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プロローグ3

「やっと着いたか」

 ようやく着いた『蒼の国』ブラウは自然と建築物が入り混じった見るも美しい街だ。今は季節が春ということで街道の脇には桜やハナモモの他にもいろんな花が咲き乱れている。久しぶりに見るその光景に目移りしていると目の前から来るプレイヤーに気付かなかった。

「……っと、うぉ、ッ?!」

 顔に何か弾力のあるものが触れ、一気に後頭部から何かに押され、柔らかく気持ちいいのだが身動きが取れない。まるで麻痺に掛かったかのようだ。

「あらあら、どこの山猿かと思えば、ソラトはんやないですの」

 その声を聞いたことで誰か判別できた。

「そ、その豊満なお胸をお持ちなのは夜桜さんですね」

 なんとか口を動かし呼びかける。

「あ、あんっ。くすぐったいやないですの。悪い子にはお仕置きや」

「うぅううぐぅぉおお」

 さらに押しつぶされるように顔が埋まっていく。とうとう呼吸が出来ず、視界隅になんとか見えるHPバーが徐々に減っているのが分かった。

「あんっ、あぁ」

 耳から入る夜桜さんの艶めかしい声が顔を真っ赤にしてるのが感じ取れる。

「ほ、ほんま、ソラトはんっ、は助平ぇやっ、なぁ」

「ほほへはほはふははんほっ」

 そろそろHPが7割を切ったあたりやばいと感じだした頃、助けが入った。

「夜桜姐さん。その人死んじゃいますよ」

「あらら。感動の再会やのに、それは困りはるわ」

 ようやく持続ダメージ攻撃おっぱいロックから解かれ呼吸ができる。 

「ぷはぁ……ありがとう。えっと」

「ミオリです」

 自己紹介をしてくれた少女にお礼を言うと改めて2人を見た。夜桜さんは相変わらず和装をモチーフとして着物を着崩し、豊かな胸が強調され、下はスリットが入っているため長い美脚がお披露目されている。その大人びた表情と合わさり妖艶な感じが見て取れる。

「ふむ、やっぱり美人だ」

「ふふ。口説かれるのも、わるありまへんな」

「夜桜さん、美人だし多いんじゃないの?」

「どうどうとそうやれはるのソラトはんだけやで」

「そうなのか」 

 うーむ、と唸り視線を隣りの少女に移す。夜桜さんと比べれば幼い顔立ちだが、少し吊り上がった目が年齢以上に見せ、少し控えめだが丁度いい胸を防具で包んでいる。そんな視線に気づき、胸元を隠すように手で覆う。

「……ッ」

 吊り上がった目がさらに上がり、不満を露わにしているのが分かる。

「あんまり、そんな視線送りはると、……お仕置きしはりますよ?」

「夜桜さんのは拷問って言う気が……」

 思いだし身震いする。これは何時の事か、ダチと女性プレイヤーにナンパをした時のことだ。それを見た夜桜さんにデバフを掛けられ身動きをできなくなり、どこかに連れていかれ、椅子に固定され――。

「何か言いはりましたか?」

「な、なんでもないです」

 口をつぐみ、誤魔化す。追及はされなかったので許してもらえたようだ。







      ------






 陽と亜紀は困っていた。目の前に複数の男プレイヤー達が立ちはだかっているからだ。下賤な笑みを浮かべてこちらを囲むように立つと1人の男が口を開いた。

「なぁ。その武器俺らに寄越してくんない?」

 目線で何を指しているのか気付き、太ももにあるホルスターを隠すように手で覆う。

「よく見たらこの2人可愛くね?」

「ギヒッヒ、俺も思った」

「その神器はもういいから、俺らと良いことしようぜ、な?」

 舐めるような視線を体中、360°すべての方向から感じ、鳥肌が立つ。

 要求も下品極まりないもの。だが何故、路地裏のような所に連れて行っておきながら襲って来ないのか、と疑問に思っていた。理由としてはセーフティー機能が働いているからだ。その機能は他プレイヤーが過度な人体的接触を試みようとした時、警告が表示され、それでも続けているとHPを一瞬で0にして、一定時期ゲームにログインできない様にする。ならどうやって? となる。それも機能設定を解除することでそういった行為が可能となってしまう。

