安くて美味しい中華料理店は皆無なの。

 昼食休憩が短いのに、ノエル君をあんまり歩かせちゃうのも申し訳無かったし」


「こんなに僕の料理を絶賛してくれるお客さんは、久しぶりですね。

 Congohの関係者は、世界中の中華料理を食べてるんで反応が薄いんですよね」


「こんなに美味しいビーフンも、生まれて初めて食べました!

 シンさんが作った中華料理は、ちょっと広東風ですけど微妙に違いますね」


「僕の中華料理の師匠は、台湾の人でしたから。

 最近はちょっとニホン風が入ってますけど、基本的には正統派の台湾風の味付けだと思います」


「ああ、せっかく米帝のメニューを用意していただいたのに、申し訳ありません」

 ここでようやくテーブルの上に米帝風のピッザやマカロニがあるのを、ジョディは気がついたようである。


「いえ。逆に寮生は夕食でピッザとか米帝風の料理を食べる機会が少ないので、問題ありませんよ」


「うん!本格的なマカロニチーズを、夕食で食べれるなんて最高!」

 シンが作ったマカロニチーズは滅多に食べられないので、ルーは取り分け皿にてんこ盛りにしている。


「エイミーが作ったミラノ風の厚焼きピッザも、本場顔負けの美味しさなんだよ!

 お姉さん、これは食べておかないと勿体ないよ」

 米帝風のパンピザとは違う脂がしっかりと回った香ばしい生地を、マイラは嬉しそうに頬張っている。


 マイラの助言に従ってピッザを取り分けたジョディは、その美味しさに絶句する。

 NYにはチェーン店では無いピッザ屋も多いが、これだけ生地が美味しいピッザを口にした事は生まれて初めてである。


「うわぁぁ、何を食べても美味しい!

 ここに滞在してると間違いなくデブになっちゃうよ!」

 ため息のように呟いたジョディの台詞に、食卓を囲んでいた一同は大爆笑したのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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