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プロローグ4

 本当に俺要るのか……。そんなことがここ30分ずっと俺の頭の中をグルグルと周っている。それは目の前で広がる光景のせいと言ってもいいだろう。

 夜桜さんとミオリ、陽、亜紀が仲睦まじく談笑をしている。会って間もないというのにここまで意気投合するのは女子という生き物特有なのだ、と思う。

 さらに場所が場所だ。ポップでキュートな装飾に周りで和気藹々と喋る女子プレイヤー達。所謂女子がよく立ち寄る喫茶店といったところだ。俺の目の前にもメニュー表で450と書かれた、ただの珈琲のようなものがある。香りや味は確かに良いものだ。だがデータ。そのため450ベリーも払って飲みたいとは思わない。

「――ソラト君もそう思うよね?」

 陽が話を振ってきたので相槌を打つ。それに満足したのかまた談笑に戻る。

 カップを取り珈琲に一口付ける。やはり味も香りも良いのだが、いかんせんデータと思うとあまり美味しいと思えなくなる。

「ご注文のキングパフェをお持ちしました」

 店員のプレイヤーがすごく大きいグラスに入ったパフェと呼ぶに似つかわしくないただの糖分の塊がドンッと置かれた。

 どんだけあんだよ……。異様な質量だろ。これを4人で食うのか……女子すげぇ。

 決して自分を入れないあたり正解だと思う。いや正しいな、うん。

「ほな、食べまひょ」

 夜桜さんの掛け声と共に女子達はスプーンを手に食べ進めていく。見る見るうちに減っていくキングなパフェ。隠しステータスで本当に女子プレイヤーには別腹設定とか満腹設定とか弄られてるんじゃないか? 

「ソラトはんもたべまひょ?」

「い、いや。いいですよ」

 見てるだけでお腹一杯になります、はい。

「美味しいのにね」

「ほんとです。これを食べないなんて可哀想です」

 すごい言われようだ……。

 だがこんなことでへこむほどやわでは無い。笑って誤魔化し、珈琲に再度口を付ける。今だけは美味しいと思えたのはなぜだろうか? 

 そして彼女たちは俺をまた忘れ食べ進める。その表情がなんとも幸せそうで乾いた笑いしか出てこない。

 ふと意識的に視界の右隅を見ると時計は11:30と表記されていた。

「今さらだが11時半。明日学校なんだけど、皆は大丈夫なのか?」

「え? ぇええええ。も、もうそんな時間なんですか」

 他のメンバーも現在の時間に驚き、急いでパフェを食す。なんでパフェを残す気が無いのかは不明だ。まぁ割り勘で支払うようだし、そこを踏まえればしょうがないことだろう。と割り切った――のが間違いだった。

 なんと全ての勘定は俺もちとなっていたのだ。そら、残すわけないわな、と思ってしまった。何せ他人の奢った飯ほど美味い物は無いと自分も理解していたから。


 そんなこんなでマイホームにたどり着くころにはヘロヘロだった。

 何故ホームかというとログアウトするさいに最も安心できるからだ。

「で、だ。なんでお前が俺の領地内に居るのかな~~」

 機嫌が悪いのを前面に出して後ろの奴に言う。

「あらら~。ばれてました??」

「ばれてるよ……ハァ~。お前ほんとなぁ」

「久しぶりだね~。ソラトっち」

「スルーかよ。まぁいい。んで、マウスはなんのようなんだ?」

 振り向き呆れた度満々に出し訊く。相変わらずの格好だった。150後半の身長に膝上15~20ぐらいのスカート、上着はブレザーの様な服装で装飾が目につく。もう学生じゃないのかって姿だ。

 だがこいつは人前にほとんど現れることが無い。と言うのも、こいつの持つスキルで視認不可が掛かっている。俺の持つ『心眼』等の認識強化系スキルが無いと無理なのだ。唯一人目に現れるのは商店などだけ、しかもその際はフードをかぶり目元まで隠している。

