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012.Good To Be Alive

 フェアバンクスから目視による短距離ジャンプを繰り返したノエルは、短時間でアラスカベースへ到着していた。


(あれが滑走路?……なるほどカモフラージュされてるから、座標を知らなければ到達出来ないかも)

 重力制御で滑空しているノエルは、分厚い防寒服を着ている。シンのような亜空間飛行は出来ないので、

気圧の調整は可能でも外気の温度遮断は完璧では無いのである。


 地上部分に出ているハンガーはフロア全体が昇降式になっているが、航空機を使わずに到着したノエルはそれを知らない。地上施設の入り口に到着したノエルは、学園のIDカードを使って認証を行い滅多に使われない螺旋階段を降りていく。想像していたより深い地階に到着したノエルは、ヴィジター向けの案内表示を見て研究棟へ向かう。


(出迎えは期待してなかったけど、本当に誰も外来者に興味が無いみたいだね。

 構内を歩いてる人も、全く見掛けないし)

 実はノエルが全く注目されないのは、昇降機を使わずに階段で降りた所為なのであるが。


 事前に聞いていた番号のラボに立ち寄り運んできた物品を渡すと、白衣の女性研究員はなぜかノエルに興味津々の表情である。どうやら外来者があまりにも少ないので、興味が無いのでは無く出会う機会が殆ど無いのであろう。


 ノエルは雑談を手早く切り上げて、足早に司令官室へ向かう。


「おおっ、大きくなったなぁ!

 飯でも食いながら、話をしようか」

 こじんまりした居室で、ノエルを満面の笑みで迎えてくれたのは基地司令本人である。

 秘書すら居ないのは、この基地が軍事目的では無く研究施設である所為であろう。



 案内されたアラスカベースの食堂は、質素な司令官室とは真逆のまるでフードコートのような豪華な施設である。時間に余裕が無い研究職向けに出来合いのお握りやサンドイッチもあるが、ほとんどのメニューは注文を受けてから出来立てを提供しているようである。


「噂には聞いてましたけど、ここの規模は凄いですね」


「この基地は辺鄙な場所にあるから、食事が重要な娯楽なんだよ。

 シン君やユウに教えてもらった、ニホン食のメニューもどんどん増やしているよ」


「うわっ、この海鮮丼は綺麗ですね。

 司令官向けの特別メニューですか?」


 特に注文をしていないにも関わらず、二人の前に配膳された丼は司令官のいつものメニューなのであろう。


「うちのボスは丼モノがお気に入りで、コース料理は嫌いなんだよね」

 配膳してくれた食堂のチーフらしき人物は、司令官に対してぞんざいな口調である。


「そりゃ豪華なフルコースを食べる余裕があれば、他にやるべき事は沢山あるからな」


「これで豪華じゃないんですか?」


「まぁ土地柄かな。

 最近はTokyoオフィス直伝のカツ丼の方が、人気が高いみたいだし」


「……魚介もどれも新鮮で美味しいですよ。

 酢飯も素晴らしいですけど、これは他の拠点と同じ銘柄米なんですか?」


「いや、酢飯はユウに選んで貰った別の銘柄を使ってるんだ。

 ここのメニューが充実してきたのは、彼女の功績が大きいよね」


「いやぁ、美味しかったです。

 Tokyoでも滅多に食べられない味でしたよ」


「ははは。寿司を食べ慣れてる君に評価されるのは嬉しいな。

 それで面倒かけて申し訳ないけど、これをユウの所へ届けて貰えるか?」

 食堂から巨大なクーラーバックを持参したチーフは、ノエルに申し訳なさそうに依頼する。


「はい。喜んでお預かりします。

 また立ち寄りますので、別のメニューも食べさせて下さいね」



                 ☆




 数日後、都内某所の研究所。


「ナナさんからの呼び出しは珍しいですね」


「ああ、この子の状態を確認したいのと、ちょっと話があってね」


「ミャウ」

 ナナに全身を撫で回されているリッキーは、されるがままで大人しい。

 母親代わりに世話された記憶は、決して消える事は無いのであろう。


「この間のシリコン生物?の件なんだけど」


「毎回鹵獲しても、溶けちゃうんだと意味が無いですよね」


「それがさ……数カ月前に群体の中で鹵獲した残骸から、予想外の事実が分かってね」


「???」


「酔狂なアラスカの研究者が、ラットにあのほぼ純シリコンだけだと思われる残骸を注射して経過を観察したら……」


「ラットのDNAが改変されて怪物に変質した、なんてオチじゃありませんよね?」


「そこまで大事にはなってないけど、どうやら脳幹の一部が変化したみたいでね。

 ほぼ純シリコン状態になっても、微量な残留物になんらかの機能が残ってるみたいなんだよ」


「えっ、ちょっと待って下さい。

 あの群体状態のインコがぜんぶ溶けてしまったとしたら、かなりの量が地表に蓄積されてるんじゃないですか?」


「そうなるよね。それに主成分の珪素はこの惑星ではごくありふれた物質だから、地表から検出するのは不可能だし」


「もしそれが侵略?だとしても、別の宇宙からの干渉はプロヴィデンスでも手出し出来ないんですよね?」


「ノーナに問い合わせたんだけど、似たような事例が無くてね。

 Congohの生物科学者達も、興味津々みたいなんだよね」


「それでSIDが傷が無いか、神経質に確認したんですね。

 ヒューマノイドに影響が与えられるなら、とんでも無い事態が起きそうな予感がしますね」


「実際にDDを採取する可能性があるメンバーに優先的に情報は出してるけど、まだヒューマノイドでの事例は確認出来て無いからね」


「それじゃラットの事例の経過次第ですか?」


「そうだね。今回も大量のシリコン残留物が確保出来たから、もうちょっと詳細が分かれば良いんだけどね」

お読みいただきありがとうございます。

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