「そ、そんなの、嫌に決まってますっ!」

 なんとか声を出来るだけ大きく発するも、男達は下品な笑いをさらにあげるだけ。

「無駄だぜ。そんな声出しても」

「なっ」

 助けを求めていた声だと悟られていたようで、それを否定されたとなると焦ってしまう。一歩二歩下がってしまうが後ろにも居ることに気づきすぐに振り向き亜紀の横に戻る。

 焦りに気づき、男達が身を詰めていく。セーフティ機能があると分かっていても恐怖を感じる。互いに身を守るように抱き合う。表情は引き攣り震えている。

「いいねいいね」

「お、これが百合ってやつかね」

「ギヒヒヒ、うまそうだね」


「おい、お前ら、そこまでにしとけよ。それ以上やると――――るぞ?」

 

 漆黒を身に纏った、身の丈ほどある大剣を背中に担いだ男が逆光の中立っていた。







 


           -----







「そういえば最近はどうなんです?」

「ん~。伝説レジェンド級、古代エンシェント級、幻想ヴィジョン級は6割方『朱の国うち』が確保してはるよ」

「は、はは。相変わらず。すごいですね」

 伝説級などは武器のレアリティを表す表記の事で、上から神器、伝説、古代、幻想……と続いていく。その中でも神器を除いた、高レア度の武器を1つの勢力で半分以上確保しているのは恐ろしいことだ。

「いやいや。ソラトはんの時より少しばかり増えたやけよ」 

「えっと……どういうことなんですか? 姐さん」

「知らへんのは無理へんな。ソラトはんは昔うちの王やっとった、人や」

 それを聞いたミオリは驚きの表情で見てくる。

「う、ウソっ!? 私とほとんど歳変わらないじゃないですか」

「うちが嘘つくとやて?」

「ち、違います。こんなに若いのに強いなんて思えなくて」

「そんなら、うちのスズはんも同い年でっしゃろ?」

「まぁまぁそんぐらいで許してやってくださいよ」

 そろそろやばいな、と思い口を挟むことにした。

「ソラトはんが言うならしょうがへんな」


『嫌に決まってますっ!』


 唐突に声が聞こえた。2人は気付いていないようだが、その声は何かを拒否しているのが分かる。見(聞き)過ごせるほど強くないため、

「ごめん、夜桜さん、ミオリ。ちょっと用事が出来たかも」

 と言うと声のした方に向かって走り出した。

 

 いくつかの曲がり角を曲がり直線を進み、露店でにぎわっている人ごみを縫う様に、這う様に一瞬で通っていく。そして声のした場所が視界に入ると野郎達が何かを囲う様に立っていた。よく見るとその何かは女子2人だ。

 明らかな猥褻行為。そこで気づいた、自分が愛剣に手を掛け、野郎達に忠告していることに。





 

      

        -----

 





「あぁ?」

「誰だよ、お前?」

「なに、王子様気取りかなんかすか?

「ギヒッヒ、アホだ」

 口々に暴言を吐いていくる。

 それを聞いても表情一つ変えない。そのせいだろう。じょじょに悪態を晒す。何と醜いことか。その視線を受けるのが嫌なためか抱き合いへたり込む少女2人を見る。少々怯えたのが感じとれる。

「無視すんじゃねぇよ!」

「殺すぞ、ごらぁ!」

「デュエルシステム起動」

 男達の視界に1つのウィンドウが浮かんだ。『ソラトからデュエルを申し込まれました。受けますか? YES/NO』と。それを確認した男達は他の仲間も同じように挑戦されていることが分かった。

