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026.Lead Me

繋がりが悪かったので、今回はちょっと短いです。

 翌日午前中。


 Tokyoオフィスに到着した定期配送便の荷物を、ユウと居候中のノエルが検品している。

 定期配送便は殆どが食料品だが、個人が発注した衣料も同じ配送便で届けられている。


 複数のカゴ台車は、国内輸送でも使われている汎用品である。

 冷蔵や冷凍モノが入っている台車の荷物は真っ先にハウス冷蔵庫へ搬入されるが、これらの作業に雑務用のアイザックが使われる場合は無い。臨機応変に判断が必要な搬入作業は、作業用ロボットには不向きなのである。


「へえっ、ミーファの衣類一式かぁ。全部ノエル君が選んだの?」


 段ボールを開梱して中身をチェックしているユウは、ノエルに対して尋ねる。

 注文は、普段世話を焼いているノエルが行ったと判断したのだろう。


「ナナさんが見繕ってくれたみたいですよ。

 まぁサイズ違いは無いでしょうから、自分で着るものはここから本人が選ぶと思います」


 定期配送便で送られて来たワードローブ一式は、下着を含めてかなりの分量である。

 幼女の下着類を選んだなどと誤解されると好感度が下がりそうなので、ノエルはしっかりとユウに否定を返したのである。


「確かにシルクの下着は、ノエル君が選んだとは思えないわ。

 でもナナさんが選んだにしては、ボーイッシュな服が多い感じがするかな」


 部屋に運ぶための自動台車に載せながら、ユウは検品を終えた衣料に関して呟く。

 確かに届けられたダンボールにはワンピースやスカート類よりも、デニムやダンガリー生地のカジュアルな服が多く入っている。


「フウさんが選んだら、もっと可愛らしい服が多くなる筈なんだけど。

 でもこれって、シン君の普段着のイメージに近いわよね」


「……」

 シンとは数回顔を合わせただけのノエルは、無言で首を傾げたのであった。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 午後。


 地階にあるトレーニングルームでは、アンがミーファに何やら指導をしている。

 多忙を極めているアンが、Tokyoオフィスに残って時間を割いているのはとても珍しい。


 アンから手渡された小さなメタリをミーファは見様見真似で変形させ、数分後には(ブレード)の形を出現させている。薄くても(しな)らないブレードは自由なサイズを設定する事ができるが、ミーファの手に収まっているのは長さが50cm程度の短いものである。


 アンが用意している巻藁を鋼糸のトレーニングで借用した経験があるノエルは、興味深そうに二人を見ている。


「こんな小さくても、ブレードが使えるんだ」

 ノエルは隣接しているレスリング用のマットの上で、ストレッチをしながら呟く。

 定期配送便の手伝いを終えた彼は、今日はミーファのスケジュールに合わせてゆったりと過ごしている。


「私のブレードは、母親直伝だからね。

 ミーファにとっては、元々使える技術という事になるんでしょう」

 ユウの呟きに応じるように、アンが説明をする。


 アンが手本を見せると、即座に同じ動作でミーファも巻藁を真っ二つにしている。

 ブレードは腕力とは関係無い技術(ヴィルトス)ではあるが、動作を即座に再現できるのはシミュレーターの操縦と同じく再現能力が高いのであろう。


「はい、今日はこれまで。

 ミーファ、何か甘いものでも食べる?」


「うん!ねえさま!」


 自ら教えたのであろう呼び方に、何故か頬を緩めてしまっているアンなのであった。



                 ☆


 場所は変わってリビング。


 アンが用意したガラスのバナナボートには、様々な味のジェラートとカットフルーツが山盛りになっている。ジェラートは自分の店で出している商品だが、彼女自ら食器にデコレーションまでするのは珍しい。


「どう?」


「おいしい!」


「アン、最初は避けてたのに、ずいぶんと甘やかしてるじゃないか?」


 ゾーイはテーブルに用意されていたバルクから、自らスクープして器に盛り付けている。

 同席しているマリーにいたっては器に移す事すらせずに、巨大な業務用バルクを丸抱えして直接スプーンで食べるのが習慣になっている。ちなみにゾーイの好みのフレーバーは、言うまでも無くノッチョーラ(マカデミアナッツ味)である。


「方針変更です。

 今からしっかりと愛情を注いで育てて、性格が捻じ曲がらないようにするんです!」


「ほほう。

 君は娘であって、お母さんじゃないと思っていたのだが?」


「親族であるのには、違いありません!」


「なるほど、『血は水よりも濃い』ということか」



                 ☆



 夕食時。


 今日の献立は、ゲストであるゾーイの強いリクエストによりカレーである。


 ユウの作るニホン式カレーはどの拠点でもレトルトで手に入るようになったのだが、やはり本人が炊飯やトッピング調理をした場合別格の味になるとゾーイは力説する。

 ヨーロッパやアラスカの拠点では軟水器が標準装備として広まりつつあるし、ニホンメーカーの業務用炊飯器は常に人気の品なのであるが、やはり使いこなせるかどうかは調理担当の腕前に依存するという事なのであろう。


 ミーファはマリーと同じサイズの皿に、超大盛りにしたカツカレーを食べている。

 トッピングはトンカツだけでは無く、コロッケや揚げ餃子も載っているのはユウのチョイスなのであろう。

 山盛りのカレーが目まぐるしい速さで減っていく様子は、マリーの食べっぷりを見慣れているメンバーにもかなり印象的に見えるようである。


「ナナさんって、こんなに大食いでしたっけ?」


 相変わらずノエルは、マリーやミーファと較べると普通サイズの皿に盛られたプレーンなカレーを食べている。

 ボリュームアップするトッピングの揚げ物類は一切載っておらず、少量の福神漬やラッキョウだけが申し訳程度の彩りになっている。

 マリーの外食にも同行するノエルであるが、燃費が良い彼は普段はそれほどの大食いでは無いのであろう。


「さぁ。

 私は一緒に食事をした経験が無いから、何とも言えないな」


 マリーのお代わり分を皿に盛り付けながら、ユウが応える。

 トッピングの揚げ物はマリーのリクエストにより用意されているので、満遍なく並べていくのはお約束なのであろう。

 ちなみに用意してあった2台の業務用炊飯ジャーは、すでに一台が空になりつつある。


「何でも良く食べるんだけど、ここのカレーは特に気に入ったみたいだね」


「おかわり!」

 ユウに元気よく宣言したミーファは、米粒一つ残していない空き皿をユウに手渡す。

 手早く彼女のお代わりを用意したユウは、空になった巨大な炊飯ジャーを手にキッチンへ向かう。


「追加の炊飯ジャーを、持って来ますね。

 ミーファの食欲を甘くみてたかな」


「マイラやエイミーも良く食べるが、彼女は身体が小さいけど負けてないな。

 この小さい身体の何処に入るのかは、マリーと同様に不思議だが」


 ゾーイの一言は、リビングに居るメンバーを代表した疑問なのであろう。


「せいちょうにはえねるぎーがひつよう!」


 右手のスプーンを掲げながら叫んだミーファの一言で、リビングにはどっと笑い声が起きたのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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