再会
方向がやばい方向に行っている気が……しなくもない
さて、困った。高校生活初日。と言うより受験して受かった高校は中高大一貫校ということで敷地面積が異様に広い。どうしてここまで広いのか。ほんと呆れる。で、だ。言いたいことは迷ったということだ。
白都学園が出してある地図アプリをダウンロードし、校内情報から目的の場所を探しているのだが、まったくもって、
「わからん」
校内に居るのは確かだ。横にずらっと教室が並び、元々同じ学校、エスカレーター組と言うことでクラスの雰囲気は新年度一年生とは思えない。
すれ違う生徒がこっちをじろじろ見たりするのを気にはせず探す。
一応クラスはもう決まっているようでそこに行けばいいのだが、外部受験の俺には勝手がわからん。
「……マジわかんねぇ」
「――ト」
「ん?」
なにか呼ばれたような気がしたが如何せん人数が多い。勘違いかもしれない。なのでスルーする。
「……ラト」
ラット? 実験動物の1種。野生のドブネズミを改良して作られた実験用の飼養変種。愛玩動物として飼われることもある。英語のラットは、ハツカネズミなどの小型ネズミ類を表マウスに対して、クマネズミ属をはじめとする比較的大型のネズミ類を指すが、日本語の「ラット」は上記の意味で用いられることが多い。逆に、動物実験関連以外の翻訳文献で「ラット」と訳されているのはしばしば、クマネズミ属の総称のことがある。
とつい、ウィキさん情報が頭の中に……。
「ソラトっ!」
「グヘボリフブフッ!」
後ろから何かに突撃された。まるでバベルの大砲スキルを喰らったかのような衝撃。そのくらいの痛みが背中に走った。その原因を見る。
「ん、あ?」
怒ったとかそう言うわけじゃない。
ただ、可愛らしい小動物を思わせる顔と身長。それが上目づかいでこちらを見ているのだ。
「ソラトォ……」
またもや俺の名を呼ぶ。潤んでいるのはなぜだろうか? 第一になぜ俺の名を知っているのか? 実は俺は有名人? ……んなわけないか。
「えっと……誰?」
失礼だが、ほんと知らないので訊くことにした。
周りの視線が痛くてすぐにニゲタイトカジャナイデスヨ?
「お、覚えてないの?」
「ほ、ほんと覚えてないっす」
「そ、そうだよね。向こうでしか会ったことないもんね」
向こう? ってどこだ。前世的なあれ? ならこの子……重度の中二病患者かっ!
「向こうじゃ『ラキ』って名前だよ」
ラキ、どこかで聞いた事があるような…………、
「バベルかっ」
「ッ!、うん、うん。そうだよ」
なんかすんげぇ涙目なんですけど? 悪い事何時しました、俺。
「えっと……何で分かった?」
「だって、ソラトだもん」
いや、分かりませんよ。まあビジュアルはほぼ一緒だけど、後ろ姿でわかるか、普通?
「さっきすれ違った時に……気づいてすぐに……」
といきなり照れ出す始末。彼女は何と言うか表情や感情が豊かな傾向がある。
さて、そろそろ本気で、周りの目が痛い。ええ、もう逃げたいですよ。
「ん、そういや、名前知らねえ」
「あ、ごめんっ。私は、榎内綺羅。キラって呼んでね、ソラト」
「……それゲーム名のままだよな? まあリアルもまんま空斗って言うが」
「そうなんだ、……良かった」
良かった? なにがだ? ……分からん
「なあ、キラ。高等部1年7組ってどこにあるんだ?」
時間が推していることに気づき本題を出した。
「えっとね、ここから少し遠いから一緒に行く。いい?」
願ったり叶ったり。なんて訳なく、周りの敵視が半端ない。
「お、おう。頼む」
「ソラトここはね、中等部党だから、高等部は向こうなんだよ」
と敷地内を歩きながら説明してくれた。
そら、地図の意味が無いわな。
んで、だ。無駄にでかい。確かに各学年1000人近いそれを中高大一貫となると、まあ。考えたくもない人数を一つの場所に押しこめてる。必然的に大きくなるにしろ、もう少し効率を考えてほしいものだ。
こうして、敷地内を歩くにしても各所に行くのに100m以上ある。場所によっちゃあ、渡り廊下とかあるようだが……。
「それにしても……どうにかならないのか、これ。広すぎるだろ?」
「アハハハ。最初来たときはそうなるよね。でも、各分野に精通する人材を一括、一貫して育てるとなると、こうなっちゃうんだよ」
「なるほど」
「ソラトは何科なの?」
「んーとな、ゲーム学科だったけな?」
「私と一緒だっ。来年一緒になれるねっ!」
歓喜したように声を上げる。ほんと感情豊かだね。
しかし、気になることもあがった。
「ん? どうしてだ? 中等部に居たから中学、来年ってことで3年ってのは分かった。でも学年違うだろ? それとも俺が留年すると読んでるのかっ?!」
「そんなことないよっ。……白都学園は学年通して協調性を鍛えることを目的としてて特殊学科系統には3学年通して行う合同授業とかがあるんだよ。それで、ゲーム学科だと、3学年を含めたグループを作って自主製作ゲームを作るんだ。それで……」
「それで、あわよくば俺と一緒の班になると?」
「そして、『あ、そこはこうやるんだよ』『あ、ありがとう』『お前のためだよ』『そんな、ソラト』『キラ』……って、ハっ!」
「すまんが、お前思った以上に情緒不安定か妄想癖か馬鹿だろ?」
「う、うう、ソラトは私と組むの嫌なの?」
こいつ自分が馬鹿にされてるの受け入れているのか? すげえ疑問だ。
「いや、実力があるなら組みたいな」
「任せて、プログラミングなら中等部1位だよっ!」
「それは心強いな。因みに俺は脚本とシステム案専攻だったな」
「ソラトと私での共同――」
「班だから他にも組むだろうが」
突っ込みを入れつつやっとのことで高等部に着いた。
「ありがとな、キラ。助かったよ」
「大丈夫なの? まだ案内するよ?」
「さすがにこれ以上は迷惑かけられないからな」
「迷惑じゃ」
「なら、時間見ろよ?」
時計を指さすとキラは慌てる。無理もない。後10分でHRが始まるのだ。
バイバイ、と大きく手を振ると走って中等部に帰っていく。
「さて、とここからか、地図は頭ん中あるしあの通りいけばいいか」
地図通りに進めば迷うことはなく目的の場所。1年7組の教室に着いた。
前の扉から入り窓際の一番前の席へと座る。苗字が天見なせいで大体一番になってしまう。今回もそうだ。それと驚いたのがクラスは各学科織り交ぜられているようでこれも協調性の一環ということらしい。
友達作りとかにはいいのかもしれいが、いかんせん、クラス内の空気はほぼ確立されている。軽く見たところでボッチなんて俺くらいのようだ。あ、いや。本読んでるやつかは少々いるが。
俺はどうしようかと、ということでバックから紙媒体の書籍で文庫サイズ、中には挿絵があるもの。古くから親しまれてきたライトノベルに読み耽ることにした。
10数ページ進んだところでチャイムが鳴り、教師が教室に入ってくる。
「よーし、お前らショートホームルーム始めるぞ」
きつめの目だがスタイルの良い美人めの先生がそう言うと、
「またせんせーですかー」
「飽きましたよー」
とそこらから飛び交う。
去年受け持った生徒なのだろう。
「うるさい。黙ってろ」
低いハスキーヴォイスで俺はビビったがその注意された生徒たちは全然だった。もう慣れたというべきなのか定かではないにしろ肝は座っている。
「へーへー」
「では高等部となったということで自己紹介をしてもらう。一番天見」
展開早いな、とか思いつつ、立つと後ろを向く。
「外部受験で入りました。天見空斗と言います。1年間よろしくお願いします」
とぺこりと頭を下げる。
顔を上げると何故かひそひそ話が展開されている。やはり外部受験は珍しいのだろうか? 噂話が好きな女子がその傾向が多い。
値踏みするかのような視線も感じられるが、俺は1人の生徒がずっとこちらを見ていることに気付いた。
その顔は俺も良く知る人物だった。彼女は俺が見たことに気付くと能面のような無表情だったものを少し口角を上げ、目を細め、微かな笑みを浮かべる。
だが何のリアクションもする暇もなく次へと流された。
俺の頭の中は恐ろしいほど動き回っている。何故彼女がここに居るのだろうか? 何故同じクラスなのだろうか? 何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。――何故別れたであろう元彼女がこの市にいるんだ。
思考が脳内を埋め尽くし爆発寸前でHRが終わった。次の授業まで15分あるようで準備の為にバックからタブレットと筆箱、メモを持ち立つ。
「……空斗」
その声と同時くらいだろうか、俺の唇に熱く柔らかいものが触れ、鼻孔にかかる本物の甘い香り。背に触れる暖かく柔らかい何か。胸にはこう、マシュマロの様な柔らかくも大きなたわわに実ったメロンが2つ押しつぶされるように存在した。
当然のごとく驚き、目を瞬かせる。思考停止、とはこのことなのだろう。目の前に居るものが分かっているのに、解らない。何されているのかも分かっているのに理解できない、できていない。周りがどうなっているのかも分かるはずなのに解らない。
「……ハァ、久しぶり」
そう言った何かは指を自らの口元に這わすと丹念に舐める。頬を染めているが表情がないため怖い。
「なん、でお前がいるんだよ――涼葉」