 だからこうしてちゃんと全貌を見れるプレイヤーは数少ない。

「いや~、ソラトっちの復活おめでと、ってことで今なら3つまで情報をタダであげちゃうよん?」

 こいつは前々から変わらない。バベルの表裏の情報を持っている。把握していない情報は無いのではないかというほど。

 ただ金さえ積めばどんな情報も売る。だからリアル割れなんてざらに出来る。

 それくらい危険な奴だが、先のスキル、敏捷性トップクラス、その他もろもろで掴むことが出来ない。誰もこいつを殺れない。

 だがこいつが殺ることはある。それくらい実力がある。情報屋としてもPKとしても一流。

「今はどこで匿ってもらってる?」

「それは情報かな?」

「ただの話題提供だ。情報売買じゃねえよ」

「んー、まあいいや。久しぶりにソラトっちに会ったし誘導尋問でも話題と言うなのタダ食いも許しちゃうよん」

 やはり、掴めない。掴ませない。見た目が反映されるゲームなのにこいつの年は見た目以上のものを感じさせる。

「で?」

「無勢力。ギルド『LOOT』」

「……略奪者。また物騒なギルドにいるな」

「ふふ、心配でもしてくれてるのかなん?」

「心配なんて不要だろ。いつでも抜けれるお前だけのスキルがあるだろうし」

 そう。こいつはどんなところに所属しても何時か居ない。そして居なくなった数日に潰れる。ゲーム内かリアルかはマウスの気分次第。それを可能とする力。

「で、いつも思うがどうして俺なんかに近づく?」

「これも話題かなん?」

「ああ」

「それは興味があるからだよん」

 いつのまにか後ろを取られる。攻撃意思のない接触は可能。それを利用し俺の二の腕、肩、うなじ、鎖骨、首元、首、耳、顎、頬、唇を順にナメクジの様に、ゆっくりと這う様に艶めかしく、触れていく。

 麻痺にかかった様に動けない俺。いや、掛かっていた。手の上に付けた短い刃、指の延長10cm程度の長さ。それが痛みを感じさせず首の横に刺さっていた。

 おかしい。なぜ攻撃が出来ている。俺のプライベートエリアだ。攻撃は不可にしてある。

「なんで、って顔だねん?」

 何とか動かせる目線を武器からマウスに向ける。

「攻撃意思が無いから、これは偶然当たった、そういうことだよん」

 わざと、そうやってシステムを騙すのか、やっぱり、たかがシステム。

 そして、よく見ればマウスの武器は神器だった。初めて見たこいつの得物、『フュンユ』。スキルを使いプロパティを閲覧。…………嘘だろっ!? 状態異常率100%。状態異常効果2倍。何の冗談だ!?

 ――――いや、やはり代償があったか。攻撃力0。……だから痛覚反応が無かったのか。これは代償をじゃなく、もうプラス要素じゃねえか。

「ああ~、やっぱりいい匂い」

 鼻を俺の髪から首にかけ押し付けにおう。目は恍惚としている。

「味も良いっ」

 今度は鎖骨から首を丹念に舐める。その跡は光に反射し濃艶さを出す。マウスの鼻息はさらに上がり、興奮状態と言ってもいいくらいだ。

「もう下の方は現実じゃあ濡れてるねぇん。……あぁ~、あぁあ~~」

 狂ってる。そうとしか言いようのない行為を繰り返す。

 と、ここで状態異常は緩和されてきた。長時間の状態異常には抵抗が出来てくる。そういうシステムが組まれているため、麻痺のデバフも掛かってはいるが薄くなってくる。じょじょに舌お痺れが取れてきた。

「て、て、めぇ。い、いいか、げん、に、しろ、よ」

 片言になりつつも言い切る。

「あ~あ。もう効果が切れてきちゃったのねぇ」

 そういうと武器を俺の首から抜く。

「あ、情報はまた今度教えてあげるねん」

 そう言うと黒い影の様になり消えて行った。

 掴まさせない本性。それは口調を変え、態度を変え、様々に変わりゆく姿。もしかしたらこれがこいつの本性なのかもしれない。そう思うと寒気がする。こいつの人格を形成するものは一体なんなのかと。現実じゃどうなっているのかと。

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