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018.Down South

 Tokyoオフィス。


「それでインターン・シップはどうだったの?」

 業務の合間に顔を出したユウが、業務報告に訪れたノエルに声を掛ける。


「なんか組織のお役所気質が強くて、ビックリしましたね」


 ノエルに抱えられて一緒にジャンプしてきたリッキーは、ピートと今日も仲良く遊んでいる。

 躰の大きさはまだピートの方が大きいが、毛の色艶や瞳の色も2匹は姉妹のようにそっくりである。


「ああ、昔からその点は変わってないのかも知れないなぁ」

 フウとしては珍しく、過去を懐しむようなコメントをする。


「フウさんと初めて会った時は、黒服のユニファーム姿でしたもんね。

 それで『要注意人物』の彼女はどうだったの?」


 ユウの視線は、仲良くじゃれついている2匹の黒猫に向けられている。

 遊びの延長で強く噛み付いて来たリッキーを、ピートははっきりとした態度で窘めている。

 こうして一緒に遊ばせているのは、母猫から躾を受けていないリッキーの教育の意味合いが強いのかも知れない。


「先入観があったとしても、とっても立派な人でしたね。

 生真面目で誠実な、古き良き米帝人ってタイプかな」


「ふ〜ん、割とノエル君のタイプだったのね。

 それで額とか、光ってたの?」


「注意して見てましたけど、全然ですね」


「やっぱり人間の頭骨じゃ、光は漏れてこないのかな。

 通常の健康診断だと脳の画像は撮らないし、あと外部の私達が出来る事は経過観察しかないかな」


「もともと優秀なタイプの方ですけど、技術に関して閃きを発揮するタイプみたいですね。

 昇進出来たのも、その辺りで成果を出したからみたいですし」


「まぁ他の次元?からの侵略じゃなくて、良かったじゃない?」


「そうとは言い切れないと、僕は思いますけど」


「?」


「『優秀な人物は集団のために貢献するが、優秀過ぎる人物は集団の毒に成りかねない』って

 良く母さんが言ってましたよ」



                  ☆



 須田食堂。

 『いつもの定食』を前に二人は食事中。


 マリーのリクエストで用意されるようになった日替わり定食は、Congoh関係者のみに提供されている特別メニューである。ラーメン丼に大盛りされたご飯と大盛りの豚汁、マリー好みのオカズが大皿に2品以上盛り合わせされているのが特徴である。


「なんか最近は、放ったらかしの時間が多くて悪いね」

 小柄な美少女?二人が特別メニューを前にして平然と食べ続けている様子は、もはやこの店の風物詩の一つになりつつあるようだ。


「ううん。Tokyoオフィスに同行したくないのは、私の都合だから。

 それにノエルが留守の間、ユウが食料を持参して何度も様子を見に来てくれたよ」


「そう、それは良かった」

 実はユウに様子を見るように頼んでいたのはノエル本人なのだが、お節介を彼女に態々伝えるまでも無い。


「ねぇノエル、食事中にお行儀が悪いけどちょっとこれを見てくれる?」

 ミーファはいつも持ち歩いているコミュニケーターで、ネットニュースの画面を表示する。


「『シティ・キラーサイズの小惑星が、地球近くを通過』って。

 近々にこんな非常事態が起きてたんだね。

 NASAにも籍があるシンさんは、知ってたかな?」


 ノエルは揚げたての唐揚げを頬張りながら、コメントをする。

 口の中に(ほとばし)る肉汁と油が、実に食欲を増進させる逸品である。


「今回はサイズが小さすぎて直前まで観測出来なかったみたいだけど、もし直撃コースなら(シン)が対応してたかもね」

 ミーファが頬張っている豚の生姜焼きも、この店の人気メニューである。

 洋食屋さんのポークソテーとは対極の薄くて脂身の多い豚肉は、濃い味でとてもご飯がすすむのである。


「でもシンさんがどうやって対応するのか、僕には想像もつかないな」

 ミーファは機密情報にアクセス出来るにしても、ノエルはこの時点ではシンの本当の能力を知らない。

 

「でも巨大サイズのDDが、惑星直撃コースに突然現れたりしたら怖いよね」


 ノエルは追加で注文したお新香盛り合わせを、美味しそうに摘んでいる。

 欧米のピクルスよりも複雑な味わいのお新香やキムチは、二人の好物の一つである。


「そういうサイズのDDは発見された事が無いし、たとえ宇宙空間に現れても位置エネルギーは持ってないんじゃない。ただし……」


「ただし?」


「マリーは、駆逐艦サイズ迄ならイレース出来るって言ってたからね。もしそれに呼応したような巨大な質量のDDが宇宙空間に出現したとしたら洒落じゃ済まないかな」


「ああ。DDにおける質量の等価交換という理論だね」


「例えば大型隕石とかがそのDDと衝突した瞬間に、位置エネルギーを得て厄介なデブリに成る可能性もあるし」


「でもそういう特殊な前提条件で話を詰めていくと、カタストロフィーの確率が高くなりそうで嫌だな。ニュースになった今回の小惑星も、結局通り過ぎただけで済んだしね」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「おばちゃん『チャーハンとオカズの盛り合わせ』を一人前、預けておいたタッパに入れてくれる?」

 定食を食べ終えようとしているノエルは、厨房へ持ち帰りの注文を入れる。


「はいよ!いつものお土産だね」


「うん!ここの味が大好きな子が居るから。

 二人だけで食べてきたのがわかると、機嫌を損ねちゃうからね」


 リッキーのご飯は特に薄味にする必要も無く食材の制限も無いので、ノエルはいつも分量だけを気にしている。さすがにノエルとミーファが食べるのと同じ分量では、体重から言って過剰なカロリー摂取になってしまうだろう。


「はい、お待たせ!

 タッパに入ってるけど、ひっくり返さないようにね」


「ご馳走様。また来るね!

 ノエル、コンビニに寄っていこう!」


「ええっ、また新製品のデザート?」


「ニホンのステルス・マーケティングは、凄いよね。

 なんかアイスバーで、美味しいのが出たってニュースになってるみたいだから」


 先程の会話とのギャップが、とても大きいミーファなのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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