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017.Yes I Will

 本部へ一旦帰還した二人は、昼食を摂るためにジョディお勧めの店へ向かっていた。

 本部にも勿論カフェテリアはあるのだが、値段はともかく激マズで有名なのである。

 

「ここって、NYでは有名なホテルですよね?」


「そう。実はテナントで入ってるハンバーガー屋さんも、とっても有名なんだ」


「へえっ、カーテンの仕切りの中がお店になってるんですか?」


 ジョディはかなりの常連なのか、店員さんに会釈をして店内奥の二人がけの席へ腰を下ろす。

 店内は整然としていたロビーと違って、雑然としたインテリアになっている。

 そんな中でダンボールをそのまま使ったサインボードが、手作り感を強く演出している。


「ノエル君は、良く食べる方なのかな?」


「はい、まだまだ成長期なので。

 それにサンドイッチやバーガー類は大好きですから」


「ダブルチーズバーガーを2つと、フレンチフライ、あとバニラシェイクを2つと」

 まるでタイペイの飲食店のようなオーダーシートに記入すると、彼女はウエイトレスさんにそれを渡す。


 数分で提供されたトレイには、ラッピングされていてもかなりのボリュームが感じられるバーガーが並んでいる。ライトブラウンのゴマが付いていないバンズは、最近では大手チェーン以外ではあまり見掛けないだろう。重量があるパティと野菜が大量にはさまれたバーガーは、バンズが柔らかいせいか型崩れしてクタッとしている。


「見掛けは地味だけど、この辺りでは一番好きなバーガーなんだ」


「……うん、とっても美味しいですね。変にソースに凝ったりせずに、安心して食べられる味ですね」

 ノエルはNYの流行りのハンバーガーショップに入った経験もあるが、複雑すぎる味があまり口に合わなかった記憶がある。


「気に入って貰えて嬉しいな。

 私にとっては、子供の頃から食べているいつもの味なんだけどね」


「ああ、僕の母親も昔の●クドナルドのハンバーガーは、美味しかったって言ってましたね。

 ……それにしても、さっきのニューラライザーのお手並みは見事でしたね」


「相手が疑問に感じる前に、使っちゃうのがコツらしいよ。

 私も退職したヴェテランのエージェントに教わったんだ」



                 ☆



「うわっ、明るい内なら大丈夫かと思ったんだけど……囲まれてるよね」


 本部への近道で裏通りに立ち入った二人は、地元のチンピラに囲まれていた。

 女性の二人連れと誤解され、(くみ)し易いと思ったのだろうか。

 ナイフやハンドガンを手に過剰に威圧するチンピラ達は、まともな訓練を受けた事が無いのが明白である。

 

「せっかく美味しいものを食べた余韻があるのに。

 ジョディさん僕の近くから動かないで下さいね」

 建物の壁を背にしたノエルは、右手をインサイドホルスターを装着している背中に回している。


「???」


 ノエルは躊躇無くケラウノスをツーハンドで構え、一番接近した相手に警告も無くトリガーを引く。

 まさかいきなり発砲?するとは思わなかったジョディは、呆然とした表情をしている。

 チンピラ連中が近づいてきた瞬間に、ニューラライザーを使うつもりだったのだろう。


 シュッシュッという小さな音が微かに聞こえるが、サプレッサーを付けたハンドガンの音よりもはるかに小さい。反動をコントロールしながらダブルタップを繰り返しているノエルは、まるで玩具の銃を振り回しているようにも見える。


 二人に危害を加えようとしていたチンピラ達が、いつの間にか全員がうめき声を上げて路地に転がっている。

 肩や上腕に穴を開けられたチンピラは、過去に経験した事が無い激痛を感じているに違いない。


 ノエルは取り落として転がっている複数のハンドガンを、拾い上げて慣れた手付きでフィールドストリップしていく。ノエルの足元にはハンドガンのパーツが入り混じって転がっていて、パーツを拾い上げて組み上げるのにしてもかなりの労力が必要となるだろう。


「ちょっと手間取りましたけど、帰りましょうか」

 

 銃声が聞こえなかったせいか、隣接する大通りの通行人にも注意を払う人は居ない。


「Fuck You!」


 上腕を撃たれているチンピラの一人はダメージが小さかった様で、ナイフを左手に持って立ち上がってくる。利き腕が使えなくなっても、気力を失っていないのは称賛に値するであろう。


 ノエルは振り返りもせずに右手を小さく動かすと、持っていたコンバットナイフのブレードが根本からポロリと地面に転がる。


「次は首を落とすよ」


「……Bullshit!!」

 冷たく言い放ったノエルの一言に、悲鳴を上げながらその男は路地から逃げ出したのであった。



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「……ノエル君って、見かけよりも容赦無いのね」

 振り返りもせずに現場から歩き出したノエルを見て、ジョディは小声で呟く。


「自分の身を守っただけで、誰も殺してないですよ」


「でも全員昏倒してたよね?あれで殺してないって、説得力が無いんじゃない?」


「使ったのは普通のハンドガンじゃなくて、貫通力が高いガス銃みたいなものですから。

 ほぼ全員肩と手足だけを狙ったので、激痛はあっても死ぬような怪我はしてないと思いますよ」


「それって、Congohの超技術なの?」


「いいえ。知り合いの女性パイロットさんが、玩具の銃を改造したモノだって聞いていますけど。

 Congohでは特殊用途の殺虫スプレーとして、EUC製品登録されてるみたいですよ」


「ああそれが噂になっていたケラウノスなのね。

 殺虫剤で一網打尽って、本当にゴキブリスプレーみたいだよね」


 数年前の黒服機関が主催した射撃競技大会で、ユウが使ったケラウノスはかなり話題になっていたのであろう。


「ははは。実際にトリガーを引いて見て下さい」


「あらら、本当にガスしか出ないわね」


「僕達に受け継がれている特定の遺伝子が無いと、本当に殺虫スプレーとしか使えないんですよ。

 本当は鋼糸を使って、全員首を落とす方が簡単なんですけどね」


「でも助かったわ。私は丸腰だったし、一人だったら無事に済まなかったでしょうね」


「僕たちは襲われるのは、日常的に慣れてますからね」


「???」


「今住んでるトーキョーではストリートギャングに襲われる事はありませんけど、中華連合の残党が跋扈してますから」


「中東や欧州の戦場に居たのは、伊達じゃないのね」


「トーキョーの方が物騒なのは、昔の友人に言っても信用して貰えませんけどね」

お読みいただきありがとうございます。

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