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022.Born Again

「この子は迷子じゃなくて、ノエルをAmbush(待ち伏せ)してたんじゃないか?

 それにしても……どこかで見たような容姿なんだよな」


 ゾーイは、サンドイッチをはむはむと頬張っている幼女を見ながら呟く。

 彼女が幼女を熱心に観察しているのは、Suicide Attack(自爆攻撃)を警戒しているからであろう。


「ノエルの目を惹かないと、Ambush(待ち伏せ)の意味が無い。

 近親者にそっくりなのは、必然」


 同席しているマリーは大量に追加注文したスナック類を、幼女とは段違いのスピードで食べ続けている。マリーは小柄で口は小さいが、フードファイター並に咀嚼する力が強いのである。ただし味噌カツサンド以外は極々無難な味付けなので、満腹になる以前に食べ飽きてしまう可能性も高いのであるが。


「それじゃまるでHoney Trap(美人局)じゃないか」


 幼女の横の椅子にかけているノエルは、少し冷めたカフェオレを彼女が喉を詰まらせないように飲ませている。その様子は幼い妹を気遣う優しい兄そのものであり、ゾーイとマリーの会話を聞きながらも警戒している様子は微塵も感じられない。


「C’est comment?」

 

「C’est excellent!」


「この面影は……ナナの子供の頃にそっくりだな。

 SID、彼女の顔と同年代の頃のナナとの類似性を教えてくれるかな?」

 マリーの一言に納得したゾーイは、容貌だけでは無く出自の近さも感じているようだ。


「…………99.999%ですね」

 ゾーイの胸元から聞こえてくるSIDの返答は、マリーやノエルにも明瞭に聞き取れている。


「なるほど、顔認証を通過するレヴェルなんだ。

 ということは、ソラと同じアヴァターラボディなのかな?」


「いいえ。

 これまでの研究結果では、幼女のアヴァターラボディというのは考え難いです。

 未成熟な小さいサイズの脳だとゴーストをダウンロードする際に、制限が出てしまうと考えられています。それに彼女の様子から、亜空間通信で接続しているとは思えませんし」


「……」

 食事が一段落してノエルにもたれかかっている幼女は、今度は眠そうな表情で欠伸をしている。

 リラックスした状態なのか瞼が重そうで、今にも寝落ちしてしまいそうである。


「こうして見ていると、ノエルとは兄妹にしか見えないなぁ。

 それじゃまずタクシーでTokyoオフィスまで戻ろうか」


「このまま連れて行って、大丈夫でしょうか?

 誘拐犯に間違われると、大事になりそうですよね」


「ノエルが居れば姉妹にしか見えないから、問題無い」


「おまけに行方不明者でも無いし、彼女は本来この国に存在しない筈だからな。

 今から警察に調査をお願いしても、たらい回しされて結局は入国管理局に辿り着くのが目に見えるようだし」


 ゾーイは熟睡してしまった彼女の肢体を軽々と横抱きすると、足早に店外へ向かったのであった。



                 ☆



「SIDから連絡があったので」


 外出組が帰宅したTokyoオフィスでは、エイミーがユウと楽しそうに雑談をしていた。

 料理や体術で師弟関係にある二人は、まるで実の姉妹の様な信頼関係で結ばれているのである。


 ゾーイが車内でも熟睡していた幼女を静かにソファに横たえるが、むずかりながら寝言を言う彼女が目を覚ます兆候は無い。言うまでも無いが、遠隔操作されるアヴァターラボディが寝言を発しないのは明らかであろう。


「へぇっ。

 もしかして来歴は無いかと思っていたんですが、予想は外れましたね」


「?」

 エイミーの能力について予備知識が無いノエルは、彼女の発言に首を傾げている。


「ナナさんと全く同じ来歴ですね……こういう例は初めて視るかも知れません」


「来歴が同じって、真正のクローンなのか。

 もしかして遺伝子記憶ってヤツも、再現出来てるって事なのかな?」


「現時点では何とも。

 言うならば幼少時のナナさんが、この場に時空を超えて転移してくるとこうなるんでしょうね。

 ところで、彼女はフランス語を理解していたとか?」


「はい。

 僕の質問は、普通に理解していたと思います」


「ああっ、全く同じように見えますが『改良』されている部分があるかも」

 エイミーの追加の発言は、リビングに居る一同に若干の緊張をもたらしている。


「もしかして、彼女は鹵獲される前のソラの様に危険なのか?」


 相変わらず警戒を緩めていないゾーイが、エイミーに切迫感がある様子で質問する。

 フウが不在のTokyoオフィスで、事件を起こすのは彼女の本位では無いからであろう。


「いいえ。ゾーイさんが懸念されているような、自己破壊機能は彼女にはありません。

 ただし、全く無害であるとも言い切れませんが」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 ここで漸く目覚めた幼女は、周囲の状況よりもまず視界の中にノエルを探しているようだ。

