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004.More Beautiful You

 応接スペースに移動した三人だが、ノエルはソファを勧められる前に設置されている自販機の前に立っていた。電子マネーでは無く硬貨を使って飲み物を立て続けに購入すると、応接セットのテーブルの上にペットボトルを並べていく。『キャスパーの部署では、官公庁にも関わらずお茶すら出てこない』というユウの発言をノエルはしっかりと覚えていたので、先手を打ったのであろう。ちなみにTokyoオフィスや寮では当たり前のように提供されている無料ドリンクも、此処では外部業者が設置している有料自販機である。


 目端が利くとキャスパーが感心している間に、購入したペットボトルと一緒に持参して来た小さいバスケットを彼女に手渡す。


「朝食まだですよね?

 ユウさんから、これを預かって来ました」


「飲み物を買わせちゃった上に、朝食まで持参してくれたなんて悪いね。

 これじゃどっちが来客なのか、分からないなぁ」


 無表情のままで炭酸飲料を受け取ったミーファは、キャスパーと目を合わさずに無言である。

 彼女が唇を噛み締めているのは、ノエルとの約束を守るために我慢をしているのであろう。


「まぁ雇用してもらえるなら、部下になる訳ですから。

 そんなに(へりくだ)らないで下さい」


「……えっ、この肉って?」

 バスケットを開けたキャスパーが、分厚いカツサンドのようなサンドイッチを見て驚いた表情を浮かべている。


「シンさんのお土産で、キャスパーさんの好物だと聞いてますけど」


「うわっ、懐かしいな。

 何年ぶりだろう……二人も良かったらどうかな?」


「えっと僕たちは朝食を済ませて来ましたから、大丈夫です」


⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 会話を続けながらも、キャスパーはサンドイッチを旺盛な食欲で平らげていく。

 頬にソースが付いているが、懐かしい味と会話の両方に神経が行っている彼女は全く気がついていないようだ。


「DDの捜索の専従班という認識で、宜しいんですよね?」


「うん。米帝でも専門部署を組織しようという流れになっているし、ニホンでも人材を確保しようと動いていたんだ」


「ケイさんとパピさんは、どうなるんですか?」


「二人は戦闘が専門だからね。

 これからも他の業務が無ければ、一緒に行動する事も多いと思うけど」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「それじゃ、ケイさんでは無くてSID経由で業務命令はいただけるんですよね?」


「うん。命令系統が複雑になると時間が掛かるし、シンプルなのが一番だからね。

 鹵獲した素材の扱いは、もう知ってるよね?」


「はい。位置座標と収集時間を、記録すれば良いんですよね」


「ところでノエル君は随分と私の事を信用してくれてるみたいだけど、何故なのかな?」


 最初に行ったギャラや待遇の話題でも、ノエルからの要求は全く無かった。

 年に似合わない交渉上手だと聞いていたキャスパーは、拍子抜けした思いだったのであろう。


「ああ、それはもちろんお世話になっているユウさんの親友と伺ってますから、そんな人が無理難題を押し付けくるとは思えないですし」


「……」


「それにエイミーを見てると、バステトの方々は信義に厚いと分かっていますから。

 僕は小さい頃から人を騙す極悪人達とやり合って来ましたから、(ヒューマノイド)を見る目はあると自負しています」


 ウエットティッシュをポケットから取り出したノエルは、キャスパーが目線を下ろしたタイミングで頬に付いていたソースをさり気なく拭う。


「……あっ、ありがとう。君は見かけ通りの優しい子なんだね。

 実動隊の二人はガサツだから、バランスが取れて良いかも知れないな」


 ノエルとの約束があるので同行しているミーファは未だ一言も発していないが、足元は小刻みに貧乏ゆすりを続けている。


「ここの業務以外でも、末永くお付き合いできると良いな」


「ええ。今後とも宜しくお願いします」


 帰り際に彼女と握手しているノエルを見て、ミーファが小さく舌打ちをしたのをノエルは聞き逃していなかったのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「She Home Wrecker!」


地上に出た二人はバイクを駐めてある駐車場へ向かうが、受付を通過して外に出たタイミングでミーファは酷い悪態をついている。


「へえっ。珍しくご機嫌斜めだね?」


「ノエルがユウと仲良くするのは構わないけど、あいつは口が達者な八方美人だからさ。

 とにかく気を付けた方が良いよ」


「大丈夫。良く知らない人に対しては、信用も信頼もしていないから。

 上辺だけの付き合いで終わりそうな人には、それなりの対処をするだけだからね」


「……ノエルって、かなり過酷な人生を送ってきたんだね」


「シンさんほどでは無いと思うけど」


「あの子の場合は、トラブルが寄ってくるからね。

 何事も無く生活出来ているのは、奇跡に近いんじゃないのかな」




                 ☆




「新鮮な魚介類を、暫く食べてないからね」

 ミーファの案内で近隣の漁港に到着した二人は、地元の人が利用している食堂に居る。


「おばちゃん、刺し身のオススメは何ですか?」


「あらら、ニホン語が上手ね。

 一番出るのは『おまかせ盛り合わせセット』だわね。


「それじゃ定食でそれを2つ。

 味噌汁は豚汁に、ご飯は大盛りで!」


「うちの大盛りは、すごい量だけど大丈夫?」


「うん!育ち盛りだし、一生懸命食べないと大きくなれないから!」


「あらあら、頼もしいお嬢さんだこと」



「食堂に入ったら、急にご機嫌になったよね?」


「イライラしていてもああいうオバちゃんの接客を受けると、気分が良くなるんだよ。ノエルも欧州に居たから分かると思うけど、ニホンの店は何処へ行ってもサービスのレベルが違うよね」


「ああ、そうかも。

 若い店員さんでも、良く出来たマニュアルのお蔭で気分が悪くなることも少ないしね」


「おまちどうさま!」


「うわぁ、ノエルこの艶々のご飯を見てみてよ!

 刺し身も切り口がピシッとしていて、新鮮なのがひと目でわかるよね!」


「こういう良い料理に偶然出会えるのが、この国の飲食店の特徴かな。

 確かにミーファと一緒にニホン全国を食べ歩きするのは、ユウさんが言ってたように楽しいかも」


 ジャンプのマーカーを全国各地に作るのは面倒な作業だが、地元に密着した食事処を訪問できるのは大きな約得であろう。


(ディメンジョン)(デブリ)の収集は『誰にでも出来る簡単な仕事』では無いけど、こういうSerendipityがあるなら頑張れるかな」


 幼女の見掛けには不自然なミーファの台詞に、ノエルは微笑みを浮かべながらしっかりと頷いたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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