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044.Another Night

残念ながら新年スペシャルを書く余裕がありませんでしたので、通常の更新になりますm(__)m

 シンは数分後にはコテージの玄関前に到着したが、遅れてユウもほぼ同じ場所に出現する。

 シンはエイミーのお陰で出発までに時間が掛からなかったが、移動(ジャンプ)に要する時間はユウの方が遥かに短い。

 よって結果的には、二人はほぼ同じタイミングで到着したのである。


「あれっ、ユウさん随分と早かったですね」

 玄関の三和土(たたき)でニホン式に靴を脱ぎながら、シンは数秒遅れてドアを開けたユウに気がつく。


「うん。丁度キッチンで冷蔵庫の片づけをやってる最中だったから」

 ユウは、Tokyoオフィスで普段履きにしているサンダルを脱ぎながら応える。

 両手に持っているトートバックには、大量の料理が詰め込まれているのだろう。


 勿体無い(MOTTAINAI)精神が浸透しているCongohでは、余りものの食材や料理を無駄に廃棄するという事はあり得ない。

 だがマリーの業務による突発的な不在が起きると、それだけで冷蔵庫が満杯になってしまうのである。

 いったん大量の余りものが出てしまうと、調理のローテーションを変更したとしても食材のロスをゼロにするのはとても難しい。

 よって食材管理の担当であるユウは、常に目を光らせておく必要が出てくるのである。


「こんばんは!料理は此処に広げちゃうね」

 挨拶もそこそこに、シンとユウはローテーブルに向かう。


「いらっしゃい!

 お二方も居ることですし、準備をしながら業務についてミーティングをしましょうか」

 掘り炬燵になっているロー・テーブルに二人が料理を並べているのを見ながら、ソラが切り出す。


「ああ、ジャンプが可能なメンツが揃いましたからね。

 飲みながら仕事の話をするのは無粋だし」

 シンが持参したのは、冷蔵庫に入っていた日持ちする常備菜やエイミーが研鑽のために試作した料理である。

 彼女はニホン食を作り慣れているので、どちらかと言えば繊細な味付けの料理が殆どである。


「私はシン君のお陰でほとんどの拠点の場所を覚えたけど、欧州方面にはあんまり土地勘が無いかなぁ」

 ユウが持参したのは、前日の余りものである大量の焼き餃子やピッザ、作り置きしてあった稲荷寿司などである。

 時間があれば万人に喜ばれる握り寿司を持参出来るのだが、さすがに急遽の呼び出しに対応する事は不可能である。


「ソラさんが初回で場所を覚えるには、僕が横抱きで連れて行けば問題無いんですよね?

 でもロシアに関しては、僕とユウさんより詳しいのでは?」


 料理を並べ終えたシンは、以前の滞在時に入れてあったビールを冷蔵庫から取り出す。

 あれからトーコが一本取り出しただけで、ニホン製のビールはまだ数本が庫内に残っている。


「モスクワみたいな大都市はともかく、後は空軍基地とか軍需工場ばかりですからね。

 かなり偏りが大きいかも知れません」

 ソラはキッチンのキャビネットに入っていた、新しいボトルを食卓に並べている。

 オールド●ォレスターはユウが愛飲している銘柄だが、キッチンに在庫があるという事は同好の士がこの島にも居るのだろう。


 ここでソラから連絡を受けていたアイラが、コテージに姿を見せる。


「おおっ、豪勢なメンバーと美味しそうなつまみが揃っているね。

 仕事の話題はさっさと終わらせて、ニホンの味を堪能させて欲しいな!」


 ⁎⁎⁎⁎⁎⁎


「シン、トーコちゃんにまだ手を出してないのかい?