 自分の真横にノエルが居るのを見て、安堵した様子で彼女は笑顔を見せる。

 ノエルは彼女を落ち着かせるために、身近に抱き寄せて頭をくしゃっと撫で回している。


「ところで、DNAサンプルの検査はどうなってるのかな?」

 仲睦まじい二人を見ながらゾーイが尋ねたのは、ユウのジャンプによって既に提出されているサンプルの検査結果である。

 一般の研究機関では結果が出るまで数日が必要だが、Congohの研究施設なら数時間で結果を得るのが可能なのである。


「ナナさんが、既にこちらに向かってるみたいですよ」


「返答も無しにこっちに向かってるって事は、やっぱりそういう意味なんだろうな」



                 ☆



「ああ、またかぁ……DNAの著作権を主張したい処だね」

 Tokyoオフィスに到着したばかりのナナは、目の前に居る幼女を見ながら自業自得の一言を発する。交換条件で自らの遺伝子を提供したのは事実だが、これで彼女のDNAが再利用されているのは2人目である。


「Maman?」


 ソファから立ち上がった幼女は、ナナの腰にすがりつく様に抱きついている。

 記憶が無い?彼女にとって、ナナは本能で感じる母親そのものなのであろう。


 流石にナナはノエルの前で薄情な態度は取れないらしく、抱きついている幼女を振り払ったりはしない。

 その様子を見てゾーイはにやにやしているが、口に出してからかうのを懸命に我慢しているようだ。


「彼女の着替えはあるかな?」

 おかしな表情のゾーイをガン無視して、ナナはユウに尋ねる。

 いつも辛辣な口調の彼女ではあるが、自分の遺伝子絡みでからかわれるのは避けたいのであろう。


「ああ、マイラ用のジャージと下着類ならストックがありますよ。

 お風呂に入れていただけるのなら、すごく助かります」


「いくら懐いているとは言え、いきなりノエル君に任せるのはどうかなと思ってさ」


「……」

 実のところノエルは幼児を入浴させるのは慣れているのだが、ここでは目をそらして無言で通している。周囲の煩いメンバーから、余計なツッコミが入るのが明白だからである。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 Tokyoオフィス、大浴場。


「おおっ、ホクロの位置まで同じだな」


 健康状態のチェックを含めて、ナナはシャンプーハットを被った幼女の全身を念入りに洗浄している。

 もちろん大浴場なので、洗浄する側のナナも何も身に着けていない。

 ボリュームがある胸や腰回りは、服を着ている時の印象と違いかなりグラマラスである。


「この子は何処から来たんでしょうね」


 幼女に不安を与えないように大浴場に同行したエイミーは、湯船に浸かりながら首を捻っている。

 胸周りが膨らんでより女性らしくなったエイミーは、すでに幼女では無く少女と呼べる体型に成長している。


「う〜ん、エイミーと一緒じゃないかな。

 薄汚れては居たけど、せいぜい彷徨っていたのは一日程度だろうし」


「Quel est votre nom?」

 ここでエイミーが、幼女とコミュニケーションを取ろうと話しかける。


「……Sais Pas」


「Vous venez d’ou?」


「……Sais Pas」


 幼女は決して無愛想な訳では無いが、自分の名前すらはっきりと答える事が出来ない。

 遺伝子検査や外見から彼女が何者かは分かっているが、現状は記憶喪失に近い状態なのかも知れない。


「ナナさん、彼女に何か名前を付けてくれませんか?

 このままだと、お世話するにも支障がありますし」


 表情を目まぐるしく変えながら分からないを繰り返す幼女は、どう見ても自我を持っている存在であろう。当然の事ながら、彼女がアヴァターラボディではあり得ないという結論にエイミーは再び到達する。

だがそうなると、ナナの遺伝子を持っている彼女の身柄は公的機関に任せる事は出来なくなり、Tokyoオフィスで保護する以外に選択肢は無い状態になっているのである。


「まぁノエル君には悪いけど、彼女の存在は丁度良い『重し』になりそうだね。

 そうだなぁ……ミーファなんてどうかな?」


 ゾーイの一言に、不本意ながらも同意してしまうエイミーなのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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