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002.Jump

 引き続きTokyoオフィス。


「ミーファを雇用してくれるのは有り難いですが、身体はまだ幼女なのでどうでしょうか?

 現場に出るのは、やっぱり無理がある気がしますけど」


 ノエル自身は経験が無いが、ユウから聞いた話ではDD収集の最中に黒服機関と揉めた事があると聞き及んでいる。収集作業が危険であるという認識は無いが、その状況が変わってしまう可能性は皆無とは言えないであろう。


「彼女はナナから受け継いだブレードの技があるし、体格は足りなくても自分の身は自分で守れるんじゃないか?

 それに現場に出ないにしても彼女の頭脳が、役に立つのは言うまでも無いと思うが」


「……それは納得できるんですが、危険な目に会わないと言い切れませんし」


「それじゃまるで、過保護なお兄ちゃんみたいだぞ」

 ナナという手強いパーソナリティを認識しているフウは、そのクローンとも言えるミーファに過保護に接するのは滑稽に感じてしまうのであろう。


「心配するのは、当然じゃないですか?

 彼女は僕の面倒をずっと見てくれるって宣言してくれましたし、信頼には応えないと」


「短時間であの性格の持ち主と、そこまで信頼関係が築けたのは驚きだな。

 あと特典としては、お前に『拡張ユニット』を提供できる事かな」


「それって、何ですか?」


「気がついていたかも知れないが、シンやユウが場所を問わず突然現れるのを不思議に思ってないかい?」


「ええ。

 でもあのお二方は義勇軍所属のパイロットですから、ご自分で操縦すれば何処でも行けますよね」


「ジャンプすれば、移動時間無しに世界中に移動が可能だからな。

 それにシンの場合は、別の惑星にも移動が出来るし」


「ジャンプですか?」


「ただし拡張ユニットを実装出来たメンバーは、今でもユウとシンだけだからな。

 私やアンを含めた複数のメンバーも試してみたんだが、結局適合できなかったし」


「適合出来たって、どうやって判別するんですか?」


「装着できた瞬間にユニットが見えなくなるから、判別は簡単だな」


「そのユニットは、まだ複数個あるんですか?」


「ああ。

 ただしリムーバーみたいなものは存在しないから、一旦装着出来たなら取り外す事は出来ないんだ」


「何か大きなデメリットは無いんですか?」


「シンの使ってる拡張ユニットは特殊で、移動以外の能力を使うと身体が急激に消耗するみたいだな。

 ユウからは全く何も言ってこないので、特にデメリットは無いみたいだけど」


「……出来ればユウさんに相談したいんですけど、駄目ですか?」


「ああ、ユウはもうちょっとすると戻ってくるから、話ができると思うよ。

 彼女と話してから、決めて貰って構わないかな」


「ユウさんも、自分で決めて装着したんですよね?」


「いや、ユウの場合は偶然かな。

 本人が気が付かないうちに、ジャンプ能力を手に入れてしまったという顛末だな」



                 ☆



「今度は彼で実験ですか?

 ノエル君、嫌なら別に断って良いからね」


「ユウ、お前だってジャンプ能力は重宝してるだろう?」


「そりゃ言うまでもありませんけど、ジャンプする度に体内時計が狂いますからね。

 自分で調整できるようになるまで、結構時間が掛かりましたし」


「それでお前の場合は、別の能力が追加されたとかはあるのか?」


「いいえ。空間迷彩と重力制御以外はジャンプしか使えませんね。

 行動が制限される戦略兵器認定されるのは、勘弁して欲しいですし」


「戦略兵器って……」

 ノエルは自分の姉貴分であるマリーが、戦略兵器指定されているのを知っている。

 だが勝手気ままに食べ歩きをしている彼女が、行動を制限されているとは思えないのである。


「エイミーに選んで貰ったユニットが、どうやら特殊なタイプだったらしいんだ。

 マニュアルも存在しないし、エイミーはシン本人が想定した能力が今後も追加されると判断しているみたいだな」


「一旦装着できたら、外せないんですよね?

 それなら、僕もエイミーに選んで貰いたいです」


「ああ、そう言うと思って彼女も呼んであるよ。

 もうちょっとしたら現れると思うから、暫くリラックスして待ってようか」


「……」



                 ☆


 夕方のノエル自宅マンション。


「そりゃ、ノエルを束縛するための口実じゃない?

 断れば良かったのに」

 スポーツタイツ姿のミーファは、広いリビングで自らの能力で生成したブレードを振り回している。

 ブレードの厚みは0.1mmにも満たないが、ヴィルトスで制御された刃は反り返る事も無く空気の抵抗も全く感じられない。体型がまだ幼女なのを無視すれば、その動きは華麗でしかも無駄が無い達人クラスのものであろう。


「世捨て人みたいな生活が希望なら、アラスカベースに行くしかないかな。

 もし行きたいなら、付き合うけど」


「絶対にヤダ!

 当面はニホン以外には行きたくない!」


「はいはい。仰せのままに」


「……ノエル、今度はそこのゴルフボールを投げて!」


 近所のゴルフショップで売っているロストボールは傷が入っているが、ブレードの練習用としては問題ないのであろう。ノエルが軽くトスしたゴルフボールは、一閃されたブレードをすり抜けてゴミ箱に狙ったように音を立てて落ちていく。ノエルが投げるコースは高低が変わるが、すり抜けたように見えるボールは必ずゴミ箱に収納されている。


 すべてのゴルフボールを投げ終えたノエルはゴミ箱を覗き込むが、ボールはすべて綺麗に2分割されている。滑らかな切り口は、まるで工業用レーザーでカットされた様である。


「……これはアンさんなら同じ事が出来るのかな?」


「ムリムリ。あの子はガサツだから、こういう繊細なコントロールは苦手だからね」


 ブレードを解除し柄だけのコンダクターメタルに戻したミーファは、フローリングの床でストレッチを初めた。ショートカットの髪は汗で湿っており、キラキラとキューティクルが輝いている。


 ノエルはその様子を横目で見ながら、ゴミ箱に入ったゴルフボールの残骸をゴミ袋に詰めている。

 階下のゴミ置き場に持っていく必要は無いが、同じ階にある収集室までは持っていく必要があるのだ。


「ノエル、一緒にシャワーを浴びない?」


「まだ手助けが必要なほど、髪は長くないでしょ?

 それに僕はぜんぜん汗をかいてないからね」


「ちぇっ、いけず〜!」

 口を尖らした仕草で文句を言うミーファを見ながら、ノエルは満面の笑みを浮かべていたのだった。


お読みいただきありがとうございます。

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