022.Winter Land
午後のTokyoオフィス。
Tokyoオフィスの残っていたメンバーが昼食を終えた頃、サンプルの分析に立ち会うために研究所に詰めていたフウが戻ってきた。
居残っていたシンが空腹の彼女のために急遽用意した炒飯を、リビングでフウは美味しそうに頬張っている。
シンは寮に入るまで長年フウのために食事を作ってきたので、好みのメニューは尋ねるまでも無く熟知しているのである。
「久しぶりのフライトはどうだった?」
大振りなスプーンでパスタ皿に盛り上げた超大盛りチャーハンを食べながら、フウが尋ねてくる。
Tokyoオフィスでは中華料理を作るメンバーが居ないので、残念ながら見栄えの良いチャーハン皿やレンゲは豊富な食器類の中にも用意されていないのである。
「往路とも機内で安眠できたので、全く問題ありませんでした。ルーなんか熟睡していて、目的地に着いても目を覚ましませんでしたよ」
食後にシンを残して先に寮へ戻ったので、彼女の姿は既にTokyoオフィスには無い。
「あの子は特殊な環境で育ったから、軍用ヘリに乗りなれてるんだろうな。
今回取得できたサンプルについては、詳細分析はTokyoの研究所では出来ないからかなり時間が掛かりそうだ。
ところで今度は輸送機での護衛業務の依頼があるが、どうする?」
「乗るだけならかなりの長時間でも、今なら問題無いと思いますけど。
それで、送り先は?」
「アラスカ・ベース。お前も幼少時に住んでいたことがあるだろう?」
「げっ、荷物を置いたらすぐに帰ってこれるんですよね?」
「残念ながら今も帰路便は到着一週間後だから、まぁ観光でもして暇を潰すしかないな」
「観光って……周辺には基地以外に何もないじゃないですか?」
「エイミーが遠出してみたいという要望があるし、ユウも場所のマーキングの為に同行する。
もっともユウは自前のジャンプですぐに戻ってこれるけどな」
「フウさん、この際自分にもユウさんと同じユニットを貸与してもらえませんか?」
「お前、エイミーを残して一人で帰ってくる気か?
あのユニットは個人用らしいから、荷物以外は運べないぞ」
「……」
「それに何より、お前みたいな強度が高いアノマリア保持者が付けた場合、どう影響を受けるのか全くデータが無いからな。
まだ複数個ストックが地下金庫に仕舞ってあるから、実験台になってくれるというなら敢えて止めないが」
「いや、やっぱりいいです」
「ここ最近忙しすぎたからな。エイミーと一緒に一週間のんびりして来い。
これは業務命令だ」
「はい……」
☆
「アラスカベースって、どういう所なんですか?」
授業を終えて寮に帰宅したエイミーは、シンが戻ってきてやっと落ち着いたシリウスのブラッシングをしている。
シンが不在の丸一日の間情緒不安定だったシリウスは、今はシンの傍で尻尾フリフリのご機嫌な様子である。
「冷戦時に米帝が作った地下都市。
Congohが買い取ってリサイクルして使ってるんだけど、引き籠り研究者の巣窟で更にモスポール兵器の仮置き場かな」
「地下都市って、すごいですね」
「いや、Congohトーキョーの地下施設も規模は小さいけど同じ修復技術を使ってるみたいだから、見慣れた感じだと思うよ。
内装とか管理の方法も、そっくり同じだしね」
「シンは、そこで暮らした経験があるんですよね?」
「うん。妹が生まれる前だからかなり小さい頃だけどね。
外で遊ぶことが出来るのは年に2ヶ月だけだから、とにかく退屈な場所なんだ」
「今はうちの母も滞在しています」
エイミーと一緒に帰宅してきたトーコも、シンの部屋で会話に参加している。
最近仲良くなったシリウスの様子が元に戻ったので、彼女もほっとした様子を見せている。
「トーコは今回同行しないの?」
「あんな何も無い魔窟のような場所に、用はありません」
「確かにそうだよね。回りもほんとに何も無いし。
娯楽とか気分転換が出来ない場所だからなぁ」
「あの鹵獲したDDを運ぶんですよね?」
「うん。定期便にナリタで積み込んで、そこから直行する予定」
「あれって……通関は大丈夫なんですか?」
「ユウさんがぎりぎり運べるサイズみたいだから、ジャンプして荷物室まで持っていけば問題ないでしょ」
☆
数日後のナリタ空港の滑走路。
プロメテウス空軍所属のC-130は軍用のカーキや中間色では無く、商用輸送機に良く見られるようなオフホワイトに塗装されている。
プロメテウス所属のマーキングと認識番号も、軍用機に見えないようにとても小さく控えめに描かれている。
「ルーも連れてくれば良かったのに」
C-130のコパイシートのユウが、振り返って小さなシートに収まったシンに声を掛ける。
パイロットシートにはシンが面識の無い女性が座ってフライト準備をしているが、ユウとは以前からの顔見知りの様だ。
「アラスカは何度も行ってるから、パスだそうです。
それに寒い所はもう沢山だと」
同行しているのは、本人が希望したエイミーと、シンの足もとでリラックスしているシリウスである。
シリウスは一週間も目を離すのが心配な事もあって、今回は連れていく事になったのである。
「ああ、あの子ロシアに居た事があるみたいだしね」
「ユウさんは、すぐに帰るんですよね」
「うん、到着したらすぐにジャンプして帰るつもり」
「お手数ですけど、トーコの様子をちょっと気にかけて貰えませんか?
僕が目を離すと、集中し過ぎてジャンクフードすら食べずに仕事をしてたりするんで」
「あはは、レイさんからも同じ事を言われてるよ。
Tokyoオフィスからジャンプで料理を出前するつもりだから、心配しなくても大丈夫だよ」
離陸後シンは直ぐに仮眠に入ったが、長時間のフライトなのでやはり空腹で目が覚める。
もちろん機内食のサービスなど期待できない軍用機なので、シンはユウからの依頼を受けて大量のサンドイッチを作って持参していた。
ユウ直伝のカツサンドはもちろん、エイミーが好物の分厚いベーコンを使ったBLTサンド、シリウス用の味付けが薄いネギ類無しのチキンサンドも用意してある。
パイロットのサラという女性は意外にも日本語が堪能で、コックピットをユウに任せてシンが作ったカツサンドを美味しそうに頬張っている。
「マイセンやバイリンのカツサンドと同じくらい美味しい!」
「サラさんは、二ホンに詳しそうですね?」
「うん、アンから頼まれて暫くポピーナで店長をやってたから」
「定期便のパイロットは長いんですか?」
「ああ、この仕事は各基地のパイロットの持ち回りだから、年に数回位かな。
ギャラが良いから希望者が多くてね。ところでシン君はイタリアに来る気はないの?」
「子供の頃は転居が多かったので、数年間ミラノに住んでいたことがあります」
「ユウから聞いたけど料理が上手らしいから、イタリアに来ればモテモテなのにね」
「いえ、今はニホンに家族と学校がありますし、移動は考えてませんね」
「じゃぁ機会があったらTokyoオフィスに寄るから、その時は何か食べさせてよ」
「ええ、是非来て下さい。ユウさんと一緒にお待ちしてますよ」
お読みいただきありがとうございます。




