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018.Yeah, Yeah, Yeah

今回はかなり短いお話ですが冗長にしたくなかったのでご容赦下さい。

 トーコは生き物が苦手だ。

 虫は何でも苦手だし、ペットの犬や猫ですら近寄って欲しくない。


 でも最近は、シリウスがシンにべったりと貼りついて離れない。

 エイミーは毎日ブラッシングしたり、餌を用意したりと仲良くやっているが、動物が苦手なトーコにはそれが出来ない。

 尻尾を振ってトーコの傍にやってきても、大きな犬歯の口元を見ただけで彼女は体がこわばってしまい撫でることすら出来ない。


 小型に品種改良されたクリー・カイのような見かけのシリウスは、人を威嚇したり無駄に吠えたりしない。

 トーコが過剰に反応しているのに気が付いているのか、一切のスキンシップをシリウスはトーコに要求することは無い。

 けれどシリウスは、自分と距離を取っているトーコを無視することが出来ない。

 自分のパートナーであるシンが、彼女を庇護の対象にしていることを理解しているからである。



 某日某所。

 深夜に及ぶ火力発電所での作戦に参加していたトーコは、豪華なツアーバスのベットで浅い眠りについていた。

 前席のシン達の様子が慌ただしくなったが、トーコはそれを夢見心地で聞いているだけでまだ覚醒していない。

 そこへ小走りにシリウスがやってきて、まどろんでいるベットの上のトーコにその躰がのしかかってくる。

 

(ひっ!)

 トーコは一瞬で覚醒し目を開けるが、どうやらシリウスは横で寝ているマリーを起こしにきたようだ。

 寝起きの悪い彼女の顔をべろべろ舐めて、覚醒を促している。

 マリーがやっと目を開けると、小さく吠えたシリウスはシンが飛び出していったばかりのドアに向けて外に出るように促す。

 マリーはベットサイドに置いてあったデジタル双眼鏡を手に取ると、ドアに向かってふらふらと歩き出す。


 トーコはこのままバスに留まるかどうか迷っていたが、熟睡しているエイミーをゆり起して一緒に室外に出ていく。

 足下にシリウスを従えたマリーは、既にインカムを装着してデジタル双眼鏡でかなり離れた場所の様子を確認しているようだ。


 大きな破裂音が二回繰り返し聞こえたが、それが大口径ライフルの発射音なのを銃器に知識が無いトーコは分からない。

 遠く離れた方向からキラリと閃光が見えた気がしたが、それが戦場で良く見られる跳弾であるのももちろん認識出来ない。


 突如、マリーを含めた一同の周囲が透明なカーテンのように発光するが、オーロラの光のようなそれをトーコは身じろぎもせずに不思議な表情で見ていた。

 だが足元にころりと転がってきた親指より大きい潰れた弾頭を見て、今のが聞いていた弾丸を防御するヴィルトス能力というものかと気が付きやっと何が起こったのかを理解する。

 

「マリーさん、あ……」

 お礼の言葉を告げようとしトーコの目に、しゃがみこんでシリウスの頭を撫で回している笑顔のマリーが目に入る。


「La,La,La」


「マリーさん、今のはもしかして?」


「シリウスが守ってくれた。私は双眼鏡で視野が狭かったから、気が付くのが遅れた」


 メトセラが銃弾を防ぐ自前のシールドを発生できるのは知識として知っていたが、まさかあの仔犬が同じ能力を持っているとは驚きである。

 今になってあのナナが、役に立つと盛んに強調していた意味がやっと理解できる。



                 ☆



 数日後寮での夕食の時間帯。

 シンはキッチンで食事の支度をしていて、エイミーもその手伝いをしている。

 足台に乗っかってエイミーは包丁を使っているが、手先が器用なのか危なっかしい感じは全く無い。


 食事をいつも取っているダイニング・テーブルの上にはシリウス用のジャーキーの袋があるが、テーブルの上に乗らないようにシンに言い聞かされているのでシリウスはジャーキーに目線を投げながらもじっと我慢している。

 トーコは躊躇いながらも袋からジャーキーを取り出し、手のひらに乗せると目をつぶってシリウスの口許におずおずと手を近づける。

 手のひらが一瞬暖かくなってジャーキーの重さが無くなると、トーコの足にシリウスが体をこすりつけ尻尾をぶんぶん振っているのが目に入る。

 繰り返し手からジャーキーを与えると苦手意識も少し払拭されたのか、しゃがみこんだトーコはシリウスの首元にそっと手を当ててみる。

 柔らかく良く手入れされた毛皮の感触は触り慣れたテディベアの縫いぐるみのようだが、息遣いとともに生きている暖かさが掌に伝わってくる。

 頻繁にシャワーを浴びているので、幸いなことに犬特有の獣くさい匂いはトーコには感じられなかった。


「シリウス、いつも守ってくれてありがとう」

 小さな躰を抱きしめられたシリウスは、顔を上げるとトーコの顔をベロベロと舐めはじめる。

 キッチンから様子をそっと見ていたシンとエイミーは、何も言わずにただ微笑んだ表情を浮べているだけである。



 トーコは今でも生き物が苦手だ。

 虫は何でも苦手だし、ペットの犬や猫ですら近寄って欲しくない。

 ただしシリウスは除く。

お読みいただきありがとうございます。

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