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005.Battle Cry

 翌日。


 2人は連れ立って、テュケが提案した場所に来ていた。

 移動手段はもちろん、行き先を見ながら移動できるシンの亜空間飛行である。


「移動時間がほとんどゼロになるんだな。

 でもここで余計なエネルギーを使ってしまうと、帰国が延びてしまわないかい?」


 到着した場所は、滑走路はあるが管制施設やターミナルが無いプライベート飛行場と呼べる場所である。

 滑走路はそこら中に作られている巨大なマスドライバーほどの距離は無く、シンの感覚では大型旅客機の運用が難しいサイズである。

 彼女のお目当ては滑走路端にある大型ハンガーのようで、二人はゆったりと雑談をしながら歩いている。


「いいえ。

 使っても使わなくても、次の長距離ジャンプ可能なタイミングは同じですから」


「あの岩塊をぶっ壊した重力砲は、エネルギーを凄く消費しそうだけど?」


「あれを撃った後には特に疲れを感じませんでしたから、連射は可能かも知れませんね」


「おおっ、それは怖い話だな」


 惑星破壊兵器を連射できるとさりげなく発言するこの若者は、権力や支配欲とは無縁であるのを彼女は既に見抜いている。『怖い話』と言いながらも話をさりげなく流しているのは、危機感など全く感じていないからであろう。


 セキュリティが掛けられていないハンガーの開閉口は、ハイテクとは無縁の人力で開ける引き戸である。

 この辺りの風景は勝手知ったるカーメリ基地のそれと酷似しているので、シンは自分が何処に居るか忘れてしまいそうである。


 彼女がガラガラと大きな音を立てて引き戸を動かすと、薄暗いハンガーの中に漆黒に塗装された機体が複数並んでいるのが分かる。


「……これ、やっぱり航空機ですよね?」


 見慣れたF5系列に似ているその機体は、何故かエンジンノズルの部分に何も付いていない。

 翼やコックピットが見慣れた形状なので、シンとしては『あるべきモノ』が付いていない事で強い違和感を感じてしまう。


「ああ、この惑星で長い間孤独に暮らしてたから、唯一の娯楽がこれだったんだ」


 複数の機体が並んでいるが、C整備中?なのか内部構造が露出している機体もある。

 航空工学の基礎はもちろん習得しているシンだが、目の前の機器が何なのかさっぱり理解出来ないのはテクノロジーレベルが隔絶しているからであろう。


「これってエンジンノズルがありませんけど、浮力とか推力をどうやって得ているんですか?」


「ああ、そう言うと思ったよ。

 それは君の特殊能力と同じで、重力制御だな」


「なるほど。僕の住んでいた惑星では航空機は殆ど化石燃料で飛んでましたから、技術的には相当な違いがありますね」


「化石燃料で飛行すると言えば、君は知ってるかな?

 未開惑星の航空機の空中戦が、映像作品になってるのを」


「……もしかしてその主人公って、黒い機体(ファントム)に乗ってませんでしたか?」


「なんだ、知ってるんじゃないか?

 そういえば、あの作品のパイロットはシンに良く似た容姿をしていたな。

 あの映像は、シンの出身惑星が撮影元なのかい?」


「あの黒い機体(ファントム)のパイロットは、僕の兄みたいな人なんですよ。

 出身惑星では、伝説の戦闘機パイロットと呼ばれてるんです」


 シンとしては身近な存在のレイを伝説扱いするのは躊躇われたが、世界中の空軍関係者にそう思われているのは紛れもない事実である。


「ああ、なるほど。

 あの理不尽な空中戦の強さは、君と同じで特殊能力を使ってるからなんだな」


「……重力制御で飛行するなら、こういう後方噴出を前提とした形態は必要ありませんよね?