「おいおい。こいつ、この人数を1人で相手しようとしてるぜ?」

「ギヒヒヒ、ヴァーカなんだよ」

 およそ、10人。それが男達の数だ。それに対してデュエルを申し込むソラトは1人。明確な戦力差が、数が、男達の理性を狂わす。

「良いぜ、やってろうぜ、なぁ?!」

 1人の声に賛同し、男達が一斉にYESを押した。

(こいつら……馬鹿だな) 

 ソラトは自分のスキルを用いて男達のステータスを見ていた。平均レベル80程度。装備武器も幻想級。これは10秒も掛からないと確信した。

 デュエルシステムが承認されると視界中央に数字が浮かび、減少していく。これが0となれば始まりだ。

 2……1……0。

 ――刹那。余裕があると思っていた男達は武器を出すこともせず、瞬きすら平気でしていた。それが命取りとなった。

 体が上半身、下半身で綺麗に別れ断面も寸分狂いないポリゴンの平面となっている。

「あ、れ?」

 男達がようやく気付いたのは動こうとした時に上半身が下半身から落ちたときだった。

「気づくのおせーよ」

 背中の革製のベルトに大剣を仕舞う。駆け抜けた先で振り向き、陽と亜紀に手を差し出すと2人は若干ながら躊躇するも目の前の少年は悪い奴でない、と判断しその手を掴み立ち上がる。

「大丈夫……だよな?」

 少女達を見て、無事かどうかを確認をした。

「ありがとうございますっ」

 陽が頭を下げ謝る。距離が近すぎたためソラトの顎に思いっきりぶつかる。

「ぐふっ」

 意表を突かれたものでソラトは口から声が漏れる。

「す、すすいません」

「だ、大丈夫だ」

 顎をさすり示すとまだ表情は固いが笑ってくれたようでソラトは安心した。隣の亜紀は口をあんぐりとし、今だ状況が分かっていない。

「えっと、その、あの……」

「あ、ごめんな。俺はソラト。一応古参プレイヤーってやつかな」

「私は陽。こっちが亜紀です。ソラトさん」

「ふむふむ」

「いきなりどこ行きはるんですか、ソラトはん」

 ソラトの後ろから声が聞こえ振り向くとミオリを連れた夜桜が来ていた。その恰好でどうやって追いかけてきたのかは不明だがミオリは息が乱れているのに対し夜桜は息切れ1つしていない。

 亜紀は今日2度目の驚きで目を見開いている。

「あ、朱の国、最強と名高い『メイデン』のサブマスター、夜桜さんじゃないですかっ」

 陽はキョトンとしていたが亜紀の台詞でゲーム初心者でも理解したようだ。

「ということはめっちゃ強いということだね」

「そこら辺のプレイヤーが束になっても勝てない人だよっ。しかも超美人さん」

「ほ、ほんとだーっ」

「あらあら、嬉しーこと言うてくれへんな」

 顔を近づけ見て回る2人を気にもせず夜桜は返す。しかも笑みを崩さない。

(やっぱり恐ろしい……)

「ほしてソラトはんはなんで急いでおいやしたんどすか?」

「ん、なんか『助けてー』的な声が聞こえたんだよ」

「ヒーロみたいじゃないですかっ!」

 陽が食いつき気味に夜桜に向けていた視線をソラトに向ける。他の女性陣も向けたためソラトは視線を空に向け照れ隠しをする。それを見て夜桜だけ含み笑いをするのは最もソラトの事を知っているからだろう。

「ん? どうしたんです、夜桜さん」

「いや、なんやてないわ。ちょいね。これさかい、おぶやてどない?」

「おぶやて?」

 陽が分からず聞き返すと夜桜は驚いたような表情を造る。

「お茶でも、ってこと。夜桜姐さんは京都人なんです」

 ミオリが訳し納得する2人は首肯し頭を縦に振る。

「行きます行きます」

 その間そーっと距離を取っていたソラトだが夜桜がうまいこと首根っこを掴み逃がさない。

「えーっと……まさか俺も?」

「そら当然よ」

 そうして女子4人+男子1人の集団が動き出した。





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