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015.I Stand In Awe

 州またぎのロングドライブを終えた彼女は、黒服機関本部の自席へ戻ってきていた。彼女の所属するGarbageDisposal部門は後方支援部署なので単独行動が認められているが、実情はアサインできる要員が不足しているからなのである。


 実働部隊を含む隣のオフィスは24時間人影が途絶える事は無いが、彼女の自席があるオフィスは真っ暗で照明も完全に落とされている。

 頭上にあるスポット照明のみを点灯し、彼女はバックパックから保存袋を取り出す。

 粘度がある液体のみが入った水音がする保存袋を見て、彼女の表情が一瞬にして険しくなる。


「スマホを入れた筈なのに、何で?」


 彼女が過去に収集したDDは素材レベルの固形物がほとんどで、収集後に変質するモノなど見たことが無い。採取用の密封袋を不用意に傾けた彼女は、テーブルの上に粘度がある液体をこぼしてしまう。


「ああっ!もう」


 彼女は手近にあるティッシュで液体を拭き取るが、デスク上にあった空のマグカップに数滴の液体が入り込んだのに気がついていない。ベタベタしている保存袋をデスク横のゴミ箱に無造作に放り込んだ彼女は、収集したスマホ?が液化したなどと微塵も考えていないのであろう。


「ちょっと気分を変えよう!」


 オフィスに常備されているカプセルマシンに『洗っていない』カップをセットすると、彼女は好物であるラテをドリップする。このオフィスはNY州でもかなり辺鄙な場所にあり、近隣にはテイクアウト出来るコーヒーショップすら存在しないのである。


 こうしてラテに混入されたシリコン?の成分を、彼女は全く気が付かずに摂取してしまったのであった。



                 ☆



 ノエルが鹵獲したインコ?は、いきなりアラスカに送られずナナに預けられる事になった。

 懐いてくれているインコを人に託すのはノエルとしても抵抗があるのだが、預ける相手がナナならば心配は要らないであろう。


『ノエル、ゴハン!』


「特に教えてなくても、もう名前も覚えてるんだね。

 ノエル君なら、将来的に動物園も出来るかもね」


「それ昔、母さんにも言われた事がありますよ。

 でも素手で触っても、大丈夫なんですかね?」

 オウムを扱うのに手袋すら使っていないナナは、ノエルがしたように掌からナッツを与えている。


「例のラットも変質してるのは前葉だけだし、遺伝子検査でも異常は出てないらしいから。

 パンデミックとかおかしな状態は、起きないんじゃないかな?」


「もしかしてナナさんは、ヒューマノイドへの寄生?例を知っているんですか?」


「長生きしてる私達の同胞は、チャクラだとかユニコーンの伝承を見聞きしているからね。

 それにこのシリコン生物?は、寄生?というよりは共生するタイプだとアラスカの研究者は考えているみたいだし」


「共生ですか?」


「炭素生命体の居住環境では長期間生存できないなら、何かしらその手段を見つける必要があるんじゃないかな」


「DDとして人為的に送り出すのは、無理のような気がしますけど」


「マリーみたいな能力者が居れば可能なんじゃない?

 彼女の能力は、宇宙を超えて物質を移動させているらしいからね」


「……それをどうやって確かめたのか、気になる所ですが」


「かなり前にバステトの惑星から古い亜空間通信機を融通してもらって、マリーに消去(イレース)して貰ったんだ。

 同じ宇宙にある限りはどんなに離れていても反応がある筈なんだけど、それが無くなったからね」


「なるほど」


                 ☆



 地味な後方支援部署に所属しながらも、長い眠りから覚めたように彼女は能力を発揮し始めた。


 エンジニアというバックグラウンドがある彼女は、ある日偶然に自動地上気象観測システムから送出されているパケットに規格外の部分を見つけた。内蔵チップの製造元であるCongohにダメ元で質問状を送りつけたのは、単純に知的好奇心を満足させる為である。

 本来なら社内秘に該当する筈の詳細仕様書が彼女の元に送られて来たのは、彼女が黒服機関という政府機関に所属しているにしても驚くべき事である。


 Congohとしては過去にニホン国内における活動を妨害して来た黒服機関には協力する義務は無いのであるが、何故かSIDの強い主張で彼女は情報を入手出来たのである。

 オゾン濃度を直接観測出来ないにしても、送出されている特定の数値を稼働中のスパコンで比較すればDDの発現場所を効率的に検知できるようになったのは大きな成果である。

 彼女の上司は手柄を横取りする事も無い善良な人物だったので、彼女は機関の中で異例の昇進を果たしたのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 数ヶ月後、彼女は技術部門を統括する責任者になっていた。

 ただし技術部門とは言っても、惑星外の超技術を自由に扱える訳では無い。


 プロヴィデンスによる干渉を受けるので、隔絶した技術を利用しようとしても明確な障壁が存在する。設計図や仕様書、技術的なデモ機などは、担当者が巧妙に秘匿しても前触れも無く全て消滅してしまう。それは指先サイズのチップから、宇宙機まで例外が存在しない事実なのである。


(プロヴィデンスなんてお伽噺かと思ってたのに、本当に存在するんだな。

 でも私みたいな凡人でも、この部署で出来る事はきっとある筈)


 国の為に尽くしたいという彼女の純粋な想いは、長年停滞していた黒服機関を少しずつであるが変え始めていたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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