 このデザインはまるで、燃焼エンジンの推力を前提とした航空機みたいですよね」


「シンもパイロット(操縦者)だけあって、やはりそこに気がついたか。

 この形状になったのは、さっき言っていた映像作品の所為なんだな」


「えっ、どういう事でしょう?」


「コックピットからパイロット(操縦者)の生の姿が見えるというのは、やはり空中戦の醍醐味だからな。

 娯楽では無くて本当の戦闘ならば、パイロット(操縦者)の姿が見える必要は無いし」


「それってつまり……」


「あの映像作品に感化されて、こういう競技や機体を成立させたという事なんだ。

 我々のご先祖様は空を駆ける動物から進化したと考えられているから、航空機には拘りが強いんだよね」


「僕の母星でもエアレースっていうのがありましたけど、ドッグファイト(空中戦)を競技にしてしまう発想はありませんでしたね」


「実際にはガンカメラと作られた映像の組み合わせなんだが、臨場感が強いので大衆娯楽としてかなり人気があったんだよ」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



 整備中では無い機体のコックピットに座らせて貰うと、シンは用意していたヘルメットを手渡される。

 ヘルメットにはインカム?が内蔵されているようで、傍でヘッドセットを付けているテュケの声が鮮明に聞こえてくる。


「この通信機は、異常にクリアに聞こえますね」


「ああ、今はほとんど地上に電波が飛んでないからね」


「それにしても計器が少ないですよね?

 ベーシックT(4つの航空計器)の配置が同じなのは、やっぱりあの映像作品の影響ですか?」


「重力制御に使っているコア技術は、メンテナンスフリーだから。

 制御も左側のスロットルだけだし」


「どの位の時間、飛行できるんですか?」


「動力の稼働可能時間に関しては、ほぼ無限大だな。

 実際には整備が必要になるから、永久に飛び続けるのは不可能だが」


「はぁっ?

 僕の惑星の戦闘機だと、燃料があっという間に無くなるのが当たり前でしたけど。

 原子力空母みたいですね」


「重力制御は、この惑星の基幹技術の一つだったからね。

 宇宙船から子供の玩具まで、幅広く使われているから」


「なるほど」


「どうだい?実際に飛んでみる?」


「えっと、事前準備がなくて良いんですか?

 こういうのは、シミュレーターとかの訓練が必要になる筈ですよね?」


「君もパイロットなんだろ?

 大気圏内を飛行するなら、どんな機体でも同じようなものだろう」


「確かに操縦系統は僕の知っている航空機を模してますから、分からない部分は無いにしても……

 あっ、このスロットルには良く分からない機能がありますね」


「重力制御で動く機体だから、この機体はバックが可能なんだ」


「うわぁ、まるで回転翼機(ヘリコプター)のような事ができるんですね」


 シンは彼女に無線で指示された通りに、機体のメインスイッチを投入する。

 エンジン始動の音すら聞こえずに、機体がふわりと浮遊する。

 着陸脚は付いているが、本来ならばこの機体には不必要な装備なのであろう。


 ハンガーからゆっくりと機体が滑り出すと、シンは機体の高度をゆっくりと上げていく。

 全く無音のまま滑らかに飛行しているこの機体は、加速エネルギーゼロで数千メートルの高度に楽々と到達する。


「安全装置は作動しているけど、あまり無理な操作をすると復帰が難しいからね」


 航空管制が無い状態で飛行するのは初めてだが、シンは初めての機体を楽しんでいた。

 複雑な操作も無しに空中で静止できるこの機体は、空中戦という分野に限らず夢の飛行性能を持っているのである。

 

「ほうっ、もうコツを掴んだみたいじゃないか?」


「ええ。自分で飛んでいるのと、ほぼ同じ感覚ですね」


「なるほど」


 重力制御で飛んでいる時にはかなりの精神的な圧迫感があるが、この機体の飛行にはそれが無い。

 操縦操作を放棄したとしても、機体はその場で静止し失速することも無いのである。言うならば遊園地のゴーカートを運転している感覚に近いのである。


(これはカーメリのパイロット達が搭乗したら、なんて言うのかな)


 青色とは言えないくすんだ空であっても、シンは心底リラックスした状態で飛行を楽しんでいたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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