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003.Fly Me To The Moon

 前日のTokyoオフィス。


 学校帰りに立ち寄ってくれたエイミーはユニットの選別をしてくれたが、彼女の判断では残されたユニットはどれも違いが無いらしい。シンが装着したユニットが全く違う挙動を示すのは、ユニット自体が違うのか装着者自身が特殊なのかエイミーですら明言出来ない部分なのであろう。


 その後拡張ユニットを問題無く装着できたノエルは、引き続きリビングでユウからアドバイスを受けている。フウにはあまり良い印象を持っていないノエルであるが、慕っているユウから直々に助言を受けられるので実に嬉しそうな表情をしている。


拠点(マーカー)作成ですか?」


「そう。私もジャンプが出来るようになった後、ニホン全国を回って拠点(マーカー)を作ったんだ」


「自分はユウさんほど観光地にも行った経験が無いので、余計に必要かも知れませんね」


「ノエル君は欧米には土地勘がありそうだけど、国内は行った事が無い場所が殆どでしょ?ミーファを連れて各地を巡るのは、楽しそうじゃない?」


「そうですね。

 具体的に拠点(マーカー)って、どうやって作るんですか?」


「土地勘がある場所には必要無いけど、一旦その場所から短距離でもジャンプをすれば絶対座標が記憶されるから。

 次からは大雑把な場所を意識さえすれば、その場所へダイレクトに飛べるようになるわけ」


「ということは、エジプトのピラミッド頂上を意識すれば、そこにジャンプできるという事ですか?」


「ああ、最近のSF映画でそんなシーンがあったよね。

 ただ一点注意が必要なのは、定点カメラに写り込まない事かな」


「???」


「ジャンプで現れる動画が幾つか投稿サイトで公開されてるし、あまり鮮明に写っちゃうと不味いからね」


「なるほど」


「SIDがハッキングしてそういうファイルは出来るだけ削除してるんだけど、一旦ネットにアップロードされたら根絶するのは難しいから」


「確かにそうですね。

 でも監視カメラの有無は、判別可能なんですか?」


「SIDに事前に場所を聞いてみれば、スタンドアロンの有線カメラ以外は教えてくれるよ。

 あとある程度高い高度へジャンプして、重力制御を使って着地するという手もあるけどね」


「そうなると、FlyingHuman扱いですかね?」


「ははは、そんな所かな。

 某スポーツ新聞の、トップ記事になれるかも」



                 ☆



 ノエルの自宅マンション。


 ミーファの訓練で使用したゴルフボールの残骸を片付け終えたノエルは、ショーツ一枚で髪を乾かしているミーファの横に座る。性徴期を迎える前の幼い体型の彼女であるが、中身は大人なのでノエルに対して恥じらいは感じていないのだろうか?


「ユウさんのアドバイスで貰ってきた優先リストの場所を順番に訪問する事になったんだけど、同行してくれる?」


「たぶんDDの頻出する地域が優先だろうから、電車やタクシーよりもバイクが良いんじゃない?

 国内ならかなりの場所に土地勘があるから、私が案内してあげるよ」


 給水タオルを裸の上半身に掛けた彼女は、ノエルの直々のお願いに満足そうである。

 何より自分が必要とされているのが、嬉しいのであろう。


「えっ、そんな記憶も引き継いでいるの?」


「うん。

 主要な観光地とかは殆ど行った事があるし、Tokyoオフィスの誰よりも詳しいと思うよ」


「それと拠点(マーカー)を作るのも業務の内だから、作業開始前に入国管理局に挨拶に行けって」


「それって、あのキャスパーの所だよね?

 それなら、ノエル一人で行ってきて欲しいかな」


「何で?別にキャスパーと関係が悪い訳じゃないんでしょ?」


「いや、話をすると絶対に喧嘩になると思うから。

 あの子が小さい頃に、いろいろと有ったからね」


 記憶を引き継いだだけでミーファは別人格でありキャスパーに思う処は無い筈なのであるが、余計な一言を発しない自信が無いのかも知れない。


「じゃぁ、一言も喋らないで良いならどう?」


「ホントに喋らないけど、大丈夫かな?」


「まぁ繋ぎがちゃんと出来てれば、以降はそんなに顔を合わせる機会は無いだろうからね。

 今回だけは揉めないように我慢してね」


「……鋭意努力します」



                 ☆



 翌日。


 湾岸にある入国管理局は、早朝なので人気も少なく閑散としている。

 受付に指示された中央エレベーターに乗り込んだノエルとミーファは、最下層階のボタンを押す。

 数秒後にエレベータードアが開くが、頑丈な鉄扉が並んだ広い通路は何故か真っ暗である。


「相変わらずケチ臭い省エネだよね」

 ミーファはこの建物を訪問した記憶を持っているのか、ノエルが聞こえないような小さな声で呟く。


 通路を歩き始めると天井の照明が自動点灯するが、歩いているエリア以外の照明は余韻も無くすぐに消えてしまう。


 危険察知能力が並外れたノエルは背中のインサイド・ホルスターの上に手を当てながら、薄暗い通路を足音も立てずに進んでいく。ユウから貸与されたケラウノスをニホンの役所内で使う機会があるとは思えないが、入国管理局別働隊は一般に存在が知られていないグレーな部署なのである。


 二人の姿が監視カメラから確認されたのか、セキュリティ装置が付いたドアが前触れ無く開かれる。

 室内では大勢の要員が業務を行っているようだが、誰一人として入室してきた二人と目線を合わせようとしない。


「お二人さん、良く来てくれたね」


 入り口に出てきたダークスーツ姿のキャスパーが、二人に声を掛ける。

 歓迎の言葉を口にしているが彼女の表情は硬く、視線をミーファに合わせないように注意しているようだ。天真爛漫な印象を持っていた彼女がこういう不遜な態度を見せているのを、ノエルは初めて目にしたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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