 生殺しは可愛そうだよ!」

 トーコ本人はすぐ横のソファですやすやと熟睡中だが、まったく目を覚ます気配が無い。

 今のアイラの一言を聞いたなら、恥ずかしさで失神してしまうかも知れないが。


 アイラは綺麗な箸使いで、餃子を酢だけを垂らした小皿に入れて食べている。

 点心では無いニホンスタイルの焼き餃子を食べ慣れているという事は、ニホン料理にも十分な知識があるのだろう。

 彼女は普段お目にかかれないメニューを、美味しいを連発してしっかりと堪能しているようである。


「……アイラさん、トーコは漸く混浴ができるようになったばかりですから。

 それに彼女は、まだ子供を産める年齢じゃないでしょ?」

 シンは強い酒が好きではないので、冷蔵庫にあったラガー・ビールを続けて飲んでいる。

 この島には補充の問題でビールサーバーが設置出来ないのは、離島の悲しい現実なのである。


「まあね。

 ところでユウ君、この餃子は冷めてる割には美味しいね!」


「既製品なんですけど、Tokyoオフィスでは定番の品なんですよ。

 マリーも大好物なんで、いつでも大量にストックしてあるんです」

 ユウの手元にあるグラスに入っているのは、ソラに作って貰ったオンザロックである。

 彼女はアルコールに強いので、かなりの量を飲んでも表情には出てこないのである。


「ふう~ん、これって定期配送便で注文できるの?」


「ええ。今では注文リストに載るようになりましたから。

 ねぇシン君、子供が出来た時のことまでもう考えてるの?」


「ええ。僕は大勢の家族が欲しいので、まずそれを考えちゃいますね。

 それに育児に関しても知識や経験がありますから、できれば手元に置いて僕が育てたいと思ってます」

 シンは日頃食べる機会が少ない、ビッザを美味しそうに頬張っている。

 Tokyoオフィスと違って、寮のキッチンの調理器具ではこれほどの焼き上がりのピッザを作ることは不可能なのである。

 厚めの皮が香ばしく焼きあがったミラノ風のピッザは、言うまでもなくアンの大好物でもある。 


「なるほど。

 家族と言えば、こうしてお二人が並んでるとなんかそっくりという感じがしますね」

 ユウはアイラとシンが並んでいる様子を、成る程納得したという表情で見ている。


「そう?

 ユウ君とアイの方が、似ていると思うけどね」


「ああ、それは良くわかりますよ。

 最近はアイさんと一緒に居る時間が長いから、なんか二人を間違えそうになりますもの。

 ユウさんこれって、(ひや)で飲んでも大丈夫ですか?」

 冷蔵庫にあったラガー・ビールが無くなったので、シンは冷蔵庫のドアポケットに入っていたニホン酒の飲み方をユウに尋ねている。


「その『千寿』なら常温でも、(ひや)でも美味しく飲めると思うよ。

 ……それで容姿については私にはニホン人の血が入ってるから、そんなに似てないと思いますけど」


「ユウ君は、服装で大きく印象が変わるからな」

 含み笑いをしながら、ユウに向けてアイラが呟く。


「もしかして、あの恥ずかしいドレス姿の写真を見ちゃったんですか?」


「メンバー紹介のライブラリに、載ってるのを知らなかったのかい?

 あのティアラをしたドレス姿は、凛々しいってとっても評判が良いみたいだよ」


「えっ、それって僕は見たことがないですよ」

 シンはロックアイスを使って新しいグラスを冷やした後、四合瓶(しごうびん)から静かにグラスに注いでいく。

 そのグラスを黙ってアイラの前に置くと、今度は自分のグラスにも澄んだニホン酒を静かに注いでいく。


「いやいや、あれは態々見る必要は無いって!」


「ユウさんのスカート姿すら見たことがありませんからね。

 今度ソラさんに頼んで見せて貰いましょうか」


「……」


「これは手の込んだコンビーフだなぁ。

 何か挟むものはあるかい?」

 タッパウエアに入ったままの手作りコンビーフは、ほぐさずに肉塊のままである。


「ああ、近所でテイクアウトしたパンドゥーミがありますよ」

 ソラは各種のつまみを、少量ずつ口に入れている。

 まだ味覚について発達途上の彼女は、食感がある食べ物が好みなのだろう。


「それはアイさんの助言で、スパイスの配合を変えて作った分ですね。

 ちょっと味に独特の風味があるんで、パンに挟むには良いかも知れませんね」


「シン君は母さんに気に入られてるものね。

 息子が欲しいって、何度か聞いたことがあるし」


 ここで熟睡していたクーメルが目を覚まし、まっしぐらにユウの膝を目がけてやってくる。

 以前この島でお世話になったのを、忘れていなかったのだろう。


「へぇっ、大分成長したね。

 小さい頃のピートと、驚くほどそっくりだな」

 膝の上で伸びをしているクーメルのお腹を撫でまわしながら、ユウは呟く。

 いまだにクーメルに避けられているシンは、珍しく羨ましそうな表情を見せている。


 クーメルは一(しき)りユウに甘えた後、小皿に取り分けてもらったコーンビーフを食べ始める。

 寮ではシンが仕込んだ薄味のコーンビーフを食べ慣れているので、香辛料にも特に違和感を感じていないようだ。


「まぁ私を含めて、シン君を息子のように思っているメンバーは沢山いるからな。

 そういうメンバーは人畜無害だから、特に問題は無いんだが」


「……なんかキナ臭い話題になってきましたね」


「おおっ、このモチコ・チキン美味しいじゃないか!

