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024.Fear Is A Liar

 護衛艦のハンガーデッキ。


「ベルさん、どうですか?」


 コミュニケーターを通して『SIDのサブセット』と会話していたベルが、シンに向けて顔を上げる。

 周囲にはお手伝いをするためスタンバイしている整備兵が何名か居るが、特にベルから指示を受けていないので手持ち無沙汰な様子である。


「SIDの判断では、燃料ポンプも異常無しだね。

 実働時間も短いし、特に手を入れる必要は無いかな」


「ところで元々のAIシステムは、そんなに不出来だったんですか?

 僕はカーメリでも整備ハンガーに詰めた事が無かったので、内情は分かりませんけど」


「いや、そんな事は無いと思うけど、我々には世界最高のAIが居てそのサブセットが実用化されているからね。それ以上の信頼を、他のAIに感じる事が出来るかな?」


「サブセットについては宇宙で迷子になった時にも助けて貰いましたし、コミュニケーターを持って無かったら多分此処には戻れなかったでしょう。SIDはレイさんの娘のような存在ですから、僕にとっても姉のような頼りになる存在ですからね」


「アビオニクスに関しても、SIDはレイさんと同じ位の実務経験があるからね。

 通常なら何年も掛かる保守プログラムの再構築も、数日で終了したんじゃないかな」


「それにしても、この『分遣』って僕じゃなくても、●ッキード・●ーチン本体に頼めばどうにかなったんじゃないですかね?」


「ああ、海兵隊に断られたのは機体が足りないからだけど、装備庁が米帝のメーカーに借りを作りたくないんだろうな」


「???」


「F−3の開発に関して、貸し借りがあると支障が出ると国産推進派から釘を刺されているんだろうね」


「???

 でも通常の空防の機体は、海防には関係ないんじゃないでしょうか?」


「F−3がCATOBAR(着艦装備)を装備しないとは、言い切れないでしょ?

 国防計画は長期的な視点で見る必要があるから、通常空母が未来永劫建造されないとは言い切れないしね」


「なるほど」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 場所は変わってフライトデッキ。


「これがベルさんがハワイベースで急遽作った、即席のスキージャンプ台ですか?

 間に合せで作ったとは思えない、芸術的な仕上がりですよね」


 大型空母の艦首には、チタニウム・パイプを複雑に組み合わせたジャングルジムのようなジャンプ台が設置されている。着陸脚が通過する部分は厚板が使われているが、それ以外の部分はすべてパイプだけで構成されている。


「傾斜角とかの設計は、イギリス軍の発艦訓練用のやつを丸々コピーしてるんだ」


 何故かベルは、ここで整備班のツナギのファスナーをジジッと下ろしている。

 中に着ていたTシャツも脱ぎ捨てると、上半身はカーキ色のスポーツブラ一枚だけの姿である。


「ああ、カーメリにもありましたよね。

 でもこれって、溶接跡も無いしまるで一体成型してるみたいに見えますよね」

 シンは彼女がいきなり上半身が半裸になった位で、驚きはしない。

 だが周囲には乗務員が殆ど居ないので、ここで文句を言うべきか迷っているようである。


「溶接について知り合いの装備庁技官に尋ねられたけど、守秘義務を盾にとって答えなかったけどね。

 まさか超能力(ヴィルトス)でチタニウムパイプを融合させましたとも言えないだろう?」


「それよりも、どうやってフライトデッキに接合したのか聞かれませんでしたか?」


「いや、ただ置いてあると思ってるんじゃないかな?」


「撤去するのはどうするんですか?」


「知らない。

 もしかしてドックに入るまで、このままなんじゃない?」

 ベルは背伸びするように両腕を伸ばして、強い日差しを全身に受けるような仕草をしている。


「それじゃ義勇軍の持ち出しじゃないですか?

 材料費だってかなりの金額ですよね」


「いやCongohの素材部門で出た端材を使って、DIYで作った急造品だからコスト的には問題無いかな。ニホン政府にはそれなりに良くして貰ってるし、リバース・エンジニアリング出来るような技術じゃないからね」


「それにしてもベルさん、その格好はちょっと問題あるんじゃないですか?」

 ここでアイランドからフライトデッキに出てきた要員がギョッとしている表情を見せているので、ここでシンは彼女に文句を言う事にしたようだ。


「いやぁ折角ハワイ沖にいるんだから、日光浴くらいさせて欲しいな」


「男性隊員から、刺すような視線を感じませんか?

 それにアラスカベースには、日焼けマシーンがありましたよね?」

 何故かフライトデッキには若い隊員が増えてきて、横目でちらちらとベルを覗き見ているようだ。


 見掛けは20代中盤に見えるベルは、スリムな体型ながらも起伏に富んだプロポーションを持っている。

 適度にグラマラスなので、ニホン人受けする容姿なのであろう。


「この艦には女性隊員が居ない訳じゃないし、大目に見て欲しいな。

 私は日焼けマシンが嫌いなのは、シンも知ってるだろう?」


「まぁベルさんは分遣では無くて、オブザーバーとしての視察という名目になってますから。

 艦内で夜間襲われても、僕は知りませんからね」


「女性の居住エリアは、艦内で独立してるから大丈夫でしょ?

 でもシンが私をか弱い女性認定してくれるのは、嬉しいかも」


「あの、僕はベルさんの実年齢を知ってますからね」


「レディに年の事を言うのは、エチケット違反じゃないか?」


 ベルの拗ねたような一言に、シンは満面の笑顔を浮かべていたのであった。



                 ☆



 離着艦テストは滞りなく進み、数日後の隊員食堂の厨房。


「シン、この肉塊はどこから持ってきたんだ?」


 食堂のチーフは、既にシンを気安く呼び捨てにしている。

 頻繁に厨房に出入りしているシンは、もはや上官では無く自分の部下のように思っているのだろう。


「……内緒です。まずは味見して貰えますか?」

 軽くフライパンで火を通した肉に、シンはほんの少量の塩を振りかけている。


「これは……『尾の身』に近いが、ミンク鯨とは微妙に味が違うな。

 鮮度も高いし、どうやって手に入れたんだ?」


「実は別の惑星の、海洋生物の肉なんです」


「はははっ。少尉がそんなSF小説みたいな冗談が言えるとは!

 それでこれをどうするつもりなんだ?」


「この艦の皆さんには大変お世話になったので、最後の夕食でステーキで振る舞いたいと思うんですが。

 出処は内緒にして貰えますか?」


「別に鯨を食べてもこの護衛艦では問題にならないが、出処を詮索されるのは仕入れに絡むから不味いかもな。まぁ全て食べてしまえば、証拠隠滅という事で大丈夫だろ」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 分遣終了当日のブリーフィングルーム。


 ベルは通常整備を終わらせて、いち早くハワイベースへ艦載ヘリで送迎して貰っている。


「少尉、短い間でしたがこの艦で貴方の事を知らない者は居ないかと思われます。

 凄腕料理人のパイロットとして、長く語り継がれると思います」


 シンは飛行長が差し出した記念品?ナイロンジャケットを、嬉しそうな表情で受け取る。


「少尉、復隊したらユウに宜しく言っておいてくれ」


「あれっ、チーフはユウさんのお知り合いでしたか?」


「ああ。アイツは防衛隊の色んな部署の炊事兵と知り合いだからな。

 顔が広いだけじゃなくて、アイドル的な人気もあるし」


「弟分としては、とても嬉しいです。

 飛行長、艦長へ宜しくお伝え下さい」


「艦長は、ステーキが美味しかったと言ってましたよ」


「ははは。その件はご内密にお願いします。

 それでは」


 フライトデッキに向かうシンの足取りは軽く、いつもよりリラックスしているように見えたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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