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025.Resurrection

 学園の校長室。

 今日は久しぶりに、ノエル本人に対するカウンセリングが行われている。


「学園生活には慣れましたか?」

 校長(ジー)はドクターペッパー・チェリーのプルタブを開けながら、ノエルにも同じ缶飲料を勧める。

 先日他の飲料が満載だった冷蔵庫は、どうやら新しい飲料に入れ替えられたらしい。


「はい。履修登録している教科は少ないですけど、楽しく過ごせてると思います」

 ドクターペッパー・チェリーは珍しいながらも飲んだ経験があるので、ノエルは勧められるままにタブを開けて飲料を口にしている。どこがチェリーなのか良く分からない味ではあるが、思わず吹き出してしまうような事は無い。


「ミーファはどうでしょう?

 最近は学園にも顔を出しているようですが」

 ここで校長(ジー)は、ローテーブルに置かれているガラス容器に手を伸ばす。

 容器の中には米帝のスーパーに良く並んでいる、スティック状のリコリス菓子が入っている。


「最近は落ち着いていますね。

 学園寮やTokyoオフィスに行くのは、まだ少しだけ抵抗があるみたいですけど」

 リコリス菓子を頬張っている校長(ジー)を見ながら、ノエルは信じられないという表情をしている。目の前で校長(ジー)が口にしているのは、微妙な味のリコリス菓子の中でも極めつけの一品なのである。


(うげっ!)

 ノエルは味を思い出さないように、さりげなく視線をそらしている。

 この辺りはニホンに来てから身につけた、処世術(KY)なのであろう。


「それで毎日の食事はどうなってますか?

 『例の彼』を見つけられたのは、貴方達の食べ歩きのお陰だと聞いていますが?」

 スティック菓子を続けざまに頬張りながら、校長(ジー)はノエルの様子をじっと見ている。

 ノエルはこれだけ激マズのお菓子を続けざまに食べている校長(ジー)に、良く食べられますねと言いたいのは山々なのであるがそれを口にする事は無い。


「カフェテリアと須田食堂、それと気まぐれで入る他の店での外食ですね。

 今はリッキーが居ますので、おかずをテイクアウトして自宅で食べるのも多いですけど」


「ミーファや貴方は、料理が出来ない訳じゃないですよね?」


「僕は『味音痴』では無いですけど、調理を教わった経験がほとんど無いのでサンドイッチとかパスタみたいなシンプルなものしか出来ませんね。

 ミーファはときどき想定外の、珍しい中東とかのメニューを作ってくれますよ」


 『味音痴』と強調したのはリコリス菓子を食べ続けている校長(ジー)に対する皮肉なのであるが、彼はふむふむと頷くばかりなのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



「ここで進路の話なんですが。

 フウは君を将官として育てたいと言ってますけど、貴方はどう思いますか?」


「将官ですか?

 自分では想像も出来ないですね」


「貴方は幼少時から兵站の仕事をしていましたし、母君はあなたに後方支援の才能があるのを理解していたのでしょう。それにフウはシンを育てた実績があるので、メトセラのコミュニティでは何気に発言力が強いのですよね」


「……」


「君には数少ないですが、進路に関して選択肢があります。

 まず学園に継続して通って自分の適正に向き合い続けて、自分の進路は学園在学中に自分で決めること。

 貴方はあと5年ほど猶予がありますから、急かさないで済むのはこちらとしても喜ばしい事ですね。

 それで将官としての正式な教育を受けるためには、レイのように米帝の士官学校へ入学するか、ユウ君のようにニホンの防衛隊大学校に入学する必要がありますね。

 非公式なら、フウやアイのような士官教育が出来るメンバーに教えを乞うのも可能ですね。残念ながらプロメテウスには正式な上級士官教育を行うカリキュラムがありませんから、選択肢が少ないのが気の毒な点なのですが」


「米帝の士官学校は、グリーンカードを所有しているだけで入学が可能なのですか?」


「ええ。プロメテウス国籍を所有している学生は、無制限で受け入れて貰える特例条項がありますから」


「それは知りませんでした」


「空軍の指揮官としてならば、カーメリに常駐すれば良い経験を積めるでしょうが、君はパイロットを目指している訳では無いのですよね?」


「はい。操縦技術は学びたいですけど、パイロットとして作戦に参加するのは現在のところ考えていません」



                 ☆



 数時間後のノエルの自宅リビング。


 テーブルの上には、夕食用にノエルが大量にテイクアウトしたきた天丼が載っている。

 スチロールの弁当容器はサイズがまちまちなので、中身の天麩羅の種類は色々なのであろう。


「もうそろそろ進路の話が出てるんでしょ?」

 リッキー用の大型のボウルに、野菜天丼と地鶏天丼を移し替えながらミーファがノエルに呟く。

 もちろん弁当の天地が逆になるような、雑な作業はしていない。天つゆが染みた白米はそのままにボウルに綺麗に盛り付けられているのである。

 リッキーは空腹なのか、ミーファの足元でせわしなく動き催促をしているようだ。

       

「……」


「私の事は気にしないで、自分のやりたいようにすべきだと思うよ。

 たとえ数年離れ離れになっても、とっても長い人生の中では一瞬だからね」

 彼女がボウルを置いた瞬間、リッキーは野菜の天ぷらからがっつき始める。

 彼女はなぜか野菜の天ぷらが大好物で、噛みごたえのあるサツマイモやレンコンが特に気に入っているようである。


「士官学校へ行くのは、はっきり言って無駄が多すぎると思うんだ。

 いままでの人生経験で人を見る目は養われていると思うし、切磋琢磨出来る同級生が居るとは思えないし」

 ノエルは穴子天丼が入った大きなテイクアウト容器を前にして、蓋も開けずに浮かない表情である。


「君はもう一般の人ならリタイアするような人生を送ってきたから、適正云々じゃなくて自分のやりたい事を追求しても良いと思うよ。その形がまだはっきり見えていないなら、現状のまま見えてくるまでの猶予を十分に取るまでなんじゃない?」

 弁当に入っていた海老天の尻尾を齧っていたミーファは、入っていた半熟玉子を割って流れる黄身を一緒に食べている。彼女もリッキーと同じ全く好き嫌いを感じさせない、食べっぷりである。


「そうだね。とりあえずフウさんに教えて貰うのが一番妥当かと思うんだけど、士官学校の戦術授業だけは受けてみたい気持ちがあるんだ」


「その辺りもフウなら、何とかできるかも知れないね。

 彼女の米帝関連の顔の広さは、半端無いから」


 ここでノエルは漸く弁当の蓋を開けて、食べ始める。

 店頭で受け取ってからジャンプで帰宅したので、天麩羅はまだまだ揚げたてで衣もサクサクとした状態である。


「ああ、この小魚の天麩羅、淡白な味で美味しいなぁ」


「普段の外食じゃ、小魚の天麩羅なんて海沿いの定食屋でも無いと食べる機会が無いからね。

 残りの穴子天丼は、私が二杯目に食べようかな」


「ミャウ!ミャウ!」


「私が先だってさ!

 リッキーはグルメに育っちゃって、先が思いやられるね」


「全く!」

 首をかしげているリッキーを見て、二人は満面の笑みを浮かべていたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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