 まるでハワイに居るような気分になってくるな」


「これも母さん直伝ですから、Tokyoオフィスでも定番メニューになってますね。

前回の滞在の時には聞かなかったんですけど、アイラさんって普段の食事はどんな感じなんですか?」


「メトセラは昔も今も、食事を大切に考えているからね。

 この島では朝食以外の外食は不可能だから、もちろん自分で作っているよ」


「やっぱりイタリア料理みたいな、レパートリーなんですか?」


「そうだなぁ、私の場合はやっぱりパスタ料理が多いかな。

 あっそうそう、ピアは毎日白米を炊飯器で炊いてるみたいだけどね」


「残念ながら、その方とは面識がありませんけど。

 たぶん僕は会った事がありませんよね?」


「ああ、彼女の仕事の性格上、たぶん顔を合わせたことはない筈だね」



「……それでシン君は騙し討ちで、検体を採られちゃったんだって?」


「ユウさん、恥ずかしいのでその話はオフレコにして下さいよ。

 あの、校長先生とかレイさんとか他にもメトセラの男性は居ると思うんですけど?」


「古い世代同士だと、ちょっと問題があるんだよね」


「???」


「メトセラの女性陣を見ていて、気が付かないかい?

 特に司令官クラスの女性は、姉妹だと言って良いほど似てるだろう?」


「でもユウさんみたいに、父親がメトセラでは無い方も居ると思いますけど?」


「ユウ君の父親みたいな、英雄体質(ヒーローライク)な男性はそうは見つからないだろうね。

 多様性という点から見れば、ぜひ検体を提供して欲しいけれど」


「アイラさんは、父をご存じなんでしょうか?」


「もちろん!

 私はパイロットじゃないけど、当時はカーメリに常駐してたからね」


 熟睡するトーコを尻目に、一同は夜明けまで雑談で大いに盛り上がったのであった。



                 ☆



 数日後。

 迎えに来たシンの目の前で、トーコはここ数日で親しくなったアイラに挨拶をしている。


「トーコちゃん、此処は気に入ったかな?」


「はい。穏やかでとっても住みやすい場所ですね」


「2週間の滞在だったけど、ちょっと体型が変わったかな?」


「はい。体重は変わってませんけど、ジーンズのウエストがかなり緩くなりました」


「寮にもトレッドミルがあるって聞いてるし、Tokyoオフィスには室内プールもあるんだろ?」


「はい。できるだけトレーニングは続けたいと思います。

 なによりご飯が美味しく食べられるんで」


「トーコさん、来た時よりも倍は食べるようになりましたね」


「望めば何でもあるけど、何も無い場所っていうのも面白いだろ?」


「ええ。

 押し付けがましい事が何も無いのが、快適さの大きな理由なんですね」


「君はシン君の家族だから、いつでも移住してきても構わないよ。

 もし君が望めばだけどね」


「将来的には良いかも知れませんが、今はTokyoの生活に満足してますから。

 クーメル、ここは貴方の生まれ故郷なんだから、残っても良いのよ?」


「みゃ??」

 しっかりとトーコの肩にしがみつくクーメルは、まるで発言の意味を理解しているように見える。


「ふふふっ、すっかりクーメルのお母さんになってるみたいだね」


「動物嫌いだったんですけど、この子とシリウスのお陰でだいぶ心境がかわったみたいです」


「今度Tokyoに行った時は、トレーニングを続けてるかどうかチェックしに行くから」


「ええ、ぜひいらして下さい。

 あと、ピアさんにも宜しく伝えて貰えますか?」


「ああ、彼女はこの島にずっと住んでるわけじゃないから。

 顔見世もしたから、今度はTokyoで会う機会があるかも知れないね」


 意味深に笑うアイラの一言に、なぜか不吉な予感がするトーコなのであった。

お読みいただきありがとうございます。

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