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029.Brothers & Sisters

 ハワイベースのリビング。


 来週帰国予定の一同は、大量に買い込んだお土産候補の山を前にして雑談をしている。


「ねぇ、いくら手荷物の制限が無いにしても、こんなに色々と買う必要があったの?」

 

 地元民のエリーからすると、ハワイで手に入るお菓子類がそれほど珍しいとは思えない。

 中でも大きな割合を占めているのは、ハワイのスーパーやコンビニで普通に手に入る米帝製のチョコバーや地元産のナッツ類なのだから。

 特にチョコバーはそれぞれの銘柄を箱買いしているので、まるで輸入雑貨店の仕入れの様である。


「まだ定期配送便のリストに載っていないので、つい買いだめしちゃいました!」

 米帝育ちのハナは、やはりプログラミングの合間に食べ慣れた糖分の補給が必須なのであろう。


「エリーには意外だろうけど、ニホンのコンビニで手に入るのはせいぜいス●ッカーズとミルキー●エイだけだからね」


「ええっ、そうなの!

 あんなに商品が沢山あるのに、チョコバーは置いてないんだ!」


 ニホンを訪問するとお菓子類を買いだめする彼女だが、さすがにチョコバーの品揃えについては気がついて居なかったようだ。


「ニホン人は繊細な甘さのチョコレートに慣れてるから、米帝の大味なチョコレートは口に合わないのかも」


 これはトーコ自身の感想だが、まんざら外れては居ないだろう。


「それは兎も角、カーメリ組は軍事基地だから周りに何にも無いだろ?

 ミラノまで買い出しに行ったなんて聞いてないし、珍しいチョコバーやナッツでも十分に喜ばれると思うな」


「そうそう。

 イタリアでもチョコレートやクッキーは美味しいのがあるけど、基地の傍にある『タバッキ』じゃ手に入らないからね」


 ケイやパピはチョコレート好きなマイラやリラを念頭に置いて、チョコバーについて擁護をしているようだ。

 ちなみにケイ本人は、甘い物なら和菓子の方が好きなのは言うまでも無い。


「でも冷凍マグロ一匹っていうのは、シンでもさすがに始末に困りませんかね?」


 市場で手に入れた張本人であるトーコだが、さすがに一本買いは失敗したかなという表情を浮かべている。

 今朝方仕入れたばかりのメバチマグロは早々にハウス冷凍庫の奥で冷凍中なので、クーラーボックスに入れればTokyoまで新鮮な状態で空輸が可能であろう。

 もちろん通常の手段での通関は不可能であるが、到着後にシンに滑走路でピックアップして貰う予定なので心配は無用である。


「エイミーが居るから、捌くのは問題ないだろ。

 それにキャスパーが居るから、マグロづくしも喜ぶんじゃないかな」


「ああ、自分もハワイに行きたいって駄々をこねてたからね〜」


「そういうこと」



 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎



 都内近郊の山林。


「ヘックション!

 まったく、何で私が現場に来なくちゃいけないのよ!」


 2型迷彩服を纏ったキャスパーは、朝から愚痴を連発している。

 実際にはユウと一日一緒に居られるので、機嫌は決して悪くは無いのであるが。


「実動隊が誰も居ないから、仕方がないでしょ?

 私のジャンプじゃ現場に直行も出来ないし、なによりDD(デブリ)を判別出来ないからね。

 まぁピクニックだと思えば、腹も立たないんじゃない?」


 最近は黒服機関の横槍も入らないので、DD(デブリ)の収集はトラブル無く行えるようになっている。

 もっともここ数ヶ月に出現したDD(デブリ)は、残念ながらガラクタの類が殆どなのであるが。


「ピクニックなら、ちゃんとお弁当は用意してあるんでしょうね?」


「もちろん、キャスパーの好みのお握りと豚汁は、ちゃんと用意してあるよ」


「やった!

