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040.Different People

 改まった歓迎会では無く気軽に親睦を深めたいと希望していたタルサは、夜半にリビングで行われている談笑の輪に加わっていた。


 シンが手早く用意したつまみを前にして、ソファではリラックスした服装で寮生が意見交換をしている。

 議論が白熱した場合にはビールサーバーが大活躍するが、トーコ以外はアルコールに強いメンバーばかりなので生ビールはソフトドリンクと何ら変わりがない。

 たとえルーの目の前にユウが持ち込んだオールド・フォレスターが置かれていても、あくまでも学園寮の敷地内なのでシンは注意などしない。

 実はプロメテウス本国には、アルコールの年齢制限に関する法律は存在していないのである。

 ちなみに通常の飲み会なら嬉々として参加するパピとケイだが、非番の今日はユウと一緒に近所の居酒屋へ繰り出しているので不参加である。


「シン、ここには少人数しか居ないから敢えて聞きますけど」

 タルサは大きなサイズのTシャツ一枚で、下半身はビキニタイプのショーツだけを身に着けている。

 チラチラと見える下半身はともかく胸のラインが動くたびに強調されるので、シンとしてはもう少し厚着して欲しいと要望したい所である。


「?」


「寮にはかなりイレギュラーな年少組が居ますけど、シンはそれをどう思ってるんですか?」

 

 タルサはコンビニで手に入れた、厚切りポテトチップスをバリバリと食べている。

 ニホンのポテトチップスの繊細な味に驚いていた彼女だが、最近はシンプルな塩味がお気に入りのようである。


「ああ、なるほど。

 タルサの育ったコミュニティには、『地元』の人しか居なかったんだね」


「……ええ」

 『地元』の意味をしっかりと理解している彼女は、躊躇(ためらい)がちに答える。

 タルサには出自によって差別する意図は微塵も無いが、年少組の2人とシンの間の妙に近すぎる距離感を疑問に感じているのだろう。


「念のために聞くけど、タルサは人種とか肌の色の違いとか、そういうのは気にならないよね?」


 シンは離れて座っているルーの目線(アイコンタクト)に気がついて、近くの冷蔵庫から追加の切り落としチーズを取り出す。

 タッパーから取り出した各種のチーズは味が濃いので、バーボンのつまみとしては最適なのであろう。


「はい。勿論です」

 義勇軍のブートキャンプに参加していたメンバーは、人種で区別するのが難しい容姿の者が多くこれが現世代のメトセラの特徴にもなっている。

 古い世代のメトセラであっても無国籍的な容姿が特徴なので、世代を重ねていると更にその特徴が強化されているのだろう。


「僕もちょっと前にナナさんに聞いて驚いたんだけど、『この宇宙』のヒューマノイドは進化の過程が違うにも関わらず最終的にはほとんど同じ形態になってるんだって。

 SF映画に出て来るような昆虫型や魚類由来のヒューマノイドは、生化学的に存在するのが難しいみたいなんだよね」

 ヘヴィーな内容の会話になってきたので、今度はシンがルーに水割りを作ってくれるように目線で催促する。


「?」

 タルサは二人の無言のやりとりに首を傾げながら、ビールサーバーでパイントグラスにビールを注いでいる。


「僕もエイミーの母星に何度か行った経験があるんだけど、驚くほど普通なんで最初はショックを受けたんだよね」

 ルーから無言でハイボールを受け取ったシンは、小さく会釈してグラスに口を付ける。

 傍で見ているメンバーは気が付かないかも知れないが、ルーとシンの間には既にアイコンタクトだけで意思疎通が出来る信頼関係が構築されているのである。


「??」


「進化の過程が違うヒューマノイドの惑星に行っても、カルチャーショックを受けるような出来事が殆ど無くてね。

 技術レヴェルが隔絶しているのは直ぐに理解できたんだけど、街を歩いていても欧州の土地勘の無い都市と同じで違和感が全然無いんだよね」


「……」


「更に驚いたのは現地の生化学者の人の説明で、ヒューマノイドはどの惑星で生まれたかは関係無く殆ど問題無く子供が作れるっていう点なんだよね。

 元になるSEED?が共通なのが、その理由らしいんだけど」


 口当たりの良いハイボールによって、シンの緊張していた神経が解されていく。

 普段は強い蒸留酒は口にしないが、軽い酩酊感がリラックスした状態ではとても心地よく感じられる。


「……」


「たとえばエイミーと僕の場合には錠剤を飲む程度の遺伝子操作で子供が作れるっていうし、マイラとは何もしなくても普通に子供が出来るんだって」


「!!」

 日常会話ではほとんどタブーの話題をシンが気安く発言したので、タルサは驚いた表情を浮かべている。


「『世界は一つ人類は皆兄弟って』古い格言があるらしいけど、実際には『宇宙は一つヒューマノイドは皆兄弟』というのが現実らしいからね」

 シンは味の濃いペコリーノチーズを頬張ると、ハイボールで口を潤す。

 カーメリでは大量に切り落としの高級チーズが厨房で発生するので、ジャンプでお邪魔する度にリュックに詰め込んで持ち帰っているのである。

 もちろんカーメリ基地でも『もったいない精神』は浸透しているが、別の拠点に払い下げるという発想は無かったのである。


「……」


「一緒に暮らしていて同じ食事を摂って、子供を作れるんだったら何か『区別』しなきゃいけない理由があるのかな?」


「シンが『差別』はもちろん『区別』もしていないのは分かっていましたけど、それだけなんでしょうか?

 なんかシンの内面に踏み込んでいるような気がして、図々しい質問かも知れませんけど」


「そうだなぁ……エイミーとマイラと僕の距離が近いのは、それはやっぱり僕が妹と生き別れているのが原因なんだろうね」

 タルサの懸念している部分を正確に把握出来ているのか、シンは彼女が知らない個人情報をまるで他人事のように披露する。


「……」


「僕の生き別れた妹は生まれてから僕がずっと一人で面倒を見てきたから、兄妹というよりは血を分けた自分の子供のような感覚だったんだと思う。

 生まれてから数年間は、育児が僕の生活の殆どの部分を占めてたからね」


 再びルーの視線を感じたシンは、今度は席を外して厨房の冷蔵庫から大きな平皿を持ってくる。

 これはエイミーがテストで焼いたピッザだが、普段使わない和風の具材が大量に載っている。

 綺麗にカットされた残り物のピッザのラップを剥がすと、シンはルーの近くに平皿をコトリと置く。

 試食の為にピースが一つだけ欠けているので、その形はまるでデコレーションされたパックマンの様である。


「あの……ルーさんとシンさんの間では、テレパシーのやり取りでもあるんですか?」

 先程から続いているアイコンタクトでのやりとりに、漸く気がついたタルサがルーに質問する。


「ああ、シンとは一緒に作戦参加もしてるし何となくわかるんだよね。

 ……うん。冷めてるままの方が具材の味が良くわかるな」


「私みたいに作戦に参加していないメンバーにはちょっと羨ましく思いますけど、付き合いは私が一番長いですから!」

 トーコも大皿に手を伸ばすと、大きくカットされた一枚を頬張る。

 胃袋が以前よりも鍛えられているのか、夜半のピッザも胃もたれせずに食べられるようになったのは大きな進歩と言えるだろう。

 ちなみにトーコの手元には、彼女専用のアルコール飲料として甘い味付けの缶チューハイが置かれている。


「でも最近はトーコも好き嫌いが少なくなったから、昔ほど手がかからないかな」


「これはピッザというよりも、チジミみたいな味になってますね」

 ニホン滞在で食べ歩きをしているハナは、商店街にある居酒屋の味を思い出しているようだ。

 彼女はアルコールに強いので、パイントグラスのビールをぐいぐい飲んでいる。


「ああ、冷めたままだから、尚更そう感じるんだろうね」


「照り焼きチキンと、パルミジャーノの組み合わせがバランスが良いです」

 ボリュームがあるピッザが好きなハナは、イタリア人からは考えられない和風のピッザを気に入ったようだ。

 正統派のピッザ作りを学んでいるエイミーとしては、あまり気に入った出来栄えでは無かったらしいのであるが。


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


 夜半の談笑は続く。


「それに僕達の周囲には、実は想像以上にいろんな惑星の人たちが暮らしてるんだよね」


 キャスパーやフェルマ以外にもシンは、アラスカベースやセルカークで多くの異星のヒューマノイドと会った経験がある。

 彼らはコンタクトレンズやそれ以外の方法で容姿を改変しているので、その出自を簡単に知られてしまう事はあり得ない。


「でもシンは、出自関係無しにマイラを甘やかしすぎだと思うけどね」


 ルーは入寮以来彼女の面倒を見ているので、シンの態度には厳しさが足りないという感想を持っているようだ。

 彼女は面倒見が良いので、マイラやリラの年少組にはかなり慕われているのであるが。


「彼女は両親の温もりすら知らない過酷な環境で育ってるからね。

 今は愛情一杯の環境で、大きくなって欲しいと僕は思ってるんだ」


「そうだね。

 シンの事を好き過ぎる以外は、素直に真っ直ぐに成長してるかな」


「それにしてもハナ、貴方もシンに甘えすぎじゃないの?」

 昔からの知り合いなので、タルサの一言はかなり厳しい口調である。


「うっ……確かにそういう点はあるかも」


「でもタルサ、彼女のハードワークのお陰でコミュニケーターもずっと使いやすくなってるし、僕はハナに感謝してるけどね」


「そうなんです!私はUnsung Heroes(縁の下の力持ち)なんです!」


「普通ヒーローは、そういう風に自称しないと思います」


 トーコの鋭い突っ込みに、一同は温かい笑いに包まれるのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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