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028.Cinnamon Road

 ナリタ空港の滑走路。


 離陸許可を待っているワコージェット機内で、ハワイ行のメンバー、ノエル、マイラ、ミーファは寛いでいる。特にミーファはクーラーボックスに持参していた缶ビールを、まるでジュースの様にぐいぐいっと煽っている。

 

 パイロット・シートに座っているのは勿論アンだが、コパイ・シートにはいつものユウでは無くゾーイが座っている。


「これって義勇軍所属の機体なんですか?」


 空港に来るまでプライベートジェットの存在を知らなかったノエルは、慣れない専用ターミナルを通過する時点でもかなり怪訝な表情をしていた。


「いや。これはCongohニホン支社の所有物だよ。

 義勇軍所属の機体だと、ナリタのレンタルハンガーで預かって貰えないからね」


 コパイシートでフライトプランを見ながら、ゾーイはノエルと気安く会話を続けている。

 ワコージェットは超コンパクトな機体なので、大声を出さずとも客席とのコミュニケーションは問題無いのである。


「隠しミサイルがあったりして」


「さすがにスパイ映画のような武装は無いけど、CHAFF(チャフ)や妨害用の電子装備は搭載されてるよ。フライトコンピュータは武装に対応してるから、レイはハードポイントを追加したがってたけど」


「やっぱり。

 でも欺瞞装置(デコイ)を使う機会なんて、ありませんよね?」


「過去に必要に迫られて数回使ったと、アンから聞いているけどね」

 アンは管制との会話中だが、ゾーイの言葉に目配せして小さく頷いている。


「うわっ、怖いですね。

 それで、ユウさんが同乗してないのは?」


「あいつは超多忙だからな。

 Tokyoオフィスの残留組のお世話や、学園の勤務もあるし」


「それじゃ、訓練には参加されないんでしょうか?」

 あきらかに落胆した口調なのは、ノエルが持っているユウへの強い憧憬があるからであろう。


「いや、訓練の時だけ来るんじゃないかな。

 シンが戻っていれば、もうちょっと仕事を振れたのにね」


「?」


「まぁその時になれば、分かるよ」


「??」

 相変わらずジャンプに関して情報を持っていないノエルは、首を傾げるばかりである。


「皆、離陸(テイクオフ)するよ!シートベルトを確認して!」

 ここで管制とやり取りをしていたアンから、やっと離陸(テイクオフ)が宣言されたのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



 高度を上げてハワイへの巡航コースに入ったタイミングで、ゾーイが客席のマイラに声を掛ける。


「マイラ、席を代わろうか?」


「うん!」


 前回のフライトで燃料系統のトラブルがあったので、アンは自動操縦(オートパイロット)を起動したにも関わらず緊張を解いていない。トラブルの原因は解明されていないので、同様の現象が起きた場合いち早く対処しなければならないからであろう。


 いざという時には力技で解決できるシンが不在なのが、現状ではかなりの不安材料と言えるだろう。


 ヘッドセットを付けて貰ったマイラは、初めて触るスティックの感触を確かめている。

 もちろん自動操縦(オートパイロット)が有効になっているので、機体が反応することは無い。

 ちなみに市販品の●ARMINとは違うアビオニクスが搭載されたこの機体は、標準の操縦輪では無くスティックが装備されている。


 ゾーイは引き続きマイラに各LCDの操作方法について説明しているが、セスナ以外を操縦した事が無い彼女は興味津々である。


 アンは少しづつ緊張を解いているが、前回のフライトでエラーが検出されたEICASから目を離す事は無い。燃料ポンプをワコー技研の専用工場でメンテナンスした上に燃料供給業者を変更しているが、出入り業者に瑕疵があったとは彼女も考えていないのだろう。



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 コパイ・シートからの眺めを堪能してから客席に戻ったマイラは、昼食時になった機内で声を上げる。ちなみに前回のトラブルの詳細を知らない彼女は、全く緊張をしている様子が無い。


「お握り食べる人!」

 ゾーイ以外が全員挙手をしたので、大きなバスケットを持ったマイラはまずコックピットへ向かう。


「それじゃ、アンから配るね」


「へえっ、あんなに忙しいのに、ユウが用意してくれたんだ」

 ラップに包まれたお握りと緑茶のペットボトルを受け取ったアンは、見慣れたサイズから誰が調理したのかを直ぐに理解する。いつものユウのお握りなら中身がわかるように入っている具材をマーキングしてある筈だが、時間的な余裕が無かったのか見かけが全てが同じになっている。


「あれっ、ゾーイは食べないの?」


「ああ、パイロット2人が同じものを食べると問題があるからな。

 ユウが作ったもので、食中毒を起こすのはあり得ないとは思うが」


「それじゃ、これは別に預かっていたサンドイッチ!」


「おおっ、ボリュームのあるユウのカツサンドは抜群だからな!」


「昨夜の余ったカツを使ったから、味は期待しないでって。

 じゃぁあとの残りは、客席の皆で食べちゃおう!」


「これだと具の種類が、分からないよね」


「大丈夫!私の好きな具だけを、握ってくれたから!

 それにイナゴやザザムシの佃煮は、在庫が無いって言ってたよ!」


「それでも、マイラの具の好みは偏ってるから、ちょっと心配かも」


 ノエルの冷静な解説に、一同は大きな笑い声を上げたのであった。



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 食後。


 巡航高度からゆっくりと離脱している機内では、乱気流による?突然の揺れが頻繁に起きている。


「ゾーイさん、なんか気象レーダーの調子がおかしいので、チェックして貰えますか?」


 頷いたゾーイは装備されているキーボードドロワーを引き出して、コパイシートのPFD画面にチェックプログラムを表示させる。


「う〜ん、特に問題無いみたいだけど?」


「表示される情報と、実際の雲の様子がかなり違うんですよね。

 計器が信用できないなら、このままのコースだと不安ですね」


「もし故障してるなら、気象レーダーを頼りにすると危ないかも。

 交代の手動操縦で、乗り切るしかないかな」


 義勇軍では中尉の階級を拝命しているアンだが、シンやノエルと比べると経験が乏しいのは事実である。ゾーイは基地司令としてアンに命令できる立場ではあるが、経験を積ませるためにアンの判断を尊重するつもりなのであろう。


 ここで予想外の人物が、アンにアドバイスの声を上げる。


「ねえさま、

 『Don’t think,Feel!』」


 誰もが知っているカンフー映画の台詞は、緊迫した状態の一同を(なご)ませている。

 本家であるナナなら、こういった空気を読んだ一言は絶対に言わないであろう。


「……ああ、その通り!

 最近はハイテクに頼り切りで、基本的なエアマン・シップを忘れてたみたい」


 ゾーイはここでミーファに向けて、良くやったという意味の目配せを送る。


 『より良く生きたい』というミーファの願望は、こうした地道な出来事から達成されて行くのかも知れないとノエルは考えていたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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