 やっぱりユウ、大好き!」


「……食べ物絡みで好きって言われてもね」




                 ☆




 シンとルーが寄り道しているテキサス某所。


「シン君、ひさしぶりね!」

 エイシャを抱きかかえたグレニスが、二人を玄関口で出迎える。

 母親に抱っこされているにも関わらず、エイシャは両手を伸ばしてシンにダーダーと声を上げる。


「ねえっ、この子ってもしかしてシンの子供なの?」


 シンの腕の中に収まって満足気な表情を浮かべているエイシャに、ルーは至極当然の疑問を投げかける。

 二人はリビングのソファに腰掛けるが、両手が空いたグレニスはキッチンでアイスティーのポットとグラスを用意している。


「あはは、良く言われるのよね!

 実の父親よりも、シン君にすっかり懐いちゃって」


 アイスティーをサーブしながら、グレニスはあっけらかんと白状している。

 尤もシンに対してはジョー本人もかなり入れ込んでいるので、家庭不和の原因にはなっていないようだ。


「それでシン君、エイミーちゃん以外にも兄妹が居たの?」


「まぁ親戚には違いありませんけど、僕の大切なガールフレンドです」

 シンは抱っこしているエイシャに、グレニスが持ってきた幼児用のストローカップからジュースを飲ませている。

 飲み終えたのを見計らい慣れた様子でゲップをさせている様子は、実の親子のようにしか見えないだろう。


「ちゃんとご挨拶するのは初めてですね。

 ルーと言います。今後とも宜しくお願いします」


「二人並んでいると良く似ていて、お似合いだわよね」


 寮のメンバーはシンの遠縁が大勢いるのだが、未だ嘗て似ていると言われた事が無い。

 ルーの纏っている雰囲気が、やはり似ていると言われる由縁なのであろうか。


 

「それで出店計画の方はどうなってますか?」


「物件の方は抑えたから、あとはのんびりとやっていくつもり。

 最初は短い営業時間で、様子をみようかなと思ってるんだ」


「厨房機器については、アイさんのコネがありますから相談に乗れますよ」


「それは心強いわ。

 あら、アイシャが女の子に興味を持つなんて珍しいわね!」


 シンの腕に収まりながら、アイシャはルーに向けて手を伸ばしている。

 普段ならシンの腕の中で熟睡してしまうのだが、ルーには何か興味を抱く点があったのだろうか。


 ここでシンから抱っこを変わったルーは、慣れた様子でアイシャをあやしている。

 普段ならばむずかる処なのだが、アイシャはおとなしくルーの腕の中に収まっている。


「へえっ、抱っこが上手じゃない?」


「シンと一緒で、小さい頃に世話をした経験があるからね」


「育児に慣れているのって、本能で分かるのかしらね。

 これならいつ子供が出来ても、安心ね」



                 ☆


 

 急遽マリーの世話を頼まれたシンは、Tokyoオフィスに来ていた。

 Tokyoオフィスで昼食を作ると非効率なので、寮まで連れて行って一緒に食事をするためである。


 トーキョー、ワシントン、テキサス、そしてトーキョーと、シンの一日は密度が濃くそしてやることが山積みである。

 今は寮に向かう前に、シンは軍事機密に類する情報をマリーと打ち合わせをしている。

 ここにはシンとマリーの二人しか居ないので、内緒話をするなら寮よりも都合が良いからである。


「それでマリー、このサイズのものをイレース出来るかな?」

 SIDが光学映像を補完したプリントアウトを見ながら、シンはマリーに確認している。

 画像には大まかなスケールが付いているので、4トントラック並のサイズがあるのを判別できるだろう。


「……たぶん可能だけど、自分の身体が持つか自信が無いかも。

 それで作戦ではシンのジャンプで一緒に飛ぶの?」


 普段食べられないテキサス土産のピーカンパイを頬張りながら、マリーはご機嫌な表情である。

 ユウはもちろんナナから作り方を教わっているのだが、時間がかかるお菓子作りをすることは稀なのである。


「うん。

 高度が高めの場合には、Dragonladyじゃ届かない可能性があるからね」


「シンと一緒なら、やっても良い。

 いざとなったら、ナナさんのところへ急行できるし。

 あと例の味付けの件は、どうなった?」


「総料理長が納得してくれたから、今試作品を作ってる筈。

 フルーツ系の味ってリクエストは出したから、突拍子も無い味にはならないと思うけど」


「その試作品を大量に用意して臨めば、多分大丈夫」


「これでなんとか目処が立ったかな」


「それでシン、昼御飯は魯肉飯(ルーローハン)でお願い!」


「へえっ、台湾風の中華を気に入ってくれたのかな?」


「うん!商店街の中華屋さんより、シンの作る方が遥かに美味しいから!」



                 ☆



 DD(デブリ)の回収を早々に終えたユウとキャスパーは、草原に腰掛けて早くもピクニックモードである。


「キャスパー、もう5個目でしょ?

 食べ過ぎじゃないのかな」


「ニホンのコンビニお握りは美味しいけど、さすがに『愛情』は入ってないからね。

 やっぱりユウが作るお握りは絶品だよね」


 キャスパーが飲み干しているマグカップに入った豚汁も、もちろんユウの手作りである。

 キャスパーの大好物であるマグロを具材にしたお握りは、ツナマヨ以外にも佃煮やカレー風味のピラフとバリエーションが豊富である。

 ユウも差し入れの習慣でつい作り過ぎてしまったので、大きなバスケット満杯のお握りは流石に食べきれないと思っていたのであるが。


「それにしても、あの二人を同時に休暇に出すなんて。

 何か緊急事態が起きたら、どうするつもりだったの?」


「だって今はシン君とユウが居るじゃない。

 貴方達二人が揃って居て解決できなければ、米帝の特殊部隊でも無理でしょう?」


「フウさんがキャスパーに協力を拒むのは考えられないけど、いつも人間関係だけで仕事をしてる訳じゃないからね」


「プロメテウスは公正な組織だから、バステトとしての私の協力を拒むのはあり得ないでしょう?

 でも私は公務員にしてはかなり大きな裁量権を与えられているから、逆に米帝に不利益になる決定でも躊躇わないわよ」


 最近のシンは、個人的に親しくなった大統領(アンジー)直属としてかなり便利に使われているように見える。

 キャスパーはその辺りの事情を、二人きりで居る良い機会なのでユウに指摘したのだろう。


「今の大統領(アンジー)は立派な人だから、米帝流(アメリカンウエイ)をゴリ押しするような事は無いでしょ。

 でも彼女の任期はたった8年(2期)だからね。

 プロメテウスは超大国に敵対するつもりは無いけど、おかしな人が大統領になったらビジネス以外の関係で協力するつもりは無いしね」


 ユウは突き抜けるように青い空を、肩を寄せてくるキャスパーと一緒に静かに眺めている。


「どこの惑星でも、歴史は繰り返されるのかなぁ……。

 オブザーバーっていう立場も辛いわね」


 かなりシリアスなキャスパーの台詞なのだが、お握りを頬張りながらだとそう聞こえないのが不思議である。


「……ああっ!いつの間に!」


 ユウが空を見上げている間に、いつの間にかバスケットは付け合せのお新香を含めて空になっていた。

 キャスパーは一人で大ぶりのお握りを10個以上も平らげてしまったようだ。


「ふふふっ、ご馳走様でした!

 美味しかったぁ」


(うちのマリーと同じで、どこに食べたものが消えてるのか謎だな)


 マリーと一緒に見ていたテレビでも、フードファイターの女性は食後には妊婦のようなウエストになっていたのをユウははっきりと覚えている。

 食後にも関わらず全くスリムなままのキャスパーを見て、ユウは首を傾げるしか